「碧です。自転車はお母さんの愛車なの。僕は乗ったことないんだ」(小林写函撮影)
「碧です。自転車はお母さんの愛車なの。僕は乗ったことないんだ」(小林写函撮影)

やんちゃでくったくがなく甘えん坊 3匹目に迎えた猫「碧」が家族に光をもたらした

 「碧(あお)」と「にこ」は布団の上で、くっついて寝ていた。

 最近、2匹はよくこうしている。そう思ってKさんはながめていた。するとにこが頭を上げ、碧のからだをなめ始めた。 

 初めて見る光景だった。少したつと今度は、碧のほうもにこをなめ出した。

 心地よさそうにグルーミングをしている2匹を見て、Kさんは胸がいっぱいになった。

 やっぱり、碧は「光の子」だ。 

(末尾に写真特集があります)

やんちゃな子猫

「Kちゃんちの3匹目の子としてどうかしら」

 Kさんと大学生の娘のところに、母親から連絡があったのは2022年の5月だった。

 両親の家には、Kさんが幼い頃から、外で暮らす猫たちが出入りしていた。母親が世話をし、そのうちの何匹かは家の猫にしたり、避妊去勢手術を受けさせたりした。

 母親は、ちょうど子猫のきょうだいを4匹保護したところで引き取り手を探しており、その1匹をKさんに、とのことだった。 

 Kさんの家には、キジトラ猫の「ハッピー(呼称ハピ。以下ハピ)」(メス、10歳)と黒猫の「にこ」(オス、8歳)がいた。いつか3匹目を、と考えていたこともあり、母親から送られてきた動画を見て、期待に胸をふくらませて娘と子猫に会いに行った。

 きょうだいのうちもっとも元気な茶白トラ猫をすすめられた。小さなカギ尻尾をピンと立て、ちょこまか動き回る様子を見ていると、出てくる言葉は「かわいい」しかなかった。

 子猫は「碧」と名付けられ、離乳期が終わる頃を待って、Kさんの家に来ることになった。

「こんにちはハピです。ハッピーになれるようにって、おねえちゃんがつけてくれたの」(小林写函撮影)

 先住猫のハピとにこは、2匹ともKさんと娘が自宅近所で保護した猫だ。

 ハピは2011年の11月に、当時10歳の娘と一緒に歩いていた通りで出会った。近所の人から「捨て猫らしい」と聞いて保護し、動物病院に連れていくと推定4カ月と言われた。「『猫ちゃんが家にきますように』と七夕にお願いしたのが叶ったねと」と娘と喜んだ。

 娘は、元気で甘えん坊のハピをまるで妹ができたようにかいがいしく世話をした。おもちゃを自作して一緒に遊び、毎晩ともに眠った。

 その2年後、「ハピの妹か弟がほしい」と娘が七夕に願いをかけると、3カ月後の雨の日、車の下で鳴いている子猫に出会った。それが、推定3カ月のにこだった。 

 にこは、ハピと遊びたいようで積極的に近づいて行った。だがハピは「シャー!」と威嚇したり、逃げたりして拒否し続けた。

 やがてにこは相手にしてもらえないことがわかると諦め、距離をおいて過ごすようになった。

くったくのない碧

 2年間、ひとりっこだったハピはお嬢さま気質で、「私だけを見て、構って」というタイプ。「おなかがすいた」「遊んで」「なでて」と、要求がはっきりしている。

 一方、にこは常に一歩引いている。決してしゃしゃり出ず、性格は穏やかでマイペース。

 ハピは娘にべったりだったので、にこの相手はKさんがするようになった。猫同士のコミュニケーションはなかったが、穏やかに9年が過ぎていた。

「にこだよ。ハッピーニコニコなんだから、ニコニコしろって?うるさいよ」(小林写函撮影)

 そこへやってきたのが、碧だった。

 名前は、Kさんと娘が大好きなハワイの言葉で光を意味する「アオ」から取った。「碧」という漢字が、ハワイの青く澄んだ海や空のイメージにつながることも決め手となった。

 碧は、これまでKさんが出会ったどの猫よりもやんちゃでくったくがなく、甘えん坊だった。

 家に来たばかりの頃は、離乳期が過ぎたにもかかわらず哺乳瓶からミルクをほしがった。

 昼間は、家事をしているKさんのあとをついてまわった。掃除をしていれば掃除用ワイパーの上に乗ってくるし、料理をしているときは調理台にのぼりたがるし、トイレにも、お風呂にもついてくる。

 夜、一緒にベッドに寝ていると、突然飛び起きて運動会を始める。そうかと思うと、電池が切れたようにパタっと眠りこける。

 お風呂を沸かす際、水がたまっていくようすを真剣にながめる碧の横にしゃがみ込み、

「お水がボコボコ出てくるね、おもしろいね」

 とKさんは話しかけた。

 まるで、20年ぶりに、2人目の子育てをしているようだと思った。

「ねえハピ、カメラの方見なくていいの?」「いいのよ、呼ばれないのに振り向くの恥ずかしいでしょ」(小林写函撮影)

 碧は、ハピとにこにも臆することなく「遊んで遊んで!」と、初日から走り寄っていった。「シャーシャー」威嚇され、猫パンチを繰り出され、敬遠されても意に介さなかった。

 その積極的な態度に先住猫たちは根負けしたのか、1週間が経つ頃には3匹が並んでご飯を食べるようになった。

 それでも、ハピは相変わらず碧をうっとうしいと感じているようだった。だが、にこの様子は変わってきた。

 2週間が経つと、碧がちょっかいを出しても逃げなくなった。 

 3週間が経つと、2匹は近くで眠るようになった。

 1カ月が経った頃だった。

 碧とにこは、布団の上で、くっついて並んで寝ていた。 

 最近、2匹はよくこうしている。そう思ってKさんはながめていた。するとにこが頭を上げ、碧のからだをなめ始めた。

 初めて見る光景だった。少したつと今度は、碧のほうもにこをなめ出した。

 心地よさそうにグルーミングをしている2匹を見て、Kさんは胸がいっぱいになった。

 やっぱり、碧は「光の子」だ。

「ハピです。私、美猫でしょ。撮るなら私にしておけば」(小林写函撮影)

 ちょうどこの頃、Kさんの娘が、大学の寮に入るために家を出た。 

 碧は、娘不在の寂しさを埋めてくれた。碧の世話をし、その行動を見て笑うことで、心にできた空洞に光が差し込んでくるようだった。 

 今、にこは、碧を尻尾でじゃらして遊ばせたり、ときに本気でプロレスの相手をしてやったりしている。その様子を見ると、おとなしいにこに、こんなに世話好きの一面があったのかと驚く。 

 碧は、にこの猫生にも光を与えているとKさんは感じた。

 ハピにも、変化が出てきた。

 シニアの入り口に立った年齢だが、若い碧が来たことで自分も負けていられないと思ったのか、以前より元気になったようだ。

 碧が、キャットタワーを軽々と駆け上がる様子を見ていたハピは、しばらくし、それまで到達したことがなかったタワーのてっぺんまでのぼるようになった。

(次回は8月11日公開予定です)

【前の記事】行ってしまうんだね おじいちゃん子の元保護猫「サスケ」が激しく鳴いたあの日のこと

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
あぁ、猫よ! 忘れられないあの日のこと
猫と暮らす人なら誰しもが持っている愛猫とのとっておきのストーリー。その中から特に忘れられないエピソードを拾い上げ、そのできごとが起こった1日に焦点をあてながら、猫と、かかわる家族や周辺の人々とのドラマを描きます。
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