子猫の世話に奮闘するミルクボランティア 送り出す先にある喜び
母親のいない、まだ離乳前の子猫が保護された場合、預かって育てるのが「ミルクボランティア」だ。無事育て上げ、譲渡先に送り出すまで、気の抜けない「奮闘」の日々が続く。その苦労の先に、喜びがあるのだという。
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「さあ、いちばんお腹がすいているのは、どの子かな?」
墨田由梨さんが微笑みかける。5匹の子猫たちは、まるで母鳥が運ぶ餌を待つ小鳥たちのように、一斉にピィピィと鳴く。
ここは東京・杉並区の一軒家。朝から3回目のミルクの時間だ。ようやく3時間おきから5~6時間おきになったものの、下痢の子がいて病院通いが続いている。
子猫は8週くらいまで、体調が急変しやすい。ミルクの飲みが悪くなったり、目がぐしゅぐしゅしたり、体重が増えなかったりと、どの子にも気を抜けない日々が続く。
目の前の5匹の子猫たちは、まだ生後3週くらい。2週間前、口を縛ったビニール袋に入れられ、アパートの前の蓋つきのごみ箱に棄てられていた。登校途中の小学生が、かすかな鳴き声に気づき、そばにいた大人に知らせた。その人が交番に届け、5匹は所轄の警察署に運ばれた。そこから、保護団体に連絡が入った。
その保護団体と協力関係にある墨田さんが、すぐさま警察署に5匹を迎えに行くと、すでに署員がミルクや哺乳瓶を買いに走って、5匹はちゃんとミルクをもらっていた。小学生、近所の人、交番の警察官、本署の警察官、保護団体、墨田さん。どれが欠けても、この子たちの命は失われていただろう。
子猫11匹を預かる「保育園」
子猫たちのケアは、細心の注意が要る。ティッシュで肛門付近をトントンとやさしく刺激して排泄を促し、その際に尿や便に異常がないかチェックする。生後3週くらいまではミルクを与え、個体差を考慮しながら、少しずつ離乳食へ移行する。獣医から処方された薬を飲ませたり、目薬を差してやったりする子もいる。動きが活発になってきたらきたで、目が離せない。
「歩き始めた子たちは私の後をついてきて、一斉によじ登るから、もう大変」と、墨田さん。
5匹全員、ちゃんとミルクを飲んで、おねむ顔になってきて、これでひと区切り……とはいかない。なぜなら、墨田家2階の陽の当たるサロンには、この5きょうだいの他、2組の3匹きょうだいもいて、さながら「保護猫保育園」になっているのである。
墨田さんは現在、なんと合計11匹の子猫たちの「お母さん」なのだ。墨田家の元保護猫「純一」「リリ」「ニケ」の3匹が保育助手をしてくれるものの、毎年毎年、春の子猫ラッシュ時は、保護団体や個人ボランティアからのSOSで、いつ寝たかわからないくらいの忙しさが襲う。
さっきから室内を探検中の茶トラ、キジトラ、クロの3きょうだいは、3月生まれ。個人ボランティアから母猫の堕胎と不妊手術を依頼された女性獣医が、お腹を開けた後、処置するのはしのびなくて蘇生させた子猫たちだ。「自分で育てて譲渡先を探す」という獣医さんの負担を気遣い、墨田さんが引き受けた。
見分けがつかないほどそっくりなキジトラ3きょうだいは、過酷な現場から臨月で緊急保護されたノラ猫がシェルター内で産んだ子たち。生後1週間ほどで育児放棄の様子が見られたため、墨田さんが引き受けた。体調が安定するまで、どれほどハラハラしたことか。6匹預かりでいっぱいいっぱいだったところにやって来たのが、今回の遺棄猫5匹だった。
子猫を救えなかった記憶
墨田さんがここまで保護活動に骨身を惜しまない原動力は、いったいどこから来るのか。
「小学校4年生の時に、助けてあげられなかった子猫たちがいるんです。段ボールに入れられて捨てられていたのを拾って帰ると、母に『汚いから、元の場所に置いてらっしゃい』と言われました。汚いのなら洗えばいいんだわと、洗ってやっていたら、母にこっぴどく叱られて。自転車で家出したんです。はるばる、おばあちゃんの家まで」
子どもの身では、子猫を救うことはできなかった。悲しかった。それが、原点だった。
40代だった13年前、当時住んでいた社宅アパートの駐車場で、ノラ母さんが必死に子育てをしているのに出くわした。少女時代の悲しみが蘇った。母猫は避妊手術を受けさせ、子猫たちの譲渡先を探した。以来、保護活動を個人で続けている。
「当時は、協力的な獣医さんも情報も仲間もなく、孤独な闘いでした。少しずつ仲間や協力医も増え、一軒家に越してからは、夫の理解のもとに一時預かりもできるようになりました」
現在は、ミルクボランティアのほか、東京都の動物愛護推進員として子どもたちへの愛護啓発授業にも参加。誰にでもフレンドリーな猫ニケくんを連れて、老人ホームなどへの慰問も続けている。奄美大島のノネコ管理センターに捕獲されているノネコの譲渡対象登録にも申請受理され、さっそく1匹迎えたばかりだ。森で捕獲されて10日というのに、スリスリ甘えてくるという。
「いのちを輝かせて」
「人間に心無い仕打ちを受ける動物たちを助けたい、と一途に願った子ども心が今に続いてるだけ」と墨田さんは笑う。
「外で暮らす猫たちの一生は過酷で短い。一時預かりやシェルターボランティア、寄付など、自分のできる範囲での手の差し伸べ方が誰にもきっとあるはず。みんなで手をつなぎ合う世の中にしていきませんか」
取材後、茶トラ・キジトラ・黒の3きょうだいは、一緒の家にもらわれていった。
子猫たちを送り出すたび、「しあわせな猫、そして、猫のいるしあわせな家族が増えた」という喜びが墨田さんの全身を包む。そして「救えなかった猫たちの分まで、いのちを輝かせて」と願う。
苦労も、疲れも、羽が生えて飛んでいく瞬間だ。
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