シャンプー後に全力で逃げる犬 飼い主は「諦めない精神」と「諦めの境地」を使い分ける

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

諦めてもらうまで諦めない

 犬にはそれぞれ苦手なことがあったりする。必死で抵抗することもあるし、怒ることもある。それも個性だから仕方ないのだが、中には従ってもらわないと困ることもある。たとえばドライヤー。うちの場合、大吉は最初から平気だったが、幼い頃の福助はドライヤーが大嫌いだった。洗った後に乾かそうとすると、全力で逃げる。

 犬にドライヤーの目的は分からないから、「ブォォォー! と風が吹き出す得体の知れないやつ」くらいの認識だったのだろう。とにかく逃げる。しかし乾かさないとあちこちでブルブルされて、いたるところがビショビショになる。

 それでは困るから、逃げたら捕まえてドライヤーをかけていた。それでも隙を狙って逃亡しようとする。その度に「まだ終わってないから」と捕まえていた。

 そんなことを繰り返していると「抵抗しても無駄」と悟ってくれたらしい。洗った後は仕方なさそうにドライヤーに耐えてくれるようになった。そのうち思ったより快適だと気付いたのか、ドライヤーをかけられながらウトウトするようになった。けれど、最初にこっちが諦めていたら絶対こうはならなかっただろう。

ドライヤーで乾かされる犬
嫌がって逃げていたとは思えぬ脱力っぷり

怒っても知らん

 他にもある。先代犬の富士丸は幼い頃、ゴハンを食べているときに近づいたり、体を触ったりすると「ウゥゥゥ」とうなっていた。私が子どもの頃、家にいた犬もそうだった。恐らく、奪われないよう威嚇しているのだろう。本能みたいなものなのか。

 だけどちょっと待て。そのゴハンを用意してるのは私だ。なのに取るわけないだろ、と言っても犬は理解してくれない。だから、食事中にあえて体を触るようにした。うなられても止めない。それでこっちに取る気がないことや、うなることが意味ないと分かってもらうために。そしたらうならなくなり、食に対しての警戒心はまったくなくなった。

 体のある部分を触られるのを嫌う犬もいる。大吉は、前脚を触られるのを嫌がってすぐに足を引っ込める。そこで諦めると、健康チェックをするときや爪を切るときに困る。だからそういうときは嫌がられても「はいはい、嫌なのは知ってるけど我慢して」という態度で前脚に触る。

犬の笑顔
歯磨きは大福ともに大丈夫だった

 そうしていると仕方ないときは諦めてくれるようになった。犬は、こちらが「抵抗しても無駄だから」という態度でいると、諦めの境地になってくれることがある。かといって、必要もないのに嫌がることはしない。諦めてもらわないと困る場合に限る(遊んでいるときにおちょくる意味でたまにやることはあるけど)。

たとえかまれても

 だけどそれが必要だと思ったら、かまれても止めない。福助は元野犬なのだが、保健所に捕獲されたとき(※1)の記憶からか、わが家に来た当初は警戒心が強く、人に抱き上げられるのを極度に嫌い、牙をむいていた。最初は怖い思いをしたんだから仕方ないかと思い「大丈夫だよぉ〜」と優しく接していたのだが、そのうち面倒臭くなった。

保護犬を迎える
わが家に来た当初の福助

 そんな腫れ物に触るような態度でいると、いつまでも距離が縮まらないと思ったのだ。だから抱き上げようとして牙をむかれたら「かみたいならかめよ」と腕を差し出していた。本気でかみたいわけではないのは知っていたし、構造上、かまれたとしても逆に押し込めば「オェ」となってすぐに離す(※2)。

心配する犬
常に不安そうな顔で大吉に心配される子犬福助

 けれど子犬の歯はとがっているから、軽くかまれてもちょっと血が出た。それは覚悟の上だ。もちろん一日中そんなことしたら嫌われるから普段は好きにさせて、寝る前の数分だけ「かんでみろ日課」をやっていた。

 隣で嫁は「嫌がってるからやめてあげなよ」と言っていたが、ここで諦めたら体を抱き上げることも出来ないし、病院に連れて行くときに困ると思って続けた。

 すると少しずつかまなくなり、そのうちどこを触っても怒らなくなった。よかったよかったと思ったが、納得いかなかったのは隣で止めていた嫁とも同時に距離が縮まり、嫁に対してもなすがままになったことだった。ま、いいけど。

ソファーでごろごろする犬
現在の福助

折れるところは折れる

 彼らに諦めてもらうのも大切だが、こちらも諦めないといけないことがある。例えば散歩。大福は外でしか排泄(はいせつ)したがらないので、雨でも台風でも毎日朝夕は散歩には行く。そこは諦めの境地で、ずぶぬれになろうが、凍えるほど寒かろうが、必ず行く。

飼い主の上で寝る犬
奥に写り込んでいるギターはチャキのP-50

 わが家では私がビールを飲むときに、何げなくオヤツをあげたのがきっかけで、彼らの中で勝手にルールになった。だから夜、私がブシュッとビールを開けると、大福が「ちょうだい」と駆け寄ってくるのが日課になっている。

 そこで忘れようもんなら「なんで?」という顔をされるので、「あ、ごめんごめん」と謝ってオヤツをひとつあげる。それはもう決定事項らしく、逆らうことが出来ない。

 オヤツのことはさておき、犬と人が一緒に暮らすうえでは、どこかで折り合いをつけないといけない。彼らの主張をすべて受け入れていたら困ることもあるし、何より健康管理に支障をきたすかもしれない。だから諦めてもらうまでやるし、それ以外のことはこちらが折れるようにしている。

 そんな関係だが、特定の技を覚えてもらうトレーニングにはまったく自信がない。たとえばフリスビーを投げても彼らは追いかけもせず、ぼてっと落ち「で、何?」という顔をされる。そういう遊びをしている犬と人を見かけると憧れていたが、もう諦めた。

夕日と海と犬
葉山の海岸にて

(※1)保健所の人は恐らく通報があったため捕獲する必要があったので、何も悪くありません。捕まえるときに、福助が恐怖を感じたというだけです。
(※2)凶暴な成犬に通用するかどうか分からないので、くれぐれもマネしないように。

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犬の笑顔が見たいから
著者:穴澤 賢
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穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
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