人生の大半を共にした最愛の猫「アーサー」 20歳で旅立った

ちょいちょい、舌をしまいわすれる癖があったアーサー。ハンサム顔が一気に間抜けっぽくなるのが大好きでした
ちょいちょい、舌をしまいわすれる癖があったアーサー。ハンサム顔が一気に間抜けっぽくなるのが大好きでした

 私が20歳の時から飼い始めたアーサー。彼はなんと20年も私の大切な弟でありつづけてくれました。

(末尾に写真特集があります)

人生の大半を共にした猫

 今から20年以上前のこと。ディーナの出産騒動を経て、しばし我が家には平穏が訪れました。アーサー(アビシニアン)を筆頭に、クリス・ココのアメリカンショートヘア2匹、同じくアビシニアンのディーナ。そして犬のネネちゃんが動物家族です。

 そんな折、私が三番目の夫と再婚。

 クリスとココを連れ子に(?)東京で新生活をスタートさせたのもつかの間、我が家を訪ねた両親が帰宅途中、不慮の交通事故で他界しました。

 一人娘の私はパニックです。そんな私を支えてくれたのは、家族でした。夫にしてみたらびっくりすることの連続だったと思います。猫好きと結婚したのはわかっていたものの、実家から犬猫を引き取って、猫4匹犬1匹に。そのために引っ越しまですることになったのですから。

 動物たちも私の心の支えでした。彼らがどれだけ、私に笑顔をくれたことでしょう。特にアーサーは、私が20歳のときに飼い始めた子。弟のような存在でしたし、彼も自分は特別だと思っていたようで(絶対、自分を猫だとは思っていませんでした)。特に夫のことをライバル視して、頑として認めようとはしませんでした。

お花と表彰状と一緒に記念撮影。さりげなく視線を外すあたり、写真慣れしてるんでしょうか…
お花と表彰状と一緒に記念撮影。さりげなく視線を外すあたり、写真慣れしてるんでしょうか…

 アーサーが18歳を迎えたとき、主治医から感謝状をもらいました。ご長寿猫さんを表彰してくださるのだそうです。いただいた賞状とお花を前に撮影したアーサーは、なんだか誇らしげでした。

猫「アーサー」、夫婦げんかの助っ人も?

 夫婦で口論していると、きまってアーサーは私に加勢しました。一緒になって夫に向かってわぁわぁ文句を言うのです。

 あるとき、夫は仕事机の前に座り、私はそばに立って議論していると、床に座ったアーサーがいつものごとくウニャウニャと議論に加わりました。つい夫が「ちょっと、アーサーうるさい!」と彼を叱りました。すると……。

 口の中でなにやらぶつぶつ言いながら、アーサーは夫の机へ。さらにパソコンの上へと(当時はブラウン管でした)上ります。そうすると、座っている夫よりも高い位置になります。

「んぎゃおうぅぅ!!!!」

 まさに一喝。

(うるさいだと? 失礼な!)

 とりあえず夫は「すみません」と謝って、猫用煮干しで勘弁してもらっていました。

目覚まし時計をなめてなだめる

 私が深夜まで原稿を書いているとき、アーサーは律義にそばで起きて付き合います。そして朝目覚めると、まず起こすのは夫です。遅くまで仕事をしていた私を、なるべく寝かせておこうと思うようです。

 アーサーの起こし方はなかなか手荒でした。ぺしぺしと前脚で夫の顔をたたき、それでも起きないと耳元でぶつぶつ文句を言うか、顔をザラザラの舌でなめるのです。

 私を寝かせておこうという努力は目覚まし時計にも向けられました。目覚ましが鳴ると、アーサーは布団から飛び出して、一生懸命なだめるように時計をなめるのです。私が手を伸ばしてアラームを止めると、アーサーもまた布団の中へ。ところが5分すると、スヌーズ機能で再び鳴り出します。するとアーサーが飛んで行って時計をなめて…の繰り返し。どこまでも「お姉至上主義」で、自分は一番の弟だと自負していたようです。

点滴にも肝の据わった猫

 そんなアーサーも19歳を過ぎたあたりから、あちこちに不調が出始めました。慢性腸炎、血圧、そしてお定まりの腎疾患。薬の数が増え、一個ずつ口をこじ開けるのもかわいそうなので、夫のアイデアで、薬局で売っている空っぽのカプセルにまとめて薬を詰めて飲ませるようにしました。

晩年のアーサー。ひだまりでお昼寝する時間がどんどん長くなりました。このライオンのような顔、四角いマズル(口周り)が好きでした
晩年のアーサー。ひだまりでお昼寝する時間がどんどん長くなりました。このライオンのような顔、四角いマズル(口周り)が好きでした

 脱水症状改善のための皮下輸液もスタート。不思議と病院を怖がらない猫で、点滴の間身体をおさえていなくてもじっとしています。それどころか時折後ろの点滴バッグを見上げては「ふぅ…(まだか…)」と肩でため息をつく始末。

「僕がやるとお金がかかっちゃうから、自宅でやってみてください。やり方お教えしますから」

 主治医の申し出で、皮下輸液のやり方を教わることに。ところが私が、どうしても針が刺せないんです。血管に挿入するわけではないので簡単なのですが、どうしても怖くて。

 結局、投薬も点滴も夫が担当することに。どんどん手なれて行って、へたくそな私がやるよりよっぽどスムーズになりました。

「猫の嫌がることは引き受けるよ。僕が憎まれ役になればいい。君はとにかく、愛情をかけてあげてくれ」

 そういってくれた夫には本当に頭が下がります。事情を知らないアーサーは、薬や点滴が終わると私のところへすっ飛んできて、夫をにらんでは訴えます。

(お姉、あいつどうにかしてよ! 人の口こじ開けたり背中に針刺したりさ。これって『ぎゃくたい』って言うんじゃないの?)

 かと思うと、私に叱られたときは夫に助けを求めます。めったになつかない夫のところへすり寄って、のどを鳴らしながら夫の気を引きます。夫が「どうした?」と声をかけると、私の方を見て、それから夫の顔を見て、悲しそうに一言「なーう」。どうやら仲裁をお願いしているようです。そんな顔を見たら、許さないわけにいきません。アーサーを抱きしめ「もう怒ってないよ」とキスをすると、あっという間にドヤ顔です。

仕事机の椅子がアーサーのお気に入り。お茶をいれて帰ってくると、もうとられてたりしました
仕事机の椅子がアーサーのお気に入り。お茶をいれて帰ってくると、もうとられてたりしました

 最終的にアーサーは、20歳を迎えた直後、亡くなりました。

 次第に足腰が衰え、最後は酸素ボックスに。あれはダメ、これもダメと食事制限が続いたので、最後ぐらい好物を…と、亡くなる30分前に、大さじに山盛り一杯、マグロの赤身を平らげて逝きました。

 20歳から40歳まで、私の人生の半分を共にしてくれた最愛の猫。両親の死後、久しぶりに涙が枯れるまで泣きました。

 夏だったので、ひまわりを一杯入れて、荼毘に付しました。不思議なことに、火葬にする寸前まで心身が引き裂かれるような思いがしていたのに、真っ白なお骨になったアーサーを見たとたん、涙がとまりました。小さな骨つぼを胸に抱いて、私の中に浮かんだのは「もう苦しくない。もうどこへも行かない」という思いでした。

 うちの子になって幸せだったかな。そうだといいな。動物を見送るたびに思うことです。そして「ありがとう」の言葉しか出てこないのです。

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この連載について
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猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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