テレビや映画に登場する動物たち 制作現場において、動物福祉は守られている?
ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主の暮らしにとって身近な話題を法律の視点から解説します。今回は、テレビや映画における、動物の利用についての話です。
動物を利用し、恩恵を受ける私たち
私たち人間は、少なからず動物を利用し、その恩恵を受けて生きています。
およそ動物を利用することは問題だというと、社会が成り立たなくなってしまいますが、ひとくくりにはできないことであり、人の社会にとって必要性が高いものから必ずしもそうとはいえないものまで、いろいろな段階、濃淡があるといえるでしょう。
その中でも、人の娯楽のための動物利用は、比較的必要性が高いとはいえない類型と考えられ、動物本来の生態や習性にあわない方法で利用されている場合、倫理的・社会的に問題となり、場合によっては法律的な問題も生じます。実際によく問題となるのは、多くの人が目にする映像利用の場面であり、少し前にも、バラエティ報道番組で、ペンギンの水槽にタレントが故意に何度も落下し、面白おかしく放映したことがインターネット上で炎上しました。
今回は、動物を映像に利用することを中心に考えてみたいと思います。
海外における動物の映像利用
この種の問題は、日本に限りません。お隣の韓国でも、2022年に大河ドラマの撮影で、落馬シーンの演出をするために、馬の前脚にワイヤーを結んで走らせ、決まった場所でワイヤーを引っ張り、全速力で走っていた馬を転倒させたことが問題視されました。複数の動物保護団体がテレビ局の責任者を告発し、刑事事件として捜査もされました。
テレビ局の対応として、直ちに、危険な撮影シーンではCGを活用し、動物のシーンは最低限とするなどの「出演動物保護のガイドライン」をつくったとされています。
一方、今年の日本の大河ドラマでも、CGの馬が疾走する場面がときどき出てきます。リアルさに欠けるとの意見が多いようですが、これも馬の安全に配慮した映像制作であり、動物福祉の流れといえます。
また、渋谷駅前の待ち合わせ場所として有名な「忠犬ハチ公」の映画をハリウッドリメイクした『HACHI 約束の犬』(2009年公開)を観ました。
ハチの飼い主である大学教授はリチャード・ギアで、人間の中では主演なのですが、ストーリーの中盤からは、実質的な主人公というべき秋田犬が中心に描かれます。よい作品を撮るためには、リアルで心打つシーンは必要でしょうが、一方で、演出の道具として利用される中で、犬に過度に負担がかかったり、苦痛を与えることはあってはならないでしょう。
わかっていても泣いてしまうエンディングのあと、エンドロールの最後に「No animals were harmed」との文言が流れていました。これは、人道協会(American Humane)による、「No Animals Were Harmed(動物に危害は加えられなかった)」プログラムによる評価です。
ハリウッド映画には、このような第三者の民間団体による事前チェックの仕組みが普及しています。なお、このプログラムに対しても、実質的なチェック機能を果たしているのかといった意見は出ているようです。
日本における動物の映像利用
これに対し、日本の動物愛護管理法令において、動物の映像利用そのものに対する規制は、ほとんどないといってよいかと思います。
強いていえば、映像制作会社に動物を提供する専門プロダクションは、第一種動物取扱業(業態は貸出業)の登録が必要ですが、動物の貸出業者が遵守すべき動物の管理方法は法令で定められています。
例えば、動物の選定について、「飼養環境の変化及び輸送に対して十分な耐性が備わった動物」や、「二日間以上その状態(下痢、おう吐、四肢の麻痺等外形上明らかなものに限る。)を目視によって観察し、健康上の問題があることが認められなかった動物」を貸し出すこととされています。ただし、映像利用を想定した内容にはなっておらず、十分とはいえないように思います。
日本でも、動物福祉に配慮した取り組みが少しずつではありますが進んでいます。意識ある映像関係者の自主的な基準づくりが望まれるところです。そのような動きがあれば、ぜひ協力させていただきたいと思います。
今やYouTubeなど誰でも簡単に映像を制作して発信できる時代です。動物を映像利用することによる功罪は、テレビや映画の世界だけでなく、インターネットの世界でも日々起こっています。その点については、別の機会にご紹介したいと思います。
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