最愛の先代犬を亡くした後に迎えた犬「こんなに違うの!?」 今では大切な存在に
ペットが亡くなった後に新たなペットを迎えて、“前の子を思い出してしまう”ということがあるかもしれません。ある女性も、深く愛した先代犬をなかなか忘れられず、後から来た犬とついつい比較。しつけもうまくいかず、飼育を諦めようかと悩んだことも……。それでも時間とともに犬との絆が深まり、今では“なくてはならない”存在になったようです。
目の大きな犬
「この子がオリちゃん。オリは、ハワイ語で幸せという意味なんですよ」
戸建ての2階の居間で、藤田千恵子さん(72歳)が笑顔で説明してくれた。その足元には、目の大きな黒っぽい雑種犬が寄り添っている。
オリは推定7歳。一昨年の7月、沖縄の動物愛護センターからやってきたという。よく見ると、右前脚の先が少し曲がっている。
「獣医さんによれば、幼い頃に骨折して、そのまま成長したようです。後ろ足も悪いし、耳も倒れている。この子、誰かに捨てられて放浪しているところを捕獲されて、保健所に連れていかれたんです」
千恵子さんは、オリを迎える前に迷いがあったという。
「私は毛がもしゃもしゃした犬が好きだけど、この子は短毛でしょ。目がつり上がった感じで怖くて嫌だった。私、自らすすんでこの子を欲したわけじゃないの。もともと、娘に飼ってみれば?といわれたんですよ……」
先代犬と思いがけなく別れて
周囲が犬をすすめるのには、大きなわけがあった。
千恵子さんは、3年前まで自身が経営する1階の美容室で働いていたが、引退する年の4月に、最愛の雄犬コナンがガンのため12歳半で亡くなってしまった。1歳で迎えてから11年半を共に過ごした、分身のような存在だった。
そんなコナンとの急な別れを、千恵子さんは受け入れられなかったのだ。
コナンは、美容室で働く千恵子さんのそばでおとなしく過ごし、時には互いに目配せをし、お茶を入れた籠をくわえて持ってきてお客様にサービスすることまでできる、賢い犬だった。
「孫が幼い頃、熱を出してスタッフルームに寝かせていると、コナンはそばに付き添っていましたよ。仕事をしている時は忙しかったので、朝の散歩は犬好きのスタッフに任せていました。仕事を引退したら、朝夕の2回、散歩に連れていくのを楽しみにしていたんです。散歩に行くよというとリードを自分で持ってきて、うれしすぎてくしゃみを何度もしていたのよね……よぼよぼでもいいから長生きしてねと言っていたんだけど」
写真を見て泣いてばかりの千恵子さんを見て、動物の保護活動をしている娘の亜子さんが心配し、「猫を飼わない?行き場のない可愛い子がいるの」と相談した。そして、コナンとの別れの3カ月後に、猫の楽楽(らら)、その2カ月後に福(ぷく)を迎え入れた。
可愛い猫に癒やされた千恵子さんだったが、いるはずのコナンが「いない」と嘆いた。気力も体力が落ちて、「このままだと後追いするかも」と周囲は心配した。亜子さんは、「何かの時は私が引き取るから、犬をまた飼う?お母さんは犬が好きだし」と提案した。
そして、沖縄のセンターに収容されていたオリや他の犬の写真を見せて、中高年のオリに白羽の矢がたったのだ。
「私の寿命を考えたら犬の飼育は10年が精いっぱい。自分が元気にしているうちに終わりを迎えるような年齢の子でないと無理よ、と娘に言っていたんです。オリは中高年だったしすぐに処分されそうだと聞いて、可哀想に思ったんです。決して私の好みではなかったけど(笑)、縁なのかなと思って」
千恵子さんは、オリが来る前に右足の股関節の手術をして杖をついていたが、「オリと散歩してリハビリをがんばろうかな」と思い、迎えることにしたのだ。コナンへのつらい思いも含め、すべてはそこから、リ・スタートするはずだった。
何度も比べて娘とケンカ
ところがそうスムーズにはいかず、オリを迎えると、すぐにコナンと比べてしまった。
「うちに来た時は、点数はマイナスね。オリちゃんにはまずトイレの問題があった。トイレを教えても、私が居間でお友達とお茶を飲んでいると、気を引きたいのか足元でジャーッ。猫の楽楽を抱くと焼きもちでジャーッ。コナンはしばらく相手をしなくても我慢できたのに……。オリちゃんは注意すると私の目を見てはくれるけど、能天気でどこ吹く風」
次の問題は散歩。オリは、散歩前にはコナンと同じようにうれしくてくしゃみを連発したが、いざ散歩となると、予想以上に千恵子さんを引っ張った。犬に会うと、いきなり走り寄った。
「私は16年前、コナンが来た翌年に左側の股関節の手術もしていたのだけど、コナンはこちらの歩行を気遣うようにして、まったく引っ張らなかったんです。オリに転ばされることはなかったけど、でもぐっと引っ張るから手が痛む。こんなに違うのかって思いました」
千恵子さんはすぐに、「朝から床でおしっこするし、私には無理。お庭があって、おしっこしてもいいような家にいった方がいいんじゃない?散歩中もすぐ引っ張るし」と亜子さんに言った。すると、「お母さん、こんな少しの間で音をあげるの?とにかく、比較はしないで」と亜子さんに言われたそうだ。
オリは、オスワリやマテはできるようになったが、その後も、トイレの問題はなかなか治らず。コナンの爪痕が残る床のあちこちに、千恵子さんはシーツを敷いた。シーツ以外のところで尿をすると、オリはひょうひょうと「ママには逆らえませ~ん」とおなかをみせた。
しつけ以外でも、性格的な面でもコナンと大きく違う。それも気になった。
「コナンは繊細で、神経質。テレビを夜遅くまで大きな音でつけていると、気になって眠れないのか、ウーーンと小さく鳴く。音量を下げると、今度は明るい電気が気になるのか、ウーーンと鳴く。だから私は気を使いました。ところがオリちゃんは、テレビを遅くまでつけていようが、書き物しようが、ウクレレを弾こうが、我関せず、爆睡してグースカピー」
「本当にぜんぜん違うよ」と口にすると、また亜子さんと言い合いになった。
「そんなに言うなら取り上げると言われ、私も返そうと思いました。でもオリもいい年だし、もらい手があるかどうかを考えると、手放すこともできず……そうこうしているうちに、『悩んで飼い続けるなら腹をくくって』と娘に言われて、引き受けるしかないなと」
手術ののち、オリと約束
周囲に見守られながら“同居”は続き、千恵子さんとオリは側に住む妹とその愛犬のトイプードルと、共に散歩することがルーチンになった。千恵子さんは散歩で転ぶこともなく、昨年1月、無事にオリとの初正月を迎えた。
ちょっとしたハプニングがその時に起きた。
「お正月に、うちの妹と、美容院の古いお客様で今は“犬友”さんと、皆でドッグランに行ったんです。途中で私がトイレに行って戻ったら、二人が『大変よ』と騒いでいて……」
自分のいない間に「犬同士でケンカでも?」と千恵子さんは思ったが、まったく違った。
「私が見えなくなったら、オリが『必死でドッグランをかけずり回っていた』と言うんです。それ、さみしくて探したというより、“わ~食いっぱぐれる”って思ったのでしょうね。オリは私がいなくてもごはんさえもらえば誰とでもうまくいくと思う、その点は安心(笑)」
辛口にいう千恵子さんだが、少しずつ、思いが通じ合うようになったようだ。
じつは昨年3月、千恵子さんに大腸がんが見つかり、4月に手術をした。
「手術は無事に済みましたが、(コロナの問題で)退院が長引き、20日ぶりに帰宅すると、オリは喜んでいましたね。でも抗がん剤治療が始まると自分の体力がなくなり、オリの散歩は主に息子に任せて、私はごはんとトイレの世話がやっとの状態……。正直お世話がつらくて、飼うのはもう無理か、とも思いましたが、『散歩に一緒にいきたい~』とオリの目が訴えるように私をまっすぐ見つめていたのを見て、よし頑張るよ!と約束したんです」
課題もあるけど満点
迎えて1年半が経ったが、周囲の誰もが驚く変化があるという。それは、オリの顔つきだ。
「前はもっと目がぎょろっとして、本当に漫画『DEATH NOTE』の死神リュークみたいだった。でも一緒に暮らすうちに、柔らかい表情になりました……この子のお気楽極楽なとこがいいのね。楽天的なところ、見習いたいわ」
コナンと比較ばかりするのではなく、オリのいいところも、どんどん見えてきたのだ。
その後、どんどんおもらしの数も減ったという。
つい最近、千恵子さんから来たラインには、こんな言葉がつづってあった。
「最近オリはよい子です。障害を気にせず元気に歩き、私も元気をもらって楽しく歩いています課題も少しあるけど、満点。今年もお正月に、妹と犬友とドッグランに行きましたが、わんこたちが喜ぶ姿を見て幸せを感じました。今はコナンにお返しをしてあげたかったことをオリちゃんにしています。これからもオリとのドタバタは続くけど、ゆるーくがんばります」
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