犬と暮らすと人は変わる 彼らにはそんな不思議な力がある
先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。
雪に興味がなかった20代
この前、山の家に行ったとき、昼から雪がちらつき、夜には少し積もり出した。これはもしかしたら積もるかもしれないぞ。そう思い、ちょっとワクワクした。しかし翌朝起きると1センチほどしか積もっておらず、午後にはそれもほとんど溶けてしまった。なんだよこれじゃ全然駄目だ、次に期待だな。そう思って、ふと我に返る。逆に積もらなくて良かったじゃないか。
そもそも雪は迷惑でしかない。スキーやスノボをする人には良いかもしれないが、私は一切興味がない。20代の頃、旅行会社に務めていたとき、スキーツアーの駐在員として野沢温泉に2シーズンいたことがあるが、4カ月滞在してスキーをしたのはトータルで10時間もない。それも担当者の代役で仕方なくやっただけで(超初心者向けボーゲンと転び方のレクチャー)、自ら進んでやったことはない。
野沢温泉といえば、冬場は広くて様々なコースが楽しめる人気のスキー場だ。そのため現地スタッフはスキー目的で来た人が多かったが、私は「寒いから行かない」と事務所のストーブの前か、民宿の炬燵で野沢菜をつまみながら主とお茶を飲んだりしていた。
野沢温泉あたりだと、雪かきも大変だった。大雪の翌朝はドアが開かなくて窓から出入りすることもあった。雪というのは意外に重たく、事務所の前の雪かきをするだけで汗だくになり、それが冷えて凍えそうになるから慌てて着替える。
除雪車が通った後は道路の両側に2メートルくらいの雪の壁が出来て、そこを車で走る。運転も大変で(当時はスパイクタイヤ)、雪質によって滑り方が違うから、運転する前にちょっとだけブレーキを踏んで今日の雪は危険かどうか判断しなくてはいけない。
雪を心待ちにするように
寒いし冷たいし歩きにくい。夜には凍るし、溶けかけも滑るから注意が必要。ようするに、私にとっては雪が降って良いことは何ひとつない。それなのに、今では雪を楽しみにするようになっている。それは単純に、犬が喜ぶからだ。
かつて暮らした富士丸はハスキーとコリーのミックス犬だったせいか、暑さにめっぽう弱く、寒さには異常に強かった。だから夏場は暑さを避けて山に遊びに行き、冬は雪を求めて山に向かった。雪を前にすると彼は顔を輝かせ、飽きることなく走り回る。そして雪の上でウトウトしていた。だから寒いのは嫌だったが、仕方なく彼に付き合っていた。
富士丸がいなくなり、そんなことは忘れかけていたが、大吉を迎えて雪が降った日、最初は困惑していたものの、そのうちうれしそうな顔をするようになった。福助もそうだ。山の家の下見に行った日、あいつははじめて雪を見た。そしてうれしそうに埋もれていた。そういう姿を見ているうちに、また雪を心待ちにするようになっていた。
現在暮らしている腰越(鎌倉市)はめったに雪なんて降らないから、軽自動車のノーマルタイヤで平気だ。けれど、冬場は路面が凍結したり、たまに雪が積もる山の家に行くために、4WDを買い、冬場にはスタッドレスタイヤに履き換える。山の家の物置小屋からタイヤを4本担いで降りるのは重労働だが、春と秋に毎年やっている。
考えられない変化
今だって雪が積もると運転は大変だ。寒いし冷たいし歩きにくい。でもそんなことは別にいいと思う。それよりしっかり積もってくれないか なと思う。大吉が埋もれるくらい、福助が顔から雪にダイブ出来るくらい。
こんな風に思うのは、30年前の私なら考えられない。そもそも山に家が欲しいなんて思ってもいないはずだ。これは間違いなく、富士丸や、大吉や福助の影響なのだ。でなければきっと私は今頃、部屋にこもってDVDを観るか本でも読んでいると思う。ここまで変わるとは想像もしていなかった。
今年の冬は、寒さが厳しいといわれている。そんなニュースを見ても、雪、積もるといいなあと思ってしまう。どうかしているが、それが犬の力なのだろう。恐ろしいやつらだ。
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