多頭崩壊から救出されたチワワ 苦手だった屋外にもなれて散歩やカフェを楽しむ日々

3匹の犬
カフェで“おやつ待ち”をするこうめ(中央)。左は親友のはこちゃん

 犬猫の多頭飼育崩壊は、ブリーダーに限らず一般家庭でも起きています。世話をされず、散歩の経験すらない例も多いのでしょう。ある夫妻が崩壊現場から迎えたチワワも、最初は表に出るとすぐにフリーズ。でも今は散歩が好きで、犬の集まるカフェでも最高にエンジョイしています。そんなチワワの様子をのぞいてみました。

(末尾に写真特集があります)

食べることが大好き

 年明けの午後3時すぎ。犬と同伴できる代々木上原のカフェ「Tearoom Beagle(ティールーム・ビーグル)」(東京都渋谷区)を訪ねると、看板犬のビーグルやトイプードル、数匹の犬たちと共に、白いチワワが“おやつ待ち”をしていた。

 「私にちょうだい!」とでもいうように、身を乗り出してアピールしている。

 「うちの『こうめ』は食べることが大好きな女の子。この店のスタッフからおやつがもらえる “おいぬ時間”が楽しみで、我先にと真ん中を陣取るんです」

 こうめ(推定4歳)の飼い主、主婦の森廣さんがほほ笑む。

先住犬の体調が気になって

 森廣さんがこうめを迎えたのは、2019年8月。

 当時、家には13歳のメスの先住チワワ「みかん」がいた。その少し前までもう1匹チワワの「ゆず」がいたが、ゆずが15歳で旅立つと、みかんが体調を崩してしまった。

 「もともと複数飼いで、末っ子で育ったみかんは、おねえちゃん犬に依存していたんですね。1匹だけになったら、食欲をなくして暗くなってしまって」

 しばらくして食べ始めたものの、健康診断をしたら一気に腎臓、心臓の数値が悪くなっていた。そのまま介護に入るかもしれないが、もう1匹犬がいたら元気がでないものだろうか……。そんなことを考え出した時、こうめの存在を知ったという。

 「知り合いから、『軽井沢の保護団体(CACA)が長野県の上田市で多頭崩壊をおこした民家からチワワをレスキューしたので、預かりだけでもできない?』と、相談されたんです。まさにいいタイミングでした」

 森廣さんは夫と話し合い、単なる預かりではなく、みかんとの相性が大丈夫だったら「家族として迎えたい」と知人に申し出た。またよそに行くのは可哀想だと思ったからだ。

おなかを出して眠る犬
一昨年夏、家に迎えた初日にハウスで“へそ天”(森廣さん提供)

 そして、トライアルが始まった。こうめという名前もその時に決めた。こうめは取材したカフェで“堂々”としていたが、家に迎えた時、すでにそのキャラの片鱗が見られたようだ。

 「私たちが部屋をのぞくと、ハウスに戻って少し警戒しましたが、初日から“へそ天”(へそを上に向けて安心して寝る姿)でハウスで寝たんです。みかんにも、すぐに心を許しました。チワワが26匹いるところで育ったようですが、騒いで鳴くこともありませんでした」

 みかんも、こうめを「この子が家に来たんだな」とすぐ受け入れた。輸液をしたり薬を飲んだりしながらも、教育係を進んでしたそうだ。

 「こうめがおもちゃで大きな音をたてて遊んでいると『うるさい、おまえがそれで遊ぶな』みたいに注意をしていました(笑)。でも決して嫌がる感じはなかったな。3日目にはベッドで2匹一緒に寝て、みかんも気持ちに張りが出たのか、少し食べ始めたんです。相性がよく、こうめも慣れてくれたので、そのまま正式に家に迎えることにしました」

 こうめが来た時の体重は4㎏。チワワの平均体重を、ゆうに超えて、むちむちだった。

 「よいしょっとおデブ座り(横座り)して。ひざや関節の悪さも分かりました。お顔も“涙やけ”がひどくて、目の周り全体が黒ずんでいました」

2匹のチワワ
先住のみかん(左)は、こうめに何かを教えているようだったという(森廣さん提供)

 こうめの体重はみかんの倍近く。勢いよくぶつかったらみかんが吹っ飛ぶのではないかと心配したが、こうめがみかんを“たてた”のでその心配はなかった。

 それで、健康のためダイエットが必要だった。筋力を補うため、散歩をしよう!と森廣さんは決めた。

苦手な散歩を克服して

 こうめは外に出たことがあまりないのか、表に連れ出すと、音や、目にする物を怖がり、歩き出しても急に止まってフリーズした。

 森廣さんは慌てず、「ゆっくりと」散歩に慣れさせることにした。

 「ずっと抱くと抱き癖がつき今後も歩かなくなるので、ハーネスで体を持ち上げながら歩かせたり、少しだけ抱いて歩かせたり、私との信頼関係を築きながら、試行錯誤を繰り返しました。いろいろな所に行き、『散歩はこわくない』とわかってもらうように努力しました」

散歩中のチワワ
秋は枯れ葉の感触を楽しんで(森廣さん提供)

 散歩のコースに、以前から寄っていたこのカフェがあり、こうめも連れてきてみたら、犬の友達ができたそうだ。

 「特に仲良くなったのは、昨春、沖縄の保健所から救出され東京にきたはこちゃん。うちで先住犬のみかんの介護があり、こうめが本格的に散歩の練習に取り組み出した時期と、はこちゃんが東京に慣れようとしている時が重なった感じで。カフェで会った2匹はすぐに仲良くなりました。遠方から来た境遇が似ていて、通じ合ったのかしら」

 こうめの涙やけもぐんとよくなったようだ。どんなことに気をつけたのだろう。

 「涙やけの多い犬は、チキンベースのフードがNGなケースが多いので、それも一因かと思い、ラムベースのダイエット食をあげたら、涙やけがおさまったんです。散歩の効果もあり、体重は3.6㎏まで落ちました」

 先住犬にも散歩にも慣れ、お顔もきれいになって……スムーズにいったように思えるこうめだが、じつは家にきてしばらく、なじめないことがひとつ、あったそうだ。

 それはなんとパパの存在。

 森廣さんの夫が旅行の添乗員をしていて、コロナが広がる前は海外に行き家を空けることが多かった。こうめは最初「一緒に住む人」か「お客さん」かわからなかったようだ。

 「何日かして家に戻ると、このおじさんまた来たな、といぶかしげな顔をしていたんです。でも昨年、コロナの自粛で一緒の時間が増えて、その後、一緒に国内旅行をしたらパパと仲良くなりました。その時、やっと家族になれたという感じでしたね」

夫婦とチワワ
森廣さん夫妻とこうめ

 夫も、こう説明する。

 「コミュニケーションというのは、人も同じだけれど、“接触頻度×時間”ですよね。うちの他の犬はパピーの時から一緒だったけど、こうめは途中から。なんとかもっと距離を縮めたいと思う中で、コロナが起きました。働き方が変わり、こうめとの時間が増えたのは、神様からもらったチャンスだったかのかもしれない……」

 そう言っていとおしそうに、こうめを見つめた。

夫婦でこうめと向き合いたい

 先住のみかんは、こうめと約1年過ごした後に旅立っていった。最後の1週間は、酸素のサポート機材を置いたが、こうめは静かに寄り添ったそうだ。

 「みかんが旅立ったのは、前のゆずが逝った1年と数分後。がんばったんです。そんなみかんがいなくなり、こうめは散歩から帰ると、(それまでみかんが)寝ていたベッドをのぞきにいき、『あれ?おねえちゃんいない』というような、きょとんとした顔をしていました」

 森廣さんは、残されたこうめを大事にしていきたい、と話す。

 「私たちも、長年一緒にいたみかんを見送りつらかったですが、こうめが癒やしてくれましたね。この子がいなかったら、しーんとして夫婦の会話がなかったかも。こうめは1匹だけになって可哀想だけど、新たな犬をすぐには迎えず、夫婦でもう少しこうめと向き合い、いい時間を過ごしていきたいと思っています」

 夏の日、救出され命をつないだチワワは、夫婦にとってかけがえのない存在になっている。前向きでフレンドリーなところが、こうめの魅力だ。

3匹の犬
どんな犬とも折り合えるこうめ(中央)。左はお客さんの犬、右上は店の看板犬

 「はい、2回目のおやつタイムよ~」

 カフェでお客さんの声がすると、こうめは「私も!」と目を輝かせて犬の輪の中に入っていった。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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