「散歩不要」と宣告されたシュナの子犬 「優しいトレーニングの呪い」が解け、幸せに
犬の幼稚園から「ストレスになるから体にはなるべく触らない。散歩にも行かなくていい」と断じられたミニチュアシュナウザーの男の子。UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長の元に駆け込むと、洋服を来てお散歩に行ったり、お散歩で笑顔を見せたりと、大激変!
激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。
「遠慮メンタル禁止! 犬を信じれば、犬も信じてくれる」
(前回のお話はこちら)
誰にも理解されず、混乱していたダリルくん
カウンセリングではお散歩の様子もチェック。いつものように興奮して吠えてしまうダリルくん。ところが店長がリードを握ると、引っ張るものの、ほとんど吠えることなく歩くことができた。触られてもお散歩でもキレないダリルくんの初めて見る姿に、お母さんは不安から解放されたという。
「帰り道に食べたごはんがすごくおいしかった。正直、ダリルのことで悩み、食事の味も感じられないほどだったのです」
高橋店長は、こう振り返る。
「お母さんもですが、最初に会った時のダリルくんはとても暗い顔をしていた。プロのトレーナーからも、大好きな家族からも理解されていなかったから」
ダリルくんの性格もあるが、そもそもミニチュアシュナウザーは「プライドが高く気が強く頑固で、吠える子は多い。それは裏を返せば、頭がいい、自分の意志、自己主張をしっかり持っているということ」と店長。
「ハンドシャイ」と言われたことについても、「柴犬などにも多い『気安く触んなよ!』とキレてるだけ。それも自分をきちんと持っている証拠です」と話す。
「シュナウザーの性質や個性を理解せず、ダリルくんのことをちゃんと見ず、それを一般的な『優しいトレーニング』で抑え込もうとしたから、強いダリルくんは混乱し、噛みや吠えといった行動につながってしまったのです」
「優しいトレーニング」の呪い
オヤツなどのご褒美を使い、叱らずにほめて育てる「優しいトレーニング」。
店長は、「罰を与えて従わせるような前時代的なトレー二ングより、優しいトレーニングの方がいいに決まっています」としながらも、「だからと言って、叱ってはいけない、いやがることをしたらかわいそう、トラウマになってしまうかもと犬に気を使い、挙げ句の果てに襲われて途方に暮れる……。うちにはそういう飼い主さんが次から次へとやってきます。なぜそこまで気を使う必要があるのか? ダメなことはダメと教えちゃいけないのか?」と力説。さらに、こう続ける。
「プロの言うことだからと信じ、腫れ物に触るようにダリルくんに接していたご家族はもちろん、トレーナーからも家族からも疑われてしまったダリルくんも、『優しいトレーニング』の呪いにかけられていた。社会化お泊まりは、その呪いを解く1週間。ダリルくんはたまりにたまったエネルギーを解放する。強いんだから、遠慮せずガンガン行きます。そして、ご家族には意識を変えるよう伝えました」
UGの社会化お泊まりは、月齢6カ月までの子犬を1週間預かるのが基本。それは、6カ月を超えた子犬になると自我や警戒心が出てくるケースが多く、1週間では厳しいことがあるからだ。
カウンセリングの際、優しいトレーニングで問題のない子には別の幼稚園などに行くことを勧める。逆に1週間以上かかりそうと判断した場合は、もっと長期の預かりトレーニングをしてくれる知り合いのトレーナーを紹介することも。
「自分の力でできないことが悔しいと思うことはあります。でも、僕のちっぽけなプライドなんてどうでもいい。犬と、犬に噛まれて身も心も傷ついているご家族を救うことが何よりも先決。たとえプロでも、いや、プロだからこそ、もし自分の手に負えないと感じたら別の策を考えるべきです」
この連載でも、トレーナーから処分宣告をされたウェルシュコーギーのまめくん、幼稚園で「犬にも人にも頼らない犬」と断じられたトイプードルのジュリオくんなど、「プロ」の言葉に傷ついた飼い主は少なくない。
病気になったときにセカンドオピニオンを求めるように、「このトレーニングはうちの子には合ってないかも」と感じたら、次に動く勇気も必要かもしれない。子犬の成長はあっという間。待ったなしだから。
「お散歩は楽しいと伝えたかった」
さて、社会化お泊まりに突入したダリルくん。幼稚園に通っていた経験もあり、子犬同士の遊びは上手だった。店長が力を入れたのがお散歩だ。最初こそ興奮と緊張から、見るもの聞く音に反応したが、「一つ一つ見せて、聞かせて、納得させて慣れさせればいい。頭がいいんですから」。
普段はあまり散歩中に声かけはしないというが、ダリルくんにはあえて声をかけながら歩いたという。
「これまで苦痛だったかもしれないけど、緊張しないでいいよ、お散歩は楽しいよ! と伝えたかった」
お泊まり中のLINEのやり取りで、お母さんが「体を締め付けるから、幼稚園では洋服も無理と言われた。服は無理ですよね?」と質問すると、すぐに店長から動画が届く。そこには、ダウンベストをおとなしく着せられるダリルくんの姿が。お母さん、またもビックリ!
「人が緊張するから犬も緊張する。お散歩もそう。こちらが信じてあげれば、ダリルくんも信じてくれるのです」
「遠慮メンタル禁止!」の言葉に目が覚めた
1週間、目いっぱい遊び、時には店長から雷を落とされ、たくさんお散歩し、ダリルくんは帰宅した。ところが……早速、甘噛みと吠えが復活したと連絡が。
「遠慮しながら接していたら元に戻るのは当たり前です。遠慮メンタル禁止!」
店長の言葉に、お母さんは目が覚めた。
「それまでの私は、ダリルがいやがったらどうしよう、ダリルに嫌われたくないと、店長が言うように遠慮していました。でも、ダリルを信じ、親としてやることは遠慮せずにやろう。きっとダリルにも伝わるだろうと思うことができたのです」
お母さんは毎日1時間半を超えるお散歩や、ドッグランにも積極的に出かけた。エネルギーと体力を発散したダリルくんは、リビングでも爆睡するように。触ることはもちろん、ブラッシングなどお手入れも受け入れられるようになった。
「洋服は苦手。でも、この先手術をして術後服を着せなければいけない場面があるかもしれないし、公共の場でエチケットのために服を着せることもあります。キレられようが何されようが、遠慮せずにガンガン服を着せています」
カフェに旅行……夢のような日々
1歳半を迎えた現在のダリルくんは、お出かけが大好きに。近所の公園に行けばたくさんの友達が待っている。「ワンコ仲間が増え、私たち家族の世界もぐんと広がりました」とお母さん。
カフェに行っても、旅先のホテルやレストランでも、とてもいい子に過ごすことができる。「お出かけは難しい」と烙印を押されたダリルくんが。
「一緒にお散歩できることが、お出かけできることが夢のようで幸せでたまりません」
お母さんはそう言って目を細めた。店長は「困ったことがあればいつでも相談してください。でも、ダリルくんを信じ、たくましくなったお母さんは、きっともう大丈夫」と笑顔を見せる。
「プロのペットショップ店員でありたい」と常に言い続けている店長だが、「店員だろうがトレーナーだろうがなんだろうが、もっとプロがしっかりしないと、不幸な犬、不幸な家族を増やしてしまう。最近そう思うことが多い」と吐露する。
UGには、ダリルくんのように「育てるのは難しい」と問題犬のレッテルを貼られたり、中には「脳がおかしい」と薬を投薬されたりする子も少なくない。店長曰く「多くは頭がいいから。でも、それを誰も理解してあげていない」。
犬の群れでの遊びやお散歩を通じてその子の「本来の姿」を引き出し、人と暮らす上で問題があれば軌道修正するように導く。飼い主側の意識や行動に問題があれば、それも修正していく。そうして犬は成長し、人は変わり、本当の家族になっていく。
「誤解されているなら、誤解を解いてあげたい」。それが、高橋店長の流儀。
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