「わが家は子猫の保育園」 親子いっしょに預かりボランティア
保護された猫に譲渡先が見つかるまでの間、お世話を引き受ける「預かりボランティア」。幼い保護猫にとっては命綱だが、まだまだ手が足りない。お母さんといっしょに、子猫たちのお世話をしている子どもボランティアも大忙しだ。
ゴミ捨て場の遺棄猫
都内にあるペット可のマンションの一室。窓辺の光の中で、子猫たちがまどろんでいる。
その寝顔を愛しそうにのぞき込んでいるのは、次男で小学4年生の音翔(おと)くん。ふわふわの毛が逆光に輝いて、どの子もどの子も愛らしく、幸せを絵に描いたようだ。
だが、この5匹は、目が開いたばかりの1か月前、千葉県M市のごみ集積所に捨てられていた子たちだ。獣医さんの元へと持ち込まれ、ギリギリで命を救われた。
千葉県内で社会福祉活動としての犬猫保護活動を続ける団体「goens(ごえん)」の預かりボランティアである孝枝さんの家にやってきたのは、数週間前。孝枝さんは、預かりボランティアの中でも、授乳を必要とする子猫を預かる「ミルクボランティア」を、今夏から引き受けている。
これまでに通算12匹の子猫を預かった。譲渡先に送り出した子もいるし、離乳後に仲間の預かりボランティアに引き継いだ子もいる。いい流れを作って、いつでも授乳期の保護猫を受け入れられる体制を整えておかなければ、小さな命は消えてしまう。
家族ぐるみで
預かりボランティアを始めたきっかけは、中学1年生の長男、凛久(りく)くんの課外活動だった。凛久くんの通う中学校では、自分で選んだテーマの課外活動が必須となっている。
凛久くんは、気になっていた捨て猫問題を取り上げることにした。2匹目の飼い猫シロは、譲渡会でもらった保護猫である。その縁で、譲渡会などのお手伝いをさせてもらううちに、人間と動物とのしあわせな共生をめざして活動する「goens」の理念に共感。やがて、家族ぐるみでミルクボランティアを始めたのだった。
弟の音翔くんは、ごはん係を担当している。哺乳瓶でミルクをあげるときは、真剣そのものの目つきになる。自分のお世話の一つ一つがいのちに直結していることを、よくわかっているのだ。
兄の凛久くんは、ちょうど反抗期。だが、子猫がいるおかげで、家の中の空気が「柔らかくなっている」と、孝枝さんは言う。
「夫もとても協力的です。長男は、自分で調べたり活動に参加したりするうちに、猫たちを取り巻く社会の諸問題が見えてきているようです。次男の方も、学校で消極的な子に声掛けをしたりする配慮が持てるようになったのは、いろいろなタイプの子猫たちと出遭ったからかもしれません」
ボランティアを長く続けるためには、保護猫がしあわせになっていく過程を実感しながら、親も子も自分にできる範囲のことを楽しむことが一番だと、孝枝さんは思っている。
「子猫たちはいろいろな思いをしてここにやってくる。どの子もしあわせになるお手伝いができれば」
家族4人、思いは同じだ。
猫への恩返し
千葉県に住むシステム・エンジニアの鶴子さんは、6歳の保育園児、彩幸(さゆき)ちゃんとの2人暮らし。彩幸ちゃんが生まれる前に、ノラ母さんから生まれた「ダイスケ」というキジトラ猫をもらって飼っていた。
「離婚後、ひとりで子育てしていてつらいとき、いつもダイスケは励ますように寄り添い続けてくれました。ゴミ捨て場から私が持ち帰った『ユースケ』と『コースケ』のことも、排尿のお世話までして育ててくれました。小さな娘と一緒にできることで猫に恩返しをしようと、1年ちょっと前に、預かりボランティアに名乗り出たんです」
これまでに送り出したのは、7匹。最初の1匹、2匹を送り出すとき、彩幸ちゃんは大号泣した。だが、譲渡先から「こんなに大きくなりました」という写真がメール添付で送られてきた。そのたびに「しあわせそうだね~、よかったね~」と親子で語り合ううち、彩幸ちゃんは送り出すときに泣かなくなった。今では「行ってらっしゃい」と笑顔で送り出す。
「送り出した子、みんな覚えてる?」と聞いてみた。ニッコリ笑顔とともにこんな答えが返ってきた。
「みーんな覚えてる。雪見とか、大福とか、すぐりとか、ココアとか、チョコとか……。みんな幸せになったから、安心してる」
黒猫すぐりは、鶴子さんと目が合うだけで「シャー」と言い、おやつを差し出しても、パーンと手で叩き落とす手ごわい猫だった。だが、ある日、ふと見ると、彩幸ちゃんに抱っこされていたという。
小さな園長先生
「我が家は保護っ子の保育園。彩幸は、すぐに入園児を手なずける、人気者の園長先生。私? 給食担当スタッフです」と、鶴子さんは笑う。
小さな園長先生は大忙し。朝は子猫に顔をなめられて起こされ、ご飯の用意やケージ内の掃除、皿洗い、遊び相手や寝かしつけも。goensの譲渡会やイベントにも、ママと一緒にお手伝いに行く。譲渡会に出る猫たちをケージに入れるのも手早いし、ケージ内の汚れにもいち早く気づく。猫目線で、細かく動ける彩幸ちゃんは、goensには、なくてはならぬ戦力になっている。
現在の預かり猫は、6匹。ケージハウスをお城としているおとな猫「もえ」以外はまだ手のかかる子猫だ。ゴミのように捨てられていた「グレイ」「シンバ」「ナラ」の3きょうだいは、音翔くんの家で乳離れを済ませた後に引き継いだ。多頭飼育崩壊の現場から保健所へ送られたところをgoensに引き出してもらい、ここにやってきたのは、「ビスコ」と「チビ」だ。
ここで、彩幸ちゃんやダイスケくんたちにたっぷり遊んでもらった子猫たちは、トライアル先に小さな子どもがいても先住猫がいても、すんなり溶け込むことができ、譲渡が決まりやすい。
夢が生まれた
預かり子猫たちの中には、弱っていた子やけがをした子もいる。彩幸ちゃんはこんなことを言い出した。
「あたし、動物のお医者さんになる!」
母の鶴子さんにとって、ボランティア活動が娘に未来の夢を持たせてくれたことが、何よりうれしいことだった。
どの子も、幸せになあれ。母親と一緒にそう願って子猫たちのお世話をする日々。それは、自分のしあわせと子猫のしあわせを重ね合わせ、小さな心にゆたかな共生観を育む土台にもなることだろう。
「みんなー、おやつですよお」
小さな園長先生の足元に、子猫たちが集まってきた。
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