犬と暮らすことに憧れている人へ 彼らは癒やしてくれるのか
先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。
そばに犬がいる暮らしとは
ここをご覧の皆さんの中には、いつか犬と暮らしてみたいと思っているけどなかなか踏み出せない人もいるのではないだろうか。だからといって安易に「犬との暮らしはいいよ!」と勧めるつもりはまったくないし、様々な事情があるだろうから、あくまでも参考程度にしてもらえればと思う。
ちまたにはしつけ本や育て方に関する本は腐るほどあるから、日々の散歩やゴハンといった直接犬と関係のあることは何となくイメージ出来ているかもしれない。もちろん「この前」書いたように楽しいことばかりではない。しかし実際には、
いかなるときも急いで帰る
日常生活の中で、何げなく街を歩きながら気になる店があればのぞいてみたり、たとえば用事で新宿に出たついでに行きたかったところに立ち寄ってみる、なんてことは誰しもあると思う。しかし私は、事前に買うものを定めて、目的の店に直行する。買ったら直帰である。見て触って確かめなくていい場合、ネットで注文する。街をぶらぶらすることは、まずない。
出来ることなら、ちょっとはぶらぶらしたい。私は家電量販店やホームセンターが大好きなので(大きければ大きいほど心が弾む)、出来ることならゆっくり見て回りたい。画期的な新商品があるかもしれないし、意外な発想の便利なグッズに出会えるかもしれない。湧き上がるそうした衝動をぐっと抑え込み、目的のモノを買ったらサッと店を出る。なぜか。家で大福が待っているからだ。
正確には玄関で首を長くして待ちわびているわけではなく、寝室でのんびり昼寝しているのだが。しかも2〜3時間なら見送りにも来ないし出迎えもない。が、5時間を越えたあたりから、帰宅時に「どこ行ってたんだよもう」と不満げな顔をされる。だからなるべく留守番時間を短くするよう務めるし、散歩の時間もあるからのんびり買い物をしている余裕はないのだ。
これはもう長年の暮らしで染み付いてしまっているから、たまに映画を観に行くときも5時間ルールを守るようにしている。時間の差はあれど、犬(猫)と暮らす人はそんな暗黙のルールに縛られているのものだ。
出かける場所が変わっていく
仕事ならまだいいが、休日にふらっと出かけることもなくなる。なぜなら、犬はなぜか平日(仕事)と休日を雰囲気で察知する特殊能力があるので、休みの日に留守番させられそうになると「なんで?」と不服な目を向けてくるからだ。その罪悪感にさいなまれるうち、よっぽどのことがない限り、休日に彼らを置いて出かけなくなっていく。
必然的、というかほぼ強制的に彼らと出かける頻度が増えるし、犬はイレギュラーのお出かけが大好きなので「ヤッター!」となるのだが、そんなに簡単ではない。まず、犬連れで入れる場所でないといけない。近年、そういう施設も増えてはきたが、どこでも入れるわけではない。だから事前に調べないといけないし、さらにはご飯はどこで食べるか、犬OKの飲食店も探さないといけない。そういうことが面倒臭くなり、次第に街から山や川へ向かうようになる。その方が犬も喜ぶ。
旅行だってそうだ。犬OKの宿泊施設はまだまだ少ないから、宿を探すだけでもひと苦労する。犬連れ大歓迎の宿ならいいが、そうでない場合、客室は犬OKでも食堂はNGというところが多い。となると、食事のときは部屋に残して行くことになるが、彼らはそれが不満らしい。なので次第に旅先の食事なんてどうでもよくなり、貸しコテージやキャンプ場で夕食はバーベキューになる。犬は観光地よりそういうシチュエーションの方を好むからますます喜ぶ。
移動だって中型犬くらいになると電車は無理なので、車になる。彼らのためにも出来るだけ渋滞は避けたいから、出発は早朝、もしくは夜中になる。長距離になる場合は、彼らのために途中で度々休憩を挟む。車の運転も、遠心力と制動力を予測できない彼らのために仙人のようなおっとりした運転を心がけるようになる。長距離の運転は疲れるが、日が昇ると彼らは窓の外の景色をキラキラした目で眺めている。
旅先での時間の使い方
旅先では何をするかというと、特に何もしない。元々インドア派の私でも唯一釣りは好きなのだが、人が釣り糸を垂れているところにザブザブ入られたりするし、待っている間露骨につまらなそうな顔をされるので、犬との旅ではしなくなった。結局、河原やドッグランで遊ぶか、近くを散策する。彼らはウキウキした顔でずんずん進む。
香川県に行ったときは、うどん好きとして本場のさぬきうどんがどうしても食べたかったのだが、季節的に犬たちを車で待たせるわけにはいかない。仕方なく、ひとりが車に残り、嫁と交代で店に入り、つるっと食べて急いで戻ったりしていた。しかし本場のさぬきはうまかった。
犬飼いの定めのようなもの
このように、犬と暮らすと様々な制約がある。もし知らなかったら、覚悟しておいた方がいいと思う。とはいえ、そんなに構える必要はない。なぜなら、だんだん自然にそうなっていくからだ。そして、いつの間にかそれが普通になる。
街をぶらぶら出来なかったり、観光地に行かなくなったりして何か困ることがあるかというと、特にない。それより犬たちが喜んでくれた方がうれしい。山や川に遊びに行って、何もしなくても十分楽しい。
癒やされるとかではなく、そういう脳に変えられてしまうのだ。だから犬はある意味危険な存在ではあるが、後悔はまったくしていない。むしろ感謝しているくらいだ。犬と暮らすと、あなたもきっとこうなるだろう。恐らく間違いなく。ただ、別にお勧めはしない。
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