いつも堂々としているリン(かよさん提供)
いつも堂々としているリン(かよさん提供)

ペット用キャリーの底が開いて愛猫逃走! ペット探偵に依頼し15万円支払ったが…

 「大切なペットが脱走した!もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい。逃げた犬や猫の帰還ストーリーと、経験者に聞く保護のアドバイスです。

(末尾に写真特集があります)

キャリーバッグの底から脱走

底がファスナーになっているリュック型のキャリーバッグ。「まさか開くとは」とかよさん(かよさん提供)

【逃げたペットについて】
名前:リン
性別:オス
種類:雑種(ハチワレ)
年齢:推定3〜4歳
いなくなった状況:底がファスナータイプになったリュック型キャリーバッグで移動中、ファスナーが開いて猫が落ちた
保護までの日数:12時間

 ハチワレ猫のリンは、飼い主が動物病院へ連れて行く道中に脱走した。脱走の原因となったのは、底が開くタイプのリュック型キャリーバッグ。引っ越し先での備えが間に合わず、想定外の出費もあった。今回はリンのケースから、飼い主のかよさんの教訓を伺った。

 2024年の4月。かよさんは、愛猫のリンを近所の動物病院に連れていくため、キャリーに入れて家を出た。その日は雨が降っており、傘で手が塞がるため、いつも使うハンドルタイプのキャリーではなく、普段あまり使わないリュック型のキャリーを選んだと言う。

 動物病院は徒歩で500メートルほどの場所にあったが、半分ほど歩いたところで異変が起きた。

「リュック型のキャリーでリンが見えないのが不安だったので、前に背負っていたんです。でも、突然キャリーの底が抜けてリンが落ちて……。えっ?と思った瞬間、リンが地面を走り去っていくのが見えました。建物と建物の隙間に入ったのを見てとっさに追いかけてみたものの、人が通り抜けできない幅で足止めされ、そこから先はどっちの方向に行ったのかわからなくなってしまい……」

 一体何が起きたのか。キャリーを下ろしてみると、底のファスナーが完全に開いている。

「リンが鼻を突っ込んで開けたのか、体重がかかって歩いているうちに勝手に開いたのだと思いますが、前に背負った状態でもまったく気がつきませんでした。そもそも何のために底がファスナーになっているのか、今となってはそこに疑問を感じていればよかったと思うのですが、買った時はまさかペット用のキャリーのファスナーが意図せず開くとは思わず……。ファスナーのロックも使っていなかったんです」

ペット探偵に依頼

遊び好きな性格のリン(かよさん提供)

【いなくなった時にしたこと】
・近所の動物病院で目撃情報を募った
・インスタグラムで情報提供を求めた
・ペット探偵に依頼した

 リンが路地裏に消えた後、目の前で愛猫が脱走したショックとパニックで、かよさんはその場を動けずにいた。

「すぐに捕まえなければどんどん遠くにいってしまうような気がして、周辺を探し回ったのですが、雨が強かったので猫の姿は見えず……。そうしているうちに少し冷静になってきたので、動物病院に電話をかけて事情を話し、これから来る患者さんが、脱走した猫を見かけたら教えてほしいと伝えました」

 猫友達とつながっているSNSにも、リンの脱走を書き込んだ。

「雨がどんどん強くなってきて、いったん家に帰って体勢を立て直した方がいいとわかっていたものの、その場を離れた瞬間にリンが現れたらと思うとできませんでした。せめて代わりに誰かいてくれたらと考えて、思い出したのがペットを捜索してくれるペット探偵だったんです」

 昨年の夏に東京に引っ越してきたかよさん一家は、もともと他県に住んでいた。複数の猫と暮らしているかよさんは猫の脱走予防に関心が高く、引っ越す前の土地では脱走時に備えてペット探偵をピックアップしていた。

 しかし、都内に引っ越してからは情報をアップデートしておらず、いざリンが逃げ出してから探そうとしてみても、パニックで調べ物ができる心境ではなくなってしまった。

「仕事中の夫に緊急LINEを送って、代わりに近隣のペット探偵業者をピックアップしてもらい、順番に電話をかけていきました。1軒目は雨だからと断られましたが、2軒目の業者が来てくれるというので、すぐに迷子チラシ用の写真を送り、前金15万円を振り込んで、合流を待ちました」

雨の中、孤独な捜索

 捜索を依頼したのが9時40分。しかし、そこからがかよさんの戦いだった。

「探偵の方がなかなか現れないので、私ひとりで捜索を続けていました。そうしていると声をかけてくれる人が現れて、中には『猫の声を聞いた』という人も……。いなくなった猫は100メートル圏内にいる可能性が高いという話は知っていたので、近場を中心に探すつもりだったのですが、実際は『いるかも』という情報があると遠くまで探しに行ってしまうもので、結局あとでスマホで確認したら、その日は午後までに11キロは歩いていました」

 脱走からおよそ6時間後の15時ごろ、待ちわびていたペット探偵がようやくかよさんのもとに合流した。

ペット探偵が印刷してきてくれた迷子チラシ(かよさん提供)

「探偵さんが印刷してきた迷子チラシを配りながら、猫がいそうな場所にカメラと餌を仕掛けていきました。色々な人とひっきりなしに連絡をとって充電が切れそうになっていたので、探してもらっている間に家に戻ってスマホを充電し、警察への遺失物届けと愛護センターへの連絡を済ませて、再び現場に戻りました。雨で遠くに移動できないうちに見つけたかったのですが、そのころはもうやみ始めていましたね」

民家の車の下で発見

 あたりが暗くなり始めた17時ごろ、かよさんの友人も捜索に加わり、合計3人で捜索を続けた。友人が持参した懐中電灯を使い、昼間見て回れなかった民家の軒下やガレージを一軒一軒照らしながら、リンの名前を呼んで探した。

 ある家の前を通った時、ふと友人が立ち止まった。「今、何かいた気がする」。ビルトインガレージに停まっている車の下を指さす。かよさんは雨が上がったばかりの地面にひざをついて、車の下をのぞき込んだと言う。

「時間は21時ごろでした。外は真っ暗だったので、車の下をライトで照らしてみると、リンが堂々と香箱座りをしてこちらを見ていたんです!『いたーっ』と叫びたい気持ちでしたね」

リンはもともと、外で暮らしていた保護猫だった(かよさん提供)

 かよさんは持ち歩いていたおやつでリンを誘導しながら、追い詰めた。

「友人とペット探偵の2人が逃げ道を塞ぐように立って、最後は3人で追い込んで捕獲しました」

 リンを家に連れて帰るため、脱走したキャリーに再び入れたかよさんだったが、「再び底が開くかも」と恐ろしくなった。

「ちょっとトラウマになってしまって、ファスナー部分をガムテープでぐるぐるに巻いてキャリーごと袋に入れ、抱き抱えて家に帰りました。リンはキャリーの中で暴れ回っておやつのちゅーるまみれに。帰宅してシャワーで洗い、部屋に離したらもういつも通り。何もなかったかのうようにくつろいでいました」

居場所の目星がつけば落ち着いて探せる

【今回の教訓】
・キャリーは必ずロックをつける
・移動時には猫に位置情報タグを装着する
・自宅に合った捜索方法を調べておく
・地域のペット探偵を日ごろから調べておく

 かよさんは、今回の脱走を経て、2つの教訓を得たと話す。

「ひとつ目は、ペット用のキャリーでも油断せず、猫を入れた時はしっかりファスナーロックを付けること。さらに、万が一脱走した場合に備えて、通院などの移動時には、猫にGPS機能の付いた位置情報タグをつけることにしました」

 位置情報タグは、スマホやパソコンと連携でき、猫の姿が見えなくてもGPSにより大体の位置が把握できる。かよさんの場合は、ふだん鍵などを探すために付けている軽量で小型のタグを、移動時だけ猫たちの首につけることにしたが、最近では猫の首輪と一体になったものも手に入る。

「迷子になった時はパニックになり、冷静に考えられませんでした」とかよさん(かよさん提供)

「とにかく姿が見えない、声も聞こえないという状況だと、どこら辺にいるのかわからず、どこまでも探しに行ってしまうんです。そんな遠くにはいないとわかっているんですが、いてもたってもいられなくて。だから、万が一逃げてもいる場所さえわかれば、落ち着いて探せるんじゃないかと思いました」

自分に合った探偵を

「ふたつ目の教訓は、引っ越し後すぐ、脱走のシミュレーションをしておくべきだったということです。以前住んでいた家は一軒家だったので、猫砂や餌で家に誘導するという方法が使えたのですが、今の家はマンションなので、想定していた対策が何も実行できませんでした。マンション住まいで脱走した場合はどうするべきか事前に考えておけば、もう少し効率よく捜索できたかもしれません」

 かよさんは、急きょ依頼したペット探偵にも言及する。

「私が依頼した業者は、『○時間捜索して○万円』という料金体系で、時間いっぱい探す前に見つかっても、返金はしないシステムだったんです。リンはたまたま見つかったのでハッピーエンドですみましたが、入金から実際に探し始めるまで、5時間以上待ちましたし、結局リンを見つけたのも友人だったので、15万円という料金が妥当だったのかどうか……。成功報酬制や1日いくら、というところもあると思うので、都内で自分の探し方に合いそうな業者を探しておくべきだったなと反省しています」

 愛猫の万が一に備え、ペット探偵を検討している飼い主は多いはず。しかしいざ使ってみようとすると、料金体系もスタッフの質もさまざまだ。心が平常心でいられる脱走前に、良心的な業者を探しておきたいところだ。

【前の回】40日間の迷子生活の末、発見された猫 飼い主は周囲に励まされ諦めず捜索した

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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この連載について
迷子のペットが帰ってくるまで
「大切なペットが脱走した! もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい、逃げた犬や猫の帰還ストーリーと経験者に聞いたお話です。
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