わが家の愛犬の「しつけ」はほとんどしていない それより効果的な方法がある?

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

破壊はある程度されるもの

 うちにいる大吉と福助は、なんの手もかからない。無駄に吠(ほ)えることもなければ、テーブルにある料理に手を出すこともない。留守中に食材を物色することもないし、何も破壊しないから注意する必要もない。

 そういうことを言うと「どうやってしつけたんですか?」と聞かれたりするが、特に何もしていない。幼い頃の破壊活動(福助による)はあったが、そのうち落ち着くだろうからと思い、ほとんど叱ったこともない。

 気をつけていたのは、洗剤など間違って食べたら危険なものを、彼らが届く場所には置かないようにする、ということくらい。破壊については、かじられそうなドアの角や柱にステンレスの定規を貼ったりして防御していた。

 やんちゃ盛りの子犬にいくら「かじるな!」と言ったところで、ほとんど効果はない。歯が生え変わるときはむずがゆいだろうし、なんとなくでも「噛(か)みたい」のだ。だからやられたくないところは「噛めない」ようにしておいた。

雑種犬、悩んで学んだ犬のこと
いきなり襲いかかる福助

 それでも、ちょっと家を空けた隙に思い入れのあるソファを無残に食いちぎられたり(2脚も!)したが、私の思い入れなど福助は知る由もないだろうから「ま、仕方ない」と諦めた。そんな破壊魔だった福助も、2歳頃には落ち着いた。どんな犬も必ず落ち着くときが来るのである。

 それは同じく破壊王だった富士丸との暮らしで学んだことだ(ちなみに彼もお気に入りのソファをぶち壊してくれた)。ただ、大吉はベッドの足を少しかじった程度でほとんど何も壊さなかった。そのあたりは気質の違いや個性かもしれない。いずれにしても、一生パンクな犬は聞いたことがない。

雑種犬、悩んで学んだ犬のこと
かつて破壊王だった人

盗み食いには「驚く」のが効果的

 食欲が旺盛で、拾い食いや、盗み食い、隙を見てテーブルにある料理を狙うという犬に困るという話もよく聞く。そもそも幼い犬には食べていいものとそうでないものの区別がつかない。テーブルに前脚をかけたり、登るのがいけないとも知らない。それは人間のルールだから。

 目の前においしそうなものがあれば食べたい。犬にとってそれは普通のことだ。そんなときに「ダメ!」と叱って覚えてもらうのもひとつの方法だと思うが、「え?何やってんの!?」と大げさに驚いてみるのも効果的だ。

 幼い頃の大吉が、何げなくテーブルに登ろうとしてたときに「ちょっとちょっと!それ、何やってんの!?」と演技で驚いたことがある。すると大吉は「え?まずかった?」とバツの悪そうな顔になり、それ以降同じことはしなくなった。

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富士丸を越えて8歳になった福助

 福助もまったく同じ方法で、2度ほど驚いて見せると、もうしなくなった。思うに、犬は叱られると、飼い主の口調や声のトーンや表情から「どれくらいまでセーフ」なのか察する能力があるのではないかと思う。

 その証拠に、飼い主がいくら「ダメ!」と言っても全然聞かないのに、普段の生活の中で絶対やってはいけないことはなぜかちゃんと守っている犬が多いのではないだろうか。それはきっと彼らがちょっとくらい叱られても「これくらいならセーフ」、「これはアウト」というラインがちゃんと分かっているからだと思う。

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動物病院は嫌だけど我慢する大吉

 犬は、私たちが思っている以上によく人間を観察していて、言葉をすべて理解していなくてもある程度感情を読み取って意思疎通は出来ているのだろう。大人になった犬はもちろんだが、子犬も意外にそのあたりは分かっているのではないかと思う。

 だから予想外の「驚く」というリアクションに戸惑うのだろう。その結果「あぁ、これはアウトなんだな」と一発で学習する。これもたしか、富士丸との暮らしの中で気づいたことだ。実践するときは、本当に大げさに驚いてみること。するときっと犬も「え?」という顔になるはずなので。

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めちゃくちゃ嫌そうな顔をする福助

オヤツで釣らない

 言った通りのことがちゃんと出来たら、ご褒美として犬にオヤツをあげるという方法もあるが、私はやらない。オヤツを一切あげないわけではなく、何かのご褒美としてあげることはない。幼い頃にはいいかもしれないが、ずっとそれを続けると、犬はオヤツが欲しくて従う状態になってしまうからだ。

 トイレシートの上でオシッコが出来たらオヤツをひとつあげた場合、オヤツが欲しいからもう出ないのにオシッコをするフリをするケースがあるように、目的が変わってしまうこともある。だからある程度覚えたら「よく出来たねぇ」と褒める方がいいと思う。犬にはそれも十分うれしいはずだから。

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毛づくろいする大吉をうざがる福助

 つまり、エサで釣るのではなく、信頼関係を築く方が大切だと思う。「しつけ」は一切しなくていいという意味ではなく、一緒に暮らすうえで覚えてもらわないと困ることもあるし、健康や命に関わることは従ってもらう。ただ、それ以外は彼らの意思も尊重して、譲れるところは譲るし、好きにさせている。

 大吉と福助はお手もおかわりもしないし(教えていないから)、見送りも出迎えもなく、これを書いている今も寝室で昼寝していたりするが、そういう距離感が私は心地いい。

雑種犬、悩んで学んだ犬のこと
びよーん

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穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
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