深夜2時 ボンネットにぽつんと座っていた愛猫そっくりの猫

保護して間もないころのユーリ。まだどこか目つきがシャープ。外でずっと暮らしていたのか、自由に出入りしていたのか…。外猫特有の緊張感のある顔つきでした
保護して間もないころのユーリ。まだどこか目つきがシャープ。外でずっと暮らしていたのか、自由に出入りしていたのか…。外猫特有の緊張感のある顔つきでした

 深夜、愛猫によく似た猫に外で出会ってしまったら? そんな風にして迎えた、ニューフェースの思い出です。

(末尾に写真特集があります)

深夜に出会ってしまった猫

 13年ほど前のことです。

『ピンポーン…』

 玄関の呼び鈴が鳴りました。時刻は深夜の2時。まあ、普通ギョッとしますよね。私もそうでした。誰かといえば、ネネ(愛犬)の散歩に出かけたはずの夫です。

「どうしたの?鍵なら開いてるでしょ」

 インターホン越しに返事をすると

「あの…そこにココ、いる?」

 アメリカンショートヘアのココは、兄猫のクリスと丸くなって眠っています。

「いるけど? どうしたのよ」

「あー。悪いけど、ちょっと来て」

 ドアをあけると、夫とネネと…灰色の猫が一匹!その子は誰? どこから来たの?

我が家の子になってしばらく経ったころのユーリ。大分、表情が柔らかくなりました
我が家の子になってしばらく経ったころのユーリ。大分、表情が柔らかくなりました

 うちから50mほどのところにある駐車場で、車のボンネットの上にぽつん、と座っていたのだといいます。夜目遠目には我が家のココによく似ていて、「やばい、(ココを)逃がしちゃった?」と思ったのだとか。

「だって、『ココ?』って呼んだら、まっすぐこっちへ来たんだよ」

 差し伸べた手の中にするりと入ってきたその猫は、

(ココより毛がやわらかいかなあ。ちょっと軽い気もする)

 でも、抱き上げたら顔をペロペロなめてきたんだとか。それって、ココの癖なのです。それですっかり確信した夫が連れて帰ってきたのでした。

「とにかくこの子はココじゃないし、飼い猫だといけないから、戻しに行こうよ!」

 ネネを家に入れて、夫婦で猫を連れて逆戻り。元いた場所へとやってきました。

間違われた「オリジナル」のほう、ココちゃん。こうしてみるとどうして間違えたかな?と思いますが、暗いところで見るとたしかに紛らわしいんです
間違われた「オリジナル」のほう、ココちゃん。こうしてみるとどうして間違えたかな?と思いますが、暗いところで見るとたしかに紛らわしいんです

「猫違いだったみたい。ごめんね。お家へお帰り」

 下に降ろして様子を見ますが、猫は私たちの顔をじっ、とみつめているばかり。近くに家があるはず。そのうち自分で帰るだろうと、そっとその場を離れることにしました。しかし…ついてくるのです。どこまでも。

「いいからお帰りよ。ごめんよ、間違えて」

 走って逃げてもついてきます。首輪はありませんが身体が汚れた気配もありません。爪は伸び放題ですが肉球が柔らかいので、おそらく家猫です。性別は女の子。

「帰んなってばー」

 近所迷惑になるので小声で猫を説得しながら、とうとう我が家についてしまいました。

 それから駐車場と家を何往復したでしょう。50mほどの間を、猫を抱いて連れ戻し、逃げ帰る私たちに猫がついてくる、の繰り返し。

 小一時間してへとへとになった私たちは、いったん猫を家に入れることにしました。他の猫たちを刺激しないこと。病気の確認もできていないので、とりあえずその子を隔離する部屋を作りました。

獣医さんに相談したら

 私たちは、とにかく飼い主を探すつもりでした。彼女のいた駐車場周辺には民家が何軒かあります。ガラケーで猫の写真を撮って、一軒一軒、見せて歩きました。しかし、あろうことか誰も猫のことを知りません。

 もう少し捜索範囲を広げてみたけれど、手掛かりナシ。警察にも市役所にも愛護センターにも連絡してみましたが猫脱走の通報もありません。ともあれ健康チェックもかねて、かかりつけの獣医さんに相談に行きました。

「ああ、確かにココちゃんに似てますね」

 よく見れば、別の猫なんです。毛はココより長くて柔らかいし、ふわふわだけど身体はむしろガリガリ。顔つきも違います。それでも、夜の暗がりの中で見たら、間違えても仕方がないレベルではありました。

「どうしましょう。周辺全部聞いたんですけど、飼い主がいなくて。チラシでも配るか、貼り紙しましょうか。猫預かってます、って」

 先生は首を振りました。賛成できない、というのです。実はそのころ、その周辺の川沿いに毒エサがまかれて、散歩していた犬が死んだ、という事件がありました。先生からも「ネネちゃんに、決して拾い食いをさせないように」と言われていたところだったのです。

ユーリは私にはよくなつきましたが、夫にはクールな態度を貫きました。ほかの動物たちとも仲良くなりましたが、誰かにべったり甘えることのない「孤高の猫」でした
ユーリは私にはよくなつきましたが、夫にはクールな態度を貫きました。ほかの動物たちとも仲良くなりましたが、誰かにべったり甘えることのない「孤高の猫」でした

「毒エサをまくような人間がうろうろしている地域で『猫を預かってます』なんてポスターを出したら、虐待目的で引き取られちゃいますよ。心ある飼い主なら探しているはず。スーパーやガソリンスタンド、新聞チラシなどで猫を探していないかチェックしてみてください」

 健康チェックの結果、病気はなし。ワクチン接種をして、伝染病の潜伏期間に該当する2か月の間、隔離を続けながら飼い主探しを続けました。2度目の血液検査が陰性だと確認したとき、もう一度周辺に聞き込みましたが、誰も彼女を探していません。

「もう、お宅の猫ってことにしていいと思いますよ」

 獣医さんからそう言われて、我が家の子になったのが、ユーリでした。

 名付け親は第一発見者の夫です。ABCの法則にあてはめれば、ディーナの次なのでE。そこで彼が考えたのは『エウレカ(Eureka)』=「見つけた!」という意味のギリシャ語だそうです。

 ちょっと呼びにくいから、エウレカ→ユーレカ→ユーリ。推定3歳の女の子が我が家の一員になりました。

【前の回】人生の大半を共にした最愛の猫「アーサー」 20歳で旅立った
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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この連載について
毎日が猫曜日
猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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