4歳の愛猫の安楽死 夫婦で号泣しながら見送った忘れられない日

夏は20℃を超えるとすぐに息切れをするので、日陰を好んでいたクストーくん(文さん提供)

 いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。

 スイス在住の文さんは2022年2月に心臓病で苦しんでいた愛猫のクストーくん(享年4歳)を安楽死でお見送りされました。クストーくんとの生活、安楽死を選んだ経緯、現在のお気持ちなどをお聞きしました。

(末尾に写真特集があります)

先天性心疾患を持っていた愛猫

――クストーくんが4歳のときに安楽死でお見送りしたそうですね。病気だったのでしょうか?

 先天性の肥大型心臓病でした。クストーは近くの牧場で母猫に産み落とされて、置き去りにされていた子でした。その牧場からは、数年前にも保護猫を引き取っていたので、もう1匹引き取りませんかとうちに打診がありました。

――心臓病に気がついたのはいつごろですか?

 生後半年、去勢手術の時にわかりました。心臓から雑音からするとのことで、病気が発覚しました。そのときから投薬を始め、亡くなるまで飲ませていました。

クストーくんが文さんのおうちに来てすぐのころ。文さんの夫はクストーくんがおうちになじめるようにと洋服の中で暖めていたそう(文さん提供)

亡くなる1カ月半前から急速に体調が悪化

――亡くなるまでは普通に生活してたのですか?

 そうですね。うちは標高1500メートルの山村にあるのですが、猫たちを放し飼いにするのはあぶないので、家の中で生活しています。私たちの日課は猫たちと山を散歩することで、その時間をとても大切にしていました。散歩はクストーの生きがいのひとつで、雨の日も豪雪の日もかまわず散歩し、外で遊んでいました。

――体調が悪化したのはいつごろからですか?

 亡くなる1カ月半ほど前からです。血尿が出て、一晩に何回も、3分おきにとかトイレに行くけれど尿が出ない状態になりました。あまりにも苦しそうだったので、山村に唯一いる獣医師のところへ連れて行って、週に2回ほど、尿が出るようにする点滴をしてもらいました。最初は少し効果があったものの徐々に効果は薄れ、心臓の劣化が止められるわけではないので、獣医師のところへ連れて行ってストレスを感じさせるよりも家にいさせてあげようと思い、通院をやめました。

 また、体重を減らし排尿の症状を改善するための食事を勧められていたのですが、あまりおいしくなかったようで、普段食べていたおいしいごはんを混ぜながらあげたりしていました。散歩と同じくらい食べることも生きがいにしていた子から、食べることを奪うことはできませんでした。

クストーくん3歳のころ、先住猫のジャスパーくんと一緒にお散歩。山の散歩はジャスパーくんに教わっていた(文さん提供)

苦しみから解放させてあげたい

――安楽死を選択するには覚悟が必要かと思いますが、どうでしたか?

 安楽死について決して前向きだったわけではないです。安楽死させたくない気持ちがあったなかで、本人がこれ以上苦しみたくないと訴えたなら、それは受け止めてあげなければならないと夫婦で話し合っていました。

 獣医師から「血栓症と血尿の痛みは耐えられる痛みではない」と言われていましたし、クストーの痛みを毎日見ていたので、1日でも長く生きてもらいたいという気持ちはありましたが、同時にこれ以上、苦しませたくないとも思いました。

――安楽死を決めたときの状況を教えてください。

 ある日、散歩から帰ってきてクストーが自分のベッドに飛び乗ったとき、後ろ脚の関節がぐにゃっとゼリー状になったような感じがしたんです。そしていつも鳴かない子なのに、今まで聞いたことのない、叫ぶような鋭い鳴き方をしたんですよね。その叫びは「早く天国に送ってちょうだい」と聞こえました。

 何年も猫たちと一緒に暮らしていると、それぞれの猫たちがどれだけ賢いのかがわかります。ときには彼らから学んだり、人間に指示してきたり。人間よりわかっていることがあるのではないかと思うことがあり、それを信用していいのではないかと思ったんです。

「これ以上、苦しませないで」という気持ちをクストーから受け取ったので、獣医師に自宅まで来ていただき、「彼は本当に逝かなければいけない状態ですか?」と最後まで確認をしました。覚悟なんてなく、本人の意思を尊重し、見守っていただけです。夫婦で号泣しながら見送りました。

――「ペットの死に向き合う」とはどういうことだと思いますか?

 私たち夫婦は、猫たちを“ペット”ではなく、“家族”だと思っています。人間ほど寿命が長くないことはわかっていますが、たった4歳という若さで旅立ってしまったクストーのことはまだ整理しきれておらず、まとまった答えは出せません。

 ただ、人間ほど寿命が長くない猫たちの死に向き合うことは避けられないので、その時が来るまで彼らが健康に、幸せに、猫らしくいてくれればいいなと。彼らが動物として自然の在り方に近い生き方ができる場所に、これからも住み続けたいと考えています。

好奇心旺盛で勇敢な性格で気になるところはとりあえず見に行っていた(文さん提供)

<取材を終えて>
安楽死という選択が唯一、クストーくんを苦しみから救ってあげられる方法だったと涙を流しながらお話してくださいました。そして、クストーくんが亡くなってから1年強、今でも毎日「こんなかわいいところがあったよね」と、ご夫婦でクストーくんとの楽しかった思い出話をすることで、お互いの心を癒やしているそうです。

【前の回】どうしてもまた会いたい 愛猫の死が教えてくれたのは「私の人間らしさ」だった

岡山由紀子
某雑誌編集者を経て、2016年からフリーのエディター・ライターとして活動。老犬と共に暮らす愛犬家。『人とメディアを繋ぎ、読者の生活を豊かに』をモットーに、新聞、雑誌などで執筆中。公式サイト: okayamayukiko.com

sippoのおすすめ企画

sippoの投稿企画リニューアル! あなたとペットのストーリー教えてください

「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!

この連載について
ペットの死に向き合う
いつか来るペットとのお別れの日。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。みなさんの思いを伺います。
Follow Us!
編集部のイチオシ記事を、毎週金曜日に
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。


動物病院検索

全国に約9300ある動物病院の基礎データに加え、sippoの独自調査で回答があった約1400病院の診療実績、料金など詳細なデータを無料で検索・閲覧できます。