犬が言うことを聞いてくれない? 逆の立場だったらどう思う?

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山の家のドッグランの夕方

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

犬はそこまで従順ではない

 公園などを散歩していると「コラッ!駄目って言ってるでしょ!」と犬を叱っている飼い主をたまに見かける。犬と暮らす人と話しているときも「うちの子、言うことを聞いてくれなくて」と愚痴っているのを耳にすることがある。たぶん犬と暮らすのが初めての人は、そんな風に思うことがあるのではないだろうか。

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先代犬の富士丸と等々力渓谷にて

 という私も、先代犬の富士丸と暮らしていたころ(子どものころから家には犬がいたが全責任を追うという意味では初めての犬)、「なんでこいつは言うことを聞いてくれないんだろう」と思い悩んだり、時には腹を立てたこともある。

 そんな経験を踏まえて断言するが、犬が何でも言うことを聞くとは限らない。恐らくみんな頭のどこかで「犬は従順なもの」という思い込みがあるのかもしれないが、それは犬にとっては迷惑な話である。たしかに犬は他の動物とは違い、人間とのコミュニケーションや絆を大切にする特徴はある。以前『書いた通り』、それは科学者が本にも書いている。

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ひとり(と一匹)暮らし時代の晩酌風景

 とはいえ、何でもかんでもハイハイ従わないことは、犬と暮らしている人なら実感していると思う。彼らにも人格(犬格)があり、好き嫌いだってあるからだ。

 わが家の大吉と福助は、家ではフリーでどこでも自由にさせているが、冬場の日中はだいたい3階の寝室で昼寝していて、私が出かけるときも見送りに来ないし、帰宅しても出迎えない。そして春から夏にかけては、1階にある私の仕事部屋にいることが多い。このことから、彼らが気温で動いているのは間違いない。が、それで何か問題があるかといえば、何もない。だから好きにさせている。

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歯磨きに無抵抗だった富士丸

やいやい言われるとうっとうしい

 想像してみて欲しい。「犬が言うことを聞いてくれない」と嘆いている人は、逆の立場になったらどう思うか。たとえば、親からいつもあれこれとやかく言われ続けたら、うんざりするのではないだろうか。幼い子どもがいたずらを叱られているならいざ知らず、もういい大人なんだから放っておいてくれよ、となるはずだ。犬も同じだと思う。

 子犬のやんちゃな時期なら、一緒に暮らすために人間社会のルールを覚えてもらう必要はあるが、2歳から遅くても3歳くらいになるとちゃんと覚えてくれる。うちはそんなことはない、と思う人もいるかもしれないが、一度よく観察して欲しい。

 しょっちゅう叱られるようなことをやる犬も、本当に駄目なことはやっていないはずだ。「ここくらいまでならセーフかな」というラインを実は分かってやっているのだ(それが気を引くための場合もある)。だからたいして問題じゃないことであれば、好きにさせればいいと思う。

(もしくは、犬が何かをやらかすときは『彼らにも言い分がある』場合もある)

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大福の二度寝風景

 何でも自由にさせる、という意味ではない。一緒に暮らすうえで覚えてもらわないと困ることや、ちょっと我慢してもらうことはあるが、叱るにしてもお願いするにしても、重要なのはそこに「愛」があるかどうかである。

 歩くときは必ず右側、座れと指示すればいつでも座る、待てと言えばいつまでも待つ、来いと言えばすぐに来る。盲導犬や介助犬など「仕事」としてそれをやる場合は別として、普通に暮らしている中では重要ではない。自分がそんなことをやれと言われても嫌だろう。軍隊じゃないんだから。 

 甘やかすという意味でもない。人や犬に対してやたら攻撃的だったりしたら叱る。歯磨きはするし、どんなに拒否されても動物病院には連れて行く。触診を受けさせるためにも、幼いころにあえて体中触りまくって、諦めることも覚えてもらった(歯磨きは3歳ごろまでに慣れてもらわないと難しいらしい)。リードを放した途端に走り出さないよう(交通事後が怖いから)、「そういうことは危ないから止めて」と言って聞かせた。

 そういった彼らへの愛があるからやることは、申し訳ないが受け入れてもらうしかない。が、それ以外のどうでもいいことはだいたい好きにさせている。誰しもそうだと思うが、変にこだわるところや、特に理由はないけどなんとなく嫌いなこともある。人付き合いが好きな社交的な人もいれば、苦手な人もいる。

飼い主に似るとは限らない

 きっと犬も同じなのだ。変に擬人化しているわけではなく、生き物にはそれぞれ個性がある。そして、飼い主に似るとも限らない。 

 その証拠に、富士丸は人でも犬でも超フレンドリーだったし、心も広かった。大吉もなぜか子犬のころからドッグランですぐに他の犬たちと仲良く遊んでいた。

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ドッグランに入ってすぐフレンドリーに接する大吉

 しかし、福助は8歳になる今もドッグランではどう接していいのか分からずポツンと孤立する。それは子犬時代の対人恐怖症を克服するのが先で、ほとんどドッグランに連れて行けなかったからかと思ったが、大吉だってそんなに頻繁に通っていたわけではない。

 大吉が行きたそうにするから仕方なくたまに福助もドッグランに連れて入るが、いつも居場所を見つけられないようだ。

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自分の居場所が見つけられず孤立する福助

 それを見て、少しはみんなと仲良くしなさいよ、とは思わない。大吉が満足するまで少し待ってくれとお願いするだけだ。なぜなら、私がまさに福助タイプで気持ちが良く分かるから。決して自ら孤立を選んでいるわけではない。結果的にそうなるだけで。分かるぞ、福助。

【前の回】ドライブで犬はどこに乗せている? 後部座席にした私の場合とその理由

穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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