山道に捨てられた3姉妹の子猫 同じ家に迎えられ遊ぶのも眠るのも一緒、仲良く成長中
生後まだひと月ほどの4匹の子猫たちが捨てられたのは、ひと気のない房総の山道。道の真ん中で恐怖に身をすくめて固まっているところを、車で通りかかった人に発見され、海辺のシェルターへ。男の子1匹は近隣の家庭にもらい手が決まる。残る3姉妹に会いに来た裕子(ゆうこ)さんは、「選べない。残せない」と、3匹一緒にトライアルを申し込み。「1匹でいい」と、夫は言っていたのだが……。
愛猫2匹を見送って、笑いを忘れた
コロナ禍で迎えた年始にもかかわらず、家の中は明るく、笑いに満ちている。夫も息子たちも、3匹の愛らしい盛りの子猫たちにまとわりつかれて、口元が緩みっぱなしだ。「3匹いっしょに迎えてよかった」と、裕子さんは、しみじみ思う。
つい4カ月前までの裕子さんは、すっかり元気をなくし、笑うことなど忘れていた。愛猫を一昨年に続き、去年9月に失ったばかりだった。
3年前の夏、急死した親族の家に残された生後間もない子猫たち姉妹を迎えた。2匹とも白血病のキャリアで、医師から「1年以上は生きないだろう。生きたとしても、3年は無理」と言われていた。奇跡は起こらなかった。
「つらくてつらくて……どうにかなってしまいそうでした。見かねた友人が『また猫を迎えたら』と、近くの保護猫シェルターを教えてくれたんです」
連絡を取り、生後2カ月くらいの4兄妹の中から迎えることにした。雄猫が1匹と、雌猫が3匹。房総の山間部のインターから町へ続く山道で保護された子たちだった。山に分け入っても車道にいても、命尽きる確率が圧倒的に高いことを知っているであろう残酷な人間に捨てられたのだ。保護時は、目も鼻もぐちゃぐちゃで、助かるかどうか危ぶまれる状態だったそうだ。
裕子さんは「前の子たちのように、できれば姉妹2匹で飼ってやりたい」と思ったが、夫は「1匹でいい」と言う。お見合いには、夫や息子たちの都合はつかず、裕子さん一人で行くことになった。
どの子も残せはしない、どうしよう!
裕子さんが向かったのは、南房総の海辺の猫たちのお世話や保護活動を、夫妻で続けているNPO法人「ドリームキャット」のシェルターだ。
4匹のうち、男の子はすでに譲渡先が決まっていたが、残る3姉妹のどの子もどの子も可愛すぎて、1匹だけなど選べない。2匹を選べば、1匹だけとり残されることになり、ふびんでたまらない。
迷いに迷う裕子さんに、シェルターの千鶴子さんは言った。「じゃあ、3匹ともトライアルしてみれば?」
3匹を迎えた息子たちは「可愛い、可愛い」と大喜び。夫は、何も言わない。
やんちゃな天使が毎日をにぎやかに
「母さんがいいなら」と、息子たちは3匹受け入れに賛成してくれた。夫は、3匹ともに迎える条件を裕子さんに出した。2匹を亡くしたあと、裕子さんは悲しみを紛らわすために、外回り仕事の受注をうんと増やしていたのだが、その仕事量を減らす、というもの。「3匹の世話がちゃんとできるなら」ということだった。
こうして、3匹は、姉妹いっしょに、晴れて裕子さん一家の猫となった。前髪片流れのキジ白嬢は「愛実(あみ)」、鼻先の黒いキジ白嬢は「紡希(つむぎ)」、背中もキジ柄嬢は「心愛(ここあ)」という名をつけてもらった。
3匹は、3階に自分たち専用の遊び部屋を持った。息子が使わなくなった卓球台が、格好のやんちゃ舞台になっている。
猫がいる暮らしのあたたかさ
3姉妹は、お父さんもお兄ちゃんたちも、大好きだ。帰宅時には、いそいそと玄関に出迎える。すぐになでようとする息子たちに裕子さんはこう叫ぶ。「ちょっと待った! よく手を洗ってから妹たちを触って!」
コロナ禍で、外出は気の抜けない時間となるが、猫たちのおかげで、家での時間はゆったりとしたリフレッシュタイムとなった。
裕子さんは、3姉妹と男たちの甘い毎日をこう教えてくれた。
「長男は、足元にまとわりつく3匹を『踏んじゃうよお』とうれしそうになでまわし、いつもこう言ってます。『あ~、時間がない。こんなことをしてる場合じゃないけど……カワイイ。あと10分。あと5分』。次男は通学のため一人暮らし中ですが、3姉妹を迎えてからは、週末ごとに帰ってきて『帰りたくなぁい』と言いながら帰っていきます」
「1匹でいい」と言っていたお父さんはと言えば……。
「可愛いとはけっして口にしませんが、食事中にひざに乗ってきてもそのままですので、可愛くてたまらないのが、もう隠しようもありません(笑)」
遊ぶのも、甘えるのも、やんちゃするのも、寝落ちするのもいっしょ。日々仲良く育っていく3匹を見ながら、「離れ離れにしなくて正解だった」と裕子さんは思う。再び、こんなにもいとしいと思える存在を持てたことがうれしい。
「家族そろって仲良く長生きしようね」
新しい年の、シンプルな、心からの願いだ。
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