犬と触れ合うと幸せになれる? 実は本当にそうらしい
先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。
ひとりで吐くまで飲んでいた30代前半
人生は楽しいことばかりではない。嫌なことも、辛いことも、悲しいこともある。いきなりジジイの説教みたいになってしまったが、そんなことは誰でも知っている。仕事に追われて疲れたり、人間関係に悩んだり、将来の不安など挙げたらきりがないが、そんなことばっかりだと言っても過言ではない。ときには特に理由もなく気持ちが塞ぎ込んで、何もやる気が起きないなんてこともある。たぶん誰だってそうだろう。
私も根っこは暗く、内向的でネガティブな性分だからよく分かる。乾いたアメリカンロックや明るいポップな曲ではなく、ちょっと湿ったブリティッシュロックや暗い歌詞の音楽ばかり聴いて育ったからこうなってしまったのかもしれない。若い頃、ひとり暮らしをしていたときは、飲みたい理由を忘れるくらい安い酒を飲みまくり、翌日二日酔いでのたうち回るなんてこともよくあった。
しかし、先代犬の富士丸と暮らすようになってから、次第にそんなこともなくなった。どんなに吐きそうでも朝の散歩には必ず行かなければいけないからだ。それに1DKの狭い部屋で富士丸と暮らしていると、ふふ、と笑ったり、なんとなくほんわかした気持ちになることが多くなったからかもしれない。
毎日の散歩やゴハンの準備、留守番時間をなるべく減らす努力など、大変なこともあったが、なぜか苦にならなかった。むしろ、オモチャの引っ張り合いをして遊んだり、ワシャワシャなでたり、一緒に出かけたりするのは本当に楽しかったし、読書をしている横で富士丸がちょっとだけくっついて昼寝しているだけでも、なんとも言えぬ充実感があった。
バリバリ働いていた30代後半(遅い)
仕事についてもなぜかやる気が湧いてきて、自ら企画を考えて売り込んだり、フリーライターになってからは署名原稿も無署名もゴーストライターでも、来るものは拒まず何でもやった。そこには富士丸のために頑張らねば、という思いがあったのかもしれない。さらには超暑がりな富士丸が喜ぶだろうからと、山に移住する夢も持ち、実現に向けて計画を立てて動いたりもしていた。
そこから月日は流れ、今は大吉と福助がわが家にいる。結婚もした。日々の暮らしは富士丸の頃とは少し違う、けれど似ている充実感がある。ときどきソファで大吉と福助とぎゅうぎゅうになりながら昼寝をすると、ほんのり温かく、なんともいえない幸せな気持ちになる。
幸せホルモンの影響?
富士丸と暮らすうちに、私は犬がそばにいないと駄目なやつになったのかと思ったが、どうもそれだけではないらしい。というのは、人間は犬と触れ合ったり見つめ合ったりすすると「幸せホルモン」や「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンの分泌量が増えることが、麻布大学などの研究チームによって科学的に実証されているからだ。しかも、人間だけでなく犬も同様に。(詳しくは「ヒトとイヌの生物学的絆を実証」
人間同士や親子の触れ合いなどでもオキシトシンが分泌されるといわれているが、動物では犬だけで、オオカミやチンパンジーで実験しても見られない現象だという(検証されていないだけで猫もオキシトシンが分泌されると思う)。
彼らといるとほんわかするのは、犬と暮らしたことがある人なら何となく感じていたことだと思うが、ちゃんと根拠があったのだ。私にも覚えがある。富士丸がある日突然いなくなってから、私の目に映る景色は一変してしまったからだ。やる気も気力も、食欲さえもなくなり、ただぼうっと灰色の世界で生きているようだった(「ペットロス」ともいう)。
そんな「空白」の2年半があり、大吉を迎えたわけだが、それからみるみる色彩がよみがえった。頭の中がお花畑になったわけではなく、生きる気力のようなものが復活したのだ。意欲も徐々に増していき、福助を迎えてからは、あのとき断念した山の家も手に入れた。
7歳半でこの世を去った富士丸を越えて、今では大吉は10歳、福助は8歳になった。富士丸と暮らした日々は幸せだったが、今はまた別の幸せを感じている。雪の中に頭を突っ込む福助を見ながら「何やってんだよ」と笑ったりしながら。それは空白の2年半には一切消えていた感覚だ。
だから幸せになりたかったら、正確には幸せを感じたかったら犬を飼えばいいなどとは言うつもりはないが、犬がいることで自分の中の何かが変わるのは確かだと実感している。そして、彼らにもそう感じてもらいたいし、そんな暮らしが少しでも長く続いて欲しいと強く願う。
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