シェルターの保護猫に子どもが読み聞かせ 短時間で距離が縮まった!アメリカでの試み

本を読む女の子のそばにいる猫
シアトルのシェルターでは子どもたちが猫に絵本の読み聞かせをする

 子どもたちがシェルターにいる猫たちに絵本の読み聞かせをする。犬への読み聞かせプログラムは世界中でさかんにおこなわれているが、猫は珍しい。いったいどんなよさがあるのだろうか。

猫白血病ウイルス陽性の猫たちに読み聞かせ

「私たちのところには最後に来てね」

 シェルターの一番奥の部屋には、そう書かれた紙が貼ってある。そこは猫白血病ウイルス(Felv)陽性の猫たち専用の一室だ。シェルター内での感染を防ぐため、そのような注意書きが掲げられているのだ。

 小学5年生の女の子ケネディは、絵本を抱えてその部屋に入った。すると部屋に暮らす2匹のうち、茶トラ猫はひとしきりケネディのズボンの匂いを嗅いだあと、さっと高いところにかけのぼる。キジ白のほうは隅っこのほうに隠れてしまった。

 ケネディはベンチに腰かけ、おもむろに絵本を開く。今日彼女が選んだのは『おおきな木』と『もしもねずみにクッキーをあげると』。どちらも長く読み継がれてきた絵本だ。穏やかな声でゆっくりと、でも猫たちにも聞こえるように読み聞かせを始める。

 「あるところに、いっぽんの木がありました……」

本を読む女の子と猫
自分が安全と感じる場所からケネディを見下ろす茶トラ猫

 読み進むうちに、高いところから見下ろしていた茶トラが、少しずつ下のほうに降りてくる。やがて、ついに手の届く距離まで来て、体を触らせてくれた。ケネディの顔に満面の笑みが広がる。

女の子と茶トラ猫
茶トラがそばに来てくれた!

 1冊目を読み終わり、2冊目を読んでいると、今度は隠れていたキジ白猫も出てきて、なんとケネディのすぐ横に座った。読み聞かせを続けながら、ケネディはそっと片手をのばして背中をなでる。キジ白猫はもう逃げることなく、目を細めて気持ちよさそうにしている。

猫の背中をなでる
隠れていたキジ白猫もすぐそばに来た

 ケネディは猫をこわがらせないように、静かにゆっくり動く。けっして急な動きはしない。自分から猫に近づくこともせず、猫のほうから来るまでじっと待っている。その様子を見ていると、彼女が猫という動物をよく理解し、尊重していることがわかる。

 猫たちのほうもそんな彼女に「この子なら大丈夫」と心を開いた。穏やかな人の声は猫たちの耳に心地よく響き、安心感を与えるようだ。読み聞かせの時間は約20分。初対面の子どもと猫の距離が短時間のうちにこれほど縮まったことに驚いた。

猫の社会化をお手伝い

 子どもたちがシェルターにいる猫たちに読み聞かせをする、このユニークなプログラムを2014年に始めたのは、シアトルの動物保護団体Seattle Humaneで、プログラム名はKitty Literature (猫のための文学)。

アメリカの動物シェルター
動物保護団体Seattle Humaneの建物

 広報担当のベッカ・サンディによると、最初は子どもたちが犬に読み聞かせをするプログラムを考えたそうだ。だが、このシェルターで引き受けているのは攻撃性があるなどむずかしい犬が多いため、猫にしたという。

 子どもたちが犬に読み聞かせをするプログラムは、アメリカはもちろんのこと、日本を含む世界各地で広くおこなわれているが、猫はまだ少ない。いったいどんなよさがあるのだろうか?

 「あまり社会化されていない猫が人に慣れる、というメリットがあります。触られるのが好きではない猫が自分から人に近寄るようになっていったりする。すると、譲渡先が見つかるチャンスが高まるんです」とベッカ。

子どもたちの共感力を育む

 子どもにとってはどうだろうか。

 このプログラムに参加して3年になるというケネディは言う。

「本は好きなんだけど、声を出して読むのは苦手だったの。でも、いまは教室でみんなの前で読むのが少し楽になったかな」

 犬に読み聞かせをするプログラムの多くは読書教育の一環としておこなわれている。このプログラムはそうではないが、結果として読書教育の一助にもなっているようだ。

 子どもたちは保護猫の社会化を助けるボランティアという位置づけで、みんな誇らしそうにボランティアのID証を首から下げている。

 「猫たちが人に慣れるお手伝いができて、私も大好きな猫に触れる」

 ケネディはそう言ってほほ笑んだ。

 シェルターにはこの日60匹ほどの猫がいたが、彼女が猫白血病ウイルス陽性というもっとももらわれるチャンスの少なそうな猫たちの部屋を選んだことに、私は感銘を受けた。

 子どもたちには共感力が育まれ、読書力も向上する。猫たちの社会化も進む。まさにウィン・ウィンであるこのようなプログラムには大きな可能性を感じる。

◆大塚敦子さんのHPや関連書籍はこちら

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大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この特集について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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