ペットロスから脱するには? 経験者が知る「立ちはだかる2つの壁」とは
先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。
重度のペットロスに
先日、某雑誌から取材の依頼があった。「何を話せばいいんですか?」と聞くと、ペットロスについてとのこと。取材で話す中で色々思い出したこともあり、スペースの都合上誌面に載らなかった話をしてみたい。
「ペットロス(ペットロス症候群)」とは、愛犬(愛猫)との別れにより精神的・身体的不調になる状態。どこからがペットロスというラインは分からないが、私に関して言えば、一時期はペットロスだったといって間違いないだろう、しかも重度の。
原因は、一緒に暮らていた富士丸との突然の別れ。7歳半で、健康診断でも問題なく、昼まで普通に元気だったのに、数時間家を空けて戻ると倒れていてすでに息をしていなかった。いつかいなくなることは心の奥底で覚悟はしていたが、当分先だろうと思っていたことが、不意に目の前に突き付けられた。その現実がどうしても受け入れられず、私は見事に壊れてしまった。
つらい、悲しい、自分を攻めるという精神的な不安定さ以外に、食欲もなくなり、眠れず、記憶力もなくなり、洗濯機を回しながら掃除するというレベルのことすら同時にこなすことが出来なくなった。生きる意欲もなくなった。
他にも色々あるが、書いたらきりがないので詳しく知りたい人は拙著『またね、富士丸。』を読んでみてね、知りたくないとは思うけど。なので、経験者としてペットロスについて語る資格くらいはあると思う。
色々あがいてみたけれど
ペットロスからの乗り越え方について、色々語られていることはあるが、最終的に私は2つしかないのではないかと思う。まずひとつは、時間に任せること。私も引っ越ししたり、旅行してみたり、色々試したがたいして効果はなかった。結局、時間が経つのを待つしかないのかと思った。
それは傷が癒えていくのとは少し違う。最初は頭の先からつま先まで全身を針で刺されるような鋭い痛みだったのが、段々と体の内側に入っていくにつれ鈍痛に変わり、それがやがて心の奥に沈んでいき、痛みはなくなるが黒い塊のようなものがどんと居座るような感じだった。それでももちろん表面上は普通に振る舞うことは出来る。あくまでも内面の話だ。
はっきり覚えていないが、私の場合そうなるまでに2年くらいかかった。だから完全に癒えるわけではない。もっと時間が経てば更に変わるのかもしれないが、それは分からない。なぜなら、私は別の道を選んだからだ。
立ちはだかる2つの壁
残るもうひとつの乗り越え方は、新たな犬(猫)を迎えることだと思う。ただ、新たに犬を迎えるには、これまた2つの壁が立ちはだかる。まずひとつは「またあんなつらい思いをするのかという恐怖」で、もうひとつは「あの子(先代犬)に申し訳ないという罪悪感」ではないだろうか。
私もそうだった。特に恐怖は大きく、大吉を迎える前は吐きそうになるほど悩んだ。罪悪感のようなものもあったが、大吉を迎えて分かったのは、富士丸への愛情は変わることなく、思い出も忘れることはない。富士丸がいなくなった穴を大吉が埋めたわけではない。穴はそのまま、特別な存在がまた増えただけだ。だから、そんな罪悪感は杞憂(きゆう)に終わると思う。
恐怖は今でもあるが、大吉を連れて帰った最初の夜、無垢(むく)な寝顔を見て、吐くほど悩んだのが急に馬鹿馬鹿しくなった。思うに、私は犬がそばにいる暮らしがしっくり来る体質になってしまったのだろう。いつの間にか富士丸によってそう変えられていたのだ。
あのままもう犬を迎えないという選択肢もあった。それはそれで普通に暮らせたと思うが、なんとなくつまらなかった。犬がそばにいる方が、しっくり来るし、楽しいし、彩りも豊かになる。おなかも減るし、よく眠れるし、意欲も湧いてくる。あいつめ、変な体質にしてくれたもんだ。
出会いはあっちからやって来ることも
取材の最後に「現在、ペットロスで苦しんでいる人にアドバイスがあれば」と聞かれたが、新たな犬を迎えた方がいいと答えつつ、恐らく救いにはならないだろうなと思っていた。なぜなら本当につらいときは、誰の励ましの言葉も届かないところまで落ちているのを経験して知っているから。
私にも「また犬を飼った方がいいよ」と助言してくれる人はいたが、表面では「そうですかね」と答えつつ、内心「放っておいてくれ」と思っていた。だから自分で決めればいいと思う。そもそも犬は人に勧められて飼うものでもないし。
ただ、犬はあっちからやって来ることがある。大吉は、本当に飼う気など全然なく、犬が好きだからちょくちょく見ていただけの「いつでも里親募集中」というサイトで、どうしても気になったのだ。
その後、実際に見てみたいと連絡してしまったのがいけなかった。普通ならまずお見合いだけして、考える時間があるはずなのに、なぜか先方の事情で当日、その場でどちらか決めなくてはならない状況にどんどん追い込まれたのだ(詳しくは『また、犬と暮らして。』参照)。
また、愛犬を亡くした知り合いは、たまたまインフルエンザにかかって休んでいる最中に里親募集のサイトである犬と出会ってしまい、たまたま近所で後日譲渡会があったから立ち寄ると、その犬が寄り添ってきて離れようとしなかったから引き取った、ということもある。
だからあっちから来たら、そのときは受け入れよう。あとは、ペットショップで子犬を買わなくても、家族を募集している犬はいっぱいいるし、自分の体力的なことも考慮するなら成犬(猫)譲渡もある。私と同じ体質になってしまった方は、参考程度に。
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