沖縄で放浪していた犬、東京で新生活 音に反応し電車に驚く…徐々に慣れ今は犬仲間も

抱っこされる犬
こちらをじっと見るはこちゃん

 沖縄で放浪していた犬が、東京に引っ越して新たな家を見つけました。しかし物音に驚いて、脱走を繰り返すなどハプニングが続出。それでもやさしい家族や気の合う犬仲間とふれあいながら、新たな環境に慣れてきたようです。

(末尾に写真特集があります)

 東京都渋谷区にある食堂「こうだ」。53年前に両親が始めた店で調理をする甲田さん(52)は、毎日、自宅のある調布から雑種の「はこ」(メス、推定7歳)と車で通勤している。

「迎えて7カ月ですが、最近やっと、私に抱っこを“ねだる”ようになったんです」

 店の休憩時間に、甲田さんがはこをひざに乗せて、笑顔で説明する。はこは“あなた誰?”というようにけげんそうな顔でこちらをみている。おとなしくしているが、これまで目まぐるしく、色々なことがあったようだ。

犬
17年近く連れ添ったぴーち (甲田さん提供)

先住犬が老いて

 はこは2月に沖縄県糸満市で保護され、動物愛護管理センターに収容。保護団体によって引き出され、飛行機に乗って東京まできて、個人ボランティア「猫部はなはた」が預かった。

 甲田さんはサイトでこの情報を見ていたのだが、その時、17歳を目前に控えたビーグルの「ぴーち」が家にいた。ぴーちは甲田さんが室内で初めて飼った犬で、長い間、食堂に同伴して、両親や店のお客さんにも可愛がられていた。

「2月、はこが収容された頃からぴーちの具合が悪くなったので、今になって思うと、ちょうど入れ替わりのような感じです。ぴーちが老いて体調を崩して食堂に連れてこられなくなると、母や周りの人が私のことを心配しだしたんですよね……」

女性と犬
はこに話しかける甲田さん

 周囲は、ずっと一緒にいたぴーちがいなくなったら甲田さんのメンタルは大丈夫だろうか?と心配し、「次の犬を迎えたほうがいいのではないか」と声をかけたのだった。

「次の犬のことは私も考えました、でも自分の年齢を考えると子犬や大型犬は難しいし、家に2匹猫がいるので、“猫を受け入れられること”も大事な条件でした。はこは7歳で、保護猫が多くいるボランティア宅で過ごしていたので、ぴったり。はこの写真が出ているサイトをぴーちに見せて、『いずれ引き取りたいと思っているのよ』と話しかけました」

 4月に入りコロナの緊急事態宣言が発令されると、店の営業時間を短くすることになった。それを機に、甲田さんはぴーちのために1カ月ほど「介護休暇を取る」と親に宣言した。後悔がないようにお世話をしたかったからだ。

 しかし、休みをとった翌11日、ぴーちは旅立ってしまった。甲田さんは三日ほど、何も手につかなかったという。

この出血はなに?

「ぴーちを荼毘にふして納骨した後、そうだ、はこはまだ(ボランティア宅に)いるかなと思って連絡すると、まだいると聞いて……6日後、夫とふたりで迎えにいきました」

 はこはビーグルと琉球犬の雑種だが、少しぴーちに似ていた。しかしブリーダーから迎えたぴーちと違い、未知の部分が多くあった。

「会いにいって散歩させてもらったら、バスをみてパニックになりました。その時は大丈夫でしたが、うちに来る前に脱走して、ボランティアさんが捕まえたそうです。玄関にあった60㎝のゲートを飛び越えて外に出たというので、うちでは90㎝のゲートを用意しました」

散歩する犬
家のそばの河原を散歩中「楽しいな」(甲田さん提供)

 家に来た日、はこはしばらく窓の外を見ていた。3日め、ぎょっとすることが起きた。お尻に血が付いていたのだ。

「この出血はなあに?と二度見しました。沖縄の病院でもボランティアさんが連れていった病院でも“避妊済みでしょう”と判断されていたのに、陰部が腫れてきて……。あらためて病院で診てもらうと、『間違いなく生理だけど、手術の痕はある』と言うのです。先生がおっしゃるには、子宮や卵巣が取りにくいところにあったか、この子の場合は可能性が低いけれど帝王切開で子どもを取りだしたか、それともそれ以外なのか……わからないのです」

 獣医師と相談し、時期をみて避妊手術をしようということになった。

店から家から相次いで脱走

 はこは朝6時に起きて、甲田さんの自宅付近を散歩する。散歩が終わると車に乗り、渋谷の店までやってくる。最初は車に酔ったが、少しずつ慣れてきた。

 5月。食堂に連れてきたはこを店の裏口のポールにつないでおいた時のこと。

 一緒に働く甲田さんのおじが「よく来たねー」と元気よく声をかけると、驚いたようにその場から逃げようとした。そして、ポールをひきずったまま駆けだしてしまったのだ。

「目の前は車の通りが多い道で、これはまずいと思って追いかけました。無事に向かいの駐車場で捕まえましたが、倒れたポールの音もあって、ますます驚いたのかもしれません」

 はこは人や音に対して敏感に反応した。沖縄での収容時には古いハーネスをしていたので人と関わっていたようだが、こわい思いをしたこともあったのかもしれない。

「室内で飼われたことはないのかもしれません。布団やソファにあがらず、庭に出たり入ったりする時に怖がります。推測ですが、家に入ることを拒否されたことがあるのかな、と。梅雨の時には、傘を持った時に後ずさりしたので、傘でたたかれたり“あっちいけ”といわれたことがあるのかもしれません。いろいろな経験をしてきたのでしょう……」

2匹の犬
「新しい子?」近隣の方が店の外からのぞいています。左は親友の小梅ちゃん

 トイレも室内でできなかったが、散歩に連れ出すと排泄をした。はじめは車に乗ると酔ったが、徐々に車の通勤にもなじんでいった。

「食堂の隣が実家なので、基本的に日中はそこで過ごします。休憩時には散歩にいき、夜になると店のほうに出て常連さんと触れあうこともはじめました」

 そんなふうに新生活に慣れてきた8月、アクシデントが起きた。はこを車の後部座席に乗せた後、ちょっとドアを開けた時に車外に飛び出てしまったのだ。

「ルーチンがわかってきて、今だ!と思ったんでしょう。一瞬の隙を突いてさーっと走って行きました。追うとうれしそうに逃げて、追いつかないなか、途中で水たまりの水も飲んでいました。そうか、彼女は以前、自由に外を走っていたからうれしいのはあたり前なのか……大きい道路に出なきゃいいけど、音を怖がるから行かないかなとか、いろいろ頭に巡りましたね」

 なかなか捕まえられないので、甲田さんはいったん冷静になって警察か動物愛護センターに連絡をしようと思い、家に向かった。そしてふっと後ろをむくと、はこがとことこと後をついてきて、そのまま一緒に家に入ったそうだ。

「ああ楽しかったわ、という顔をしていました。ことなきを得たけど、ボランティアさん宅も含めると3度目の脱走ですからね……それから20メートルのリードを買って、毎週必ず河原まで連れていって、自由に(20メートル内で)走らせて、ボール遊びも覚えました」

小さな親友ができた

 休憩中に店内で話を聞いていると、白いチワワを連れた女性が「こんにちは」と入り口のドアを開けてやってきた。チワワをみると、はこはうれしそうに尾を振ってあいさつをした。

「この子は小梅ちゃんといって、近所でたまたま会って仲良くなった保護犬なのですが、初めて会った時から、はこがすごく気にいったんです。体の大きさも違うので不思議なのですが、“白くて小さい”ので、家にいる白い猫の姿と重なったのかもしれません(笑)」

 小梅ちゃんも、はこが好きなのだという。よく散歩に一緒にいくが、飼い主さんによると、先にはこが帰ろうとすると、行かないで~と名残惜しそうにするそうだ。

女性と犬
一緒に通勤するお店の前で。日中は隣の実家で過ごしています

 2匹が店内で遊んでいると、お店の外を歩いていた女性が足をとめ、ドアを開けて「新しい子なの?ぴーちに少し似ているわねえ」と声をかけてきた。

 甲田さんが、しみじみという。 

「ぴーちを可愛がってくださった方が、今度は、はこを見てくださる。こうしてつながっていくんですよね……」

 はこは、ぴーちもよくいっていたカフェなどを訪れ、地元の犬との交流も深めているところだ。

都会の犬として練習は続く

 ハプニングがありながらも、はこは最初に思っていたよりは順応性が高かった。でもまだまだ緊張のシーンはあるという。苦手なのは、バイクや、宅配便の台車、そして生まれ育った場所にはなかった電車だ。

「ぴーちは電車に乗れましたが、はこは見るだけでパニックになる。だから今、大きさや音になれるために電車を“見る”練習をしています。捕らわれなければ自由のままでよかったのかな、とよぎることもあったけど、この子も人と一緒にいたいから捕まったのだと今は思っています。ぼちぼち沖縄生活からシフトしてもらえればいいですね」

 甲田さんがもうひとつ気にかけているのは、はこの体重だ。今は10㎏。スリムで、一見理想的にも見えるが、都会で“初めての寒い冬”を過ごすには、もう少し脂肪がついたほうがいいのではないかと考えている。

「この子の場合、ドッグフードは下痢をすることが多いんです。だから2食のうち1食は手作りし、加熱した羊肉や牛肉を中心にあげています。はこは年内にもう一度生理が来ると思うのですが、その後に検査をして、残された卵巣などを摘出する予定です。落ち着いたら、来年は(この子の親友も誘って)旅行にも行けたらいいなと思っています」

 甲田さんは、動物たちに優しい目を向ける。今後、店が休みの日などに食堂のスペースを使って、譲渡会をしたり、コミュニティーの場を提供していきたいという。

「これからも犬や猫が人間によって不幸にならないように、人間と幸福な共存ができる世の中になるように願いながら、できる限り私も、命の大切さを未来につなげていきたいと思っています。まずは、はこちゃんがハッピーでいないとね。さあ、そろそろ散歩の時間かな?」

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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