盲導犬の悲しい現実 制度に疑問の声
人間のために働かされる様々な動物がいますが、人間に利用される動物の実態はどれも悲惨です。JAVAはいかなる動物の使役にも反対しています。今回は、盲導犬のパピーウォーカーのボランティアをして、予想外の悲しい現実を知り、盲導犬制度に大きな疑問を持った佐藤まちえさんに盲導犬の一生についてご寄稿いただきました。
「私が見た盲導犬の一生」(佐藤まちえ)
我が家では人の役に立つと思い盲導犬のボランティアをしましたが、疑問や驚くことが多く、盲導犬制度についてあまりにも無知だったと後悔しました。気がつけば、私は今まで一度も楽しそうな盲導犬を見たことがありません。
◆次々に代わる飼い主
盲導犬は、せいぜい15年の短い一生に飼い主が最低5回も代わります。繁殖家庭で生まれ、パピーウォーカー家庭(団体に登録したボランティア家庭、以下PWと略す)で育ち、次は訓練を受ける盲導犬育成団体(犬の所有者)、4番目は盲導犬の使用者(いわゆるユーザー)、最後は現役引退後の引き取り先です。PWが途中で交代した例もあります。
盲導犬育成団体(以下団体と略す)は全国に11団体あり、それぞれに繁殖犬を何頭か所有し、計画的に交配・出産させ、生まれた子犬を盲導犬に育てています。
繁殖犬は雌雄別々にボランティア家庭で飼育されており、子犬は母犬のいる家庭で誕生し、授乳期は母犬と一緒に育ちます(この間、母子を自らの施設に連れ戻して育てる団体もあります)。現在盲導犬の犬種は主にラブラドール・レトリバーです。
生まれた子犬達は約50日後に母犬から離され、PWに1頭ずつ、約1年間預けられます。
PWになるには審査を伴うのが一般的ですが、無審査で事前の家庭訪問もなく契約書も交わさない団体があるのは驚きです(この団体では単身者のPWも可)。
PWの責務は、預かった犬を健康で人間好きな犬に育てることで、盲導犬としての訓練は要求されません。この先の運命を知らない子犬達にとって、家庭犬として過ごす一番幸福な期間です。なおこの間、多くの団体は定期的にPWと犬を招集し状況をチエックしますが、招集も訪問も全く行わない団体もあります。
◆過酷な訓練
犬は1才2ヶ月頃にPWから団体に戻され、盲導犬にするための訓練が開始されます。訓練法は各団体により多少異なりますが、多くの団体が提唱している「陽性訓練」(ほめて訓練する)でさえも、排泄の制限、鳴き・吠え・走り厳禁、人や犬とのスキンシップ禁止等、犬の本質否定に基づいています。なお犬を従わせるのに体罰を続ける団体もあります。走行中の車の直前に犬を無理やり引き出し、急ブレーキをかけて車の怖さを実感させるといった手荒な訓練を行なっている団体もあります。
訓練施設の状況も団体により様々ですが、運動場もなく、建物の1室にケージを2段積みして常時60頭もの犬を収容しているところもあります。この団体は訓練士が4名だけで、他は皆見習いだそうです。なお盲導犬の訓練士は国家資格ではなく、各団体が自己基準で認定しているものです。
訓練は2才過ぎ頃まで続きますが、訓練の過程で盲導犬に不向きと判断された犬は随時脱落していきます。最終的に盲導犬になるのは、多くても候補犬の3割以下なのです。
訓練中に脱落した犬達(いわゆるキャリアチェンジ犬)は、一般家庭に譲り渡され、その後は家庭犬としての生涯を送ります。一部は団体に残り、見学会などの広報活動に使われ、他には盲導犬より合格基準が緩い介助犬の候補として介助犬団体に譲渡されることもあります。
◆盲導犬と使用者
最終的に訓練に合格した犬は、団体がマッチングした盲導犬申請者(身障者手帳を所有する18才以上の視覚障害者)とペアで約4週間の宿泊訓練に入り、それが無事終了すれば、その視覚障害者のもとで盲導犬としての生活を始めます。
しかし短期間で気心が通じるわけはなく、使用者と盲導犬の呼吸が合うのには1年以上かかります。指示に従わない犬を「叩いたり蹴ったり」、排泄の後始末が面倒だから「水や食事は最低限に」といった誤った扱い方が独断で繰り返されることが虐待につながるのだと思います。
なお各団体は都道府県などの地方自治体と盲導犬育成の任意契約を結んでいるので、盲導犬を使用者に貸与すると(盲導犬は貸与が主流、1団体のみ譲渡)、使用者の住む地方自治体から、育成費として1頭につき約200万円が支給されます。貸与後に問題が生じても団体に育成費の返還義務はありません(譲渡の場合も同じ仕組みです)。
盲導犬は、中途失明した人に繰り返し貸与されるケースが非常に多いですが、使用者には育成費の負担はなく、盲導犬5頭目という使用者もいます。使用者の年齢に上限もなく、80代の男性に初めての盲導犬を渡し、それを自慢している団体もありました。また現役中に万一犬が死んでしまっても、使用者は希望すれば早急に次の犬が貸与されます。
◆盲導犬の寿命と生活
現役引退は10才前後が一般的で、引退後は引き取り先のボランティア家庭で余生を送ります。その際、PWが希望すれば犬をPWに戻す団体もあれば、逆にPWや使用者に引退後の行く先すら教えない団体もあります。なお大手の団体は、「老犬ホーム」のような施設を有し、一般家庭に譲渡できない引退犬を飼育しているようです。
昔から「盲導犬はストレスが多いので、同種の家庭犬より短命」と言われてきました。盲導犬業界はこれに反論していますが、容易に算出できるはずの盲導犬の具体的な寿命データすら公表していません。
それに問題は寿命の長短以上に生活の質なのです。「現役中でもハーネスを外せば家庭犬と同じ扱いをする」と主張していますが、実際は、室内でも短いリードで繋がれ、散歩も一切させない。「走らせる必要はない、食事は1日1回」と公言する団体もあり、とても家庭犬と同様の生活とは言えません。重く固いハーネスを背負っての仕事中は、排泄を我慢させるために飲み水も制限され、夏の日中に熱中症で倒れた例もあります。ラブラドールは特に暑さに弱いのに、夏でも毛が飛ばないよう全身を被う服や雨具を着せられています。肉球が焼けるほど熱い、真夏のアスファルト道路も歩けるように「犬に履かせる靴を作った」とホームページに載せた団体もあります。靴は脱げたり擦れたりで、盲導犬には不向きだし、犬にとって足の裏は大切な情報収集のセンサーです。そんな道を歩かせないですむよう人間側が配慮するのが先決のはずです。
一日の「労働時間」や使用形態も使用者任せでストレスは計り知れません。盲導犬の尻尾は殆ど下がったままです。犬は飼い主とのアイ・コンタクトが最重要と言われますが、使用者の目が見えない状況で、晴眼者でも苦労が多い大型犬のケアが十分にできるのでしょうか。使用者に家族がいても、盲導犬の世話は使用者自身が行うのが原則なのです。
2014年の夏に世間を騒がせた埼玉の盲導犬オスカー刺傷事件も、実は刺し傷ではなく皮膚病の一種で、使用者や周囲が気づかなかったのが原因でした。
盲導犬の引退を10才頃と規定する団体が多く、10才は人間の60才相当だから十分早いと主張していますが、ラブラドールのような大型犬にとって「10才はもっと高齢に当たる」が大方の一般の飼い主や関係者の実感だと思います。おまけに引退年齢の規定すらない団体では、13~14才まで現役を強いることもあります。引退後も、現役中のストレスやケアの怠慢によって、例えば長年狭いケージに入れられていたための大きな座りダコ、痩せすぎ、重病発覚、犬種本来の特性の欠如・回復不能等々、痛ましいケースが後を絶ちません。
◆結びにかえて
2012年1月に長崎で3才の現役盲導犬アトムが失踪する事件が起こり、アトムの歩きながらの失禁写真がネットにアップされ、アトムの使用者やアトムを所有する九州盲導犬協会の非常識な対応が問題視されました。しかし結局協会も、現地調査に赴いた主だった盲導犬団体が加入する連合団体(九州盲導犬協会も加入)も、何の責任も取らず、釈明もなく改善策も打ち出さなかったようで、アトムは今も行方不明のままです。
この事件を始め、ネットに上るケースは氷山の一角に過ぎず、盲導犬虐待通報は関係機関に頻繁に寄せられています。しかし盲導犬育成団体や関係官庁は、常に黙殺するかデマとしてもみ消し、マスコミも完全無視で、問題に対応してきませんでした。税金や善意の寄付に頼り、ボランティアを多用する制度なら、せめてこういった問題にも具体的な窓口を設け真摯に対処するべきです。
「犬はモノではなく命」という犬への思い入れからだけではなく、実際は希望者もごくわずかで、限られた視覚障害者しか使えず、非効率と不公平の極みである盲導犬制度が今後も必要なのか検証し、より広範囲の人が恩恵を受けられる、人間のガイドヘルパー制度の充実や歩行補助機器などの開発にもっと手厚い助成制度を設けてほしいです。どうか皆さんにも盲導犬に代わる方法について考え、その実現を応援していただけたらと思います。
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