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社会通念の変容に取り残されてはいけない 上げ馬神事から伝統行事の在り方を考える

 ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主の暮らしにとって身近な話題を法律の視点から解説します。今回は、ニュースやSNSでも度々取り上げられている「上げ馬神事」についてです。

突如大きな広がりを見せた

 三重県桑名市の多度大社で行われた「上げ馬神事」について、今年のゴールデンウィーク以降、SNS上の熱がなかなか冷めません。

 上げ馬神事については、20年以上前から動物愛護団体を中心に問題視されており、特にひどい取り扱いがされて刑事告発の動きがあったときは、一時的に報道もされていました。インターネットはもちろん、情報が拡散しやすいSNSも10年以上前から普及していましたが、率直に言って、上げ馬神事の問題は、これまでは社会的には必ずしも感心があるとはいえなかったテーマと思います。それが、コロナ明けの4年ぶりに開催された今年になって、突如として大きな広がりを見せていると感じます。

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 上げ馬神事で問題となっている動物は、いうまでもなく、馬です。また、島根県の牛舎で、従業員が乳牛を殴る蹴るした事件について、捜査・公判請求されました。さらに沖縄県では、海に放ったアヒルを競って捕まえる恒例行事に問題提起がされています。

 これらの馬、牛、鶏は、いずれも動物愛護管理法44条4項に定める「愛護動物」です。人の生活と近いところにいる動物として、人に占有されているか否かにかかわらず、殺傷や虐待などが刑罰をもって禁止され、それ以外の動物と比べて法律上強く保護されています。

 犬猫などのペットだけでなく、これまで「仕方がない」とされてきたかもしれない家畜動物の取り扱いについても、社会的に注目される機会が増えており、以前とは違う広がりを感じます。

時代とともに修正・変革が必要

 さて、上げ馬神事については、個人的にも、私が理事長をつとめるNPO法人どうぶつ弁護団にも、多くの情報が寄せられています。どうぶつ弁護団の内部での検討状況については、一切公開できませんので、ここでは、あくまでも私個人の考えという前提で、説明していきます。

 先日のコラムで、娯楽のための動物利用は、社会的必要性が高いとはいえず、動物福祉に反した取り扱いは、倫理的・社会的な問題に加え、ときに法律的な問題に発展することがあると指摘しました。

 今回の多度大社の上げ馬は、その年の豊作を占う神事であり、県の無形民俗文化財に指定され、地元で続いてきた大切な文化である。娯楽とは一線を画している。だから必要なことであり、これまでのやり方を変える必要はない。という考え方もあるかと思います。 

 ただ、必要性は、「ある」「なし」の二者択一ではなく、濃淡をもった程度問題であるかと思います。人の生活、営みのためにどこまで必要であるのか、必要性の大小との関係で、動物にどのような取り扱いまで許されるのかが検討されるべきです(但し、必要性が高い場合でも、何をしてもよいわけではないでしょう)。

 そして、この相関関係は、時代や場所によって固定化されたものではなく、少なくとも時代の変化によって、修正・変革が必要になることもあると考えます。これまで特に問題ないとされてきたことであっても、あるとき(多くの関係者にとっては突然)対応を余儀なくされるというのは、関係者にとっては悩ましい問題かもしれませんが、時代の変化に取り残されずその都度柔軟に対応していくというのは、動物の取り扱いに限らず、仕事や生活においても必要なことといえます。

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 今回の上げ馬については、興奮させたサラブレッドに、全速力で、ケガのリスクが高く(脚を負傷すれば馬を死亡させるしかない)急坂とそれに続く高い壁を駆け上がらせることは、馬を神社に奉納してその年の豊作を占うため、あるいは地域の交流といった目的との関係で、どこまで必要であるかについて、現代の社会通念を想像して検討される必要があるでしょう。

 言うまでもなく、馬のケガのリスクを少なくする方法は、端的にいえば生きた馬を使わないことであり(五穀豊穣や安全祈願であれば、古来から、土馬や絵馬を奉納する方法があります)、馬を使うにしても、今年の猪名部神社で行われたような、坂を駆け上がらせず、練り歩きの方法もあるでしょう。

 そのような選択肢がある中で、問題の本質的部分には変更を加えない判断をするのであれば、ときに馬の負傷や死亡することもやむを得ない、致し方ないと考えているのだろうという一定の社会的批判は免れられないと思います。

動物に対する社会の認識は大きく変わった

 全国各地には、おそらく、こうした「伝統行事」が他にもあるのではないかと思います。本来的には、関係者が自主的に議論して、動物の取り扱いのあり方を検討し、見直していただくことが望ましいと考えています。一方で、内部にいればいるほど、問題が見えにくくなり、ともすれば外部の意見を軽んじてしまうこともあるように思います。地域外の動物・文化・法律などの専門家の意見を取り入れることも必要だろうと考えます。

 折しも今年は、動物愛護管理法(制定当初は動物保護管理法)の制定から50年を迎える年です。昭和48年の制定当時の国会でのやり取りを見ると、国会議員から、闘犬・闘牛といった「古来の伝統的行事」やハブとマングースを闘わせることについて、刑法35条の正当業務行為に該当し動物虐待とされないということでよいか、あるいは、罰金3万円について罰則が重いのではないかといった質疑が残っています。

 この時代の国会質疑を現代の感覚で批判することは意味がありません。当時の社会が同様であり、国会議員は全国民の代表として、多数の国民の声を代弁していたともいえます。

 動物に対する社会の認識はこの50年で大きく変わった、ということがよくわかる資料だと思います。

【前の回】法廷で被告人は何を語ったのか 長野県繁殖業者虐待事件~裁判傍聴記③

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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この連載について
おしえて、ペットの弁護士さん
細川敦史弁護士が、ペットの飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点からひもときます。
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