動物虐待から犬や猫を救うために 「どうぶつ弁護団」ができること【後編】
ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主の暮らしにとって身近な話題を法律の視点から解説します。
前回に引き続き、どうぶつ弁護団(Animal Defense Team)について、今回は、事業内容を説明していただきます。
虐待情報を整理して警察につなぐ
どうぶつ弁護団の主な事業は、刑事告発となります。
「告発」とは、検察官や司法警察員に対し犯罪事実を申告して国による処罰を求めること、と定義されており、刑事訴訟法239条で定められた訴訟行為です。
犯罪捜査は、捜査機関(警察及び検察)が行うもので、当然ながら、どうぶつ弁護団はできません。つまり、虐待情報を整理して警察へつなぐ役割を担うことになります。
実際に動物虐待事案が発生・発覚した場合に、どうぶつ弁護団の告発を受けて、適正な刑事処罰がなされることで、将来の動物虐待に対する抑止力になることを期待しています。
寄せられた情報をしっかり精査
虐待事件の情報は、本年12月1日に開設したホームページの右手に表示されている「虐待情報のご提供」という窓口をクリックして、フォーム形式で入力していただきます。いつ、どこで、何を、どうした、虐待した人はわかっているのかといった質問に答えていただくことで、文章を書くのが苦手な方でも、簡単に情報提供が可能です。
寄せられた多くの情報にすべて目を通し、対応すべきかつ対応可能と思われるケースについて、理事会で検討し、告発することを正式に決定した上で、事案担当弁護士を定めます。
事案担当弁護士が中心となって告発状の形にまとめ、写真や動画、獣医師の診断書や意見書などの資料を添付します。警察と事前折衝し、必要な調整を行ったうえで、正式に告発状が受理されるという流れです。
告発状が受理されても、警察による捜査状況や内容は告発人にも知らされず、この間はできることは多くありませんが、検察庁に事件が送致された後に、担当検察官に対し、法律の解釈や処罰に関する意見書を出すこともあると思います。
また、告発した虐待事件について、検察官が不起訴処分をした場合、その理由を確認した上で検討し、必要と認められる場合は、検察審査会への申し立てをすることになります。
できることとできないこと
以上が虐待事件の告発等に関する一連の流れです。動物虐待について、弁護士や獣医師などの専門家で構成されるNPO法人が自ら告発するというのは、これまでになく、全国初の取り組みであるため、皆様の期待は膨らんでいるかもしれません。
ただし、どうぶつ弁護団には、できないことがいくつかあります。
- 虐待されている動物の保護、レスキュー
- 動物虐待事件の法律相談や依頼
- 獣医療行為
- 即時・スピーディな対応
特に②について説明すると、どうぶつ弁護団は、弁護士が中心の組織ではありますが、団体の性質はNPO法人です。NPO法人が弁護士業を営むことはできないため、弁護団としては、動物虐待に関する法律相談は受けられません。この点、ご理解をお願いしたいと思います。
そのことと関連しますが、情報提供者からは一切の費用はいただきません。弁護団の趣旨や活動に共感していただけた方には、賛助会員(2023年1月下旬以降に受付開始予定。年会費1口5000円)になっていただければと思いますが、決して強制や条件ではありませんし、原則として寄付も受けていません。
日本全国で発生した事案に対応していく
どうぶつ弁護団は、兵庫県内に本拠があり、また、現在の構成メンバーは兵庫県内の弁護士と獣医師だけですが、県内の虐待事件に限定せず、日本全国で発生した事案に対応することは可能です。実際、今年12月に告発受理された第1号事案は、大阪府内で発生した猫の傷害事件でした。
もっとも、遠方になればなるほど、事実確認のための負担が大きくなり、取り扱いに困難を伴うことが予想されます。そのため、事件現場に近くに、対応可能な弁護士がいれば、連携してやっていきたいと考えています。なお、どうぶつ弁護団とは別の動きとして、動物の問題に興味を持っている弁護士が少しずつ増え、ネットワークを作り始めています。こうした動きとも連動していけたらと思っています。
熱い思いを胸に、未来に向けて活動していく
今後、多くの告発事件に取り組む中で、法制度の不備や運用の問題に直面することがあるはずです。例えば、現状でも、虐待されている動物を一時保護するなどの所有権を制限する法律上の根拠がなく、仮に犯罪捜査のために警察が動物を押収した場合であっても、所有者が希望すれば返還しなければなりません。どうぶつ弁護団の事業として、法改正に関する提言や活動も予定しています。
また、動物愛護法令に関する勉強会やシンポジウムなどを通じて、動物虐待の防止に関する普及啓発も考えています。
将来に向けた構想はいろいろとありますが、まだ動き始めたばかりの小さな組織です。すぐに事業を拡大するとか、身の丈に合わないことは考えていません。目の前の事件にていねいに取り組みながら、徐々に協力者や支援者を増やし、大きくしていきたいと考えています。
なお、どうぶつ弁護団のメンバーは、みな熱い思いを持っていて、こんな私を助けてくれる素晴らしい人たちです。今後、弁護団のメンバーを紹介させていただく機会があればと考えています。
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