猫の命を救い、受刑者の心の回復も後押し 米刑務所で保護猫ケア
アメリカの刑務所や少年院では、犯罪や非行をした人たちが動物の世話や訓練をするプログラムがさかんにおこなわれている。先駆けとなったのは、1982年にワシントン州の女性刑務所で始まった「プリズン・ペット・パートナーシップ」(PPP)。以来、刑務所で介助犬を訓練したり、保護犬を家庭犬としてしつけるプログラムなどが全米各地に広まった。
近年は、受刑者の力を借りて飼い主のいない猫を人に慣らし、殺処分を減らそうという保護猫の社会化プログラムも増えている。十分な時間と人手をかければ救える命がたくさんあるのに、シェルターは満杯。刑務所にいる人たちに一時預かりのボランティアをしてもらえないだろうか。
2006年にワシントン州で最初に始まった保護猫プログラムは、そう考えた保護団体と、受刑者に社会的意義のあることをさせたいと考えた男性刑務所が連携してスタートし、次々と他の施設にも広まった。
20年以上にわたる刑務所取材をとおして実感してきたことだが、罪を犯した人たちの多くは、幼少時からの暴力や虐待によって心に傷を受けている。そんな彼らが自分の居室で猫と暮らし、キャリーから出てくればおやつをあげるなどして、辛抱強く猫の警戒心を解いていくプロセスは、人を信じられず、心を閉ざしてきた人たちの回復へのプロセスと見事に重なる。
施設によっては子猫中心のところもあれば、成猫オンリーの施設もあるが、ワシントン州にあるミッション・クリーク・コレクションズ・センター・フォー・ウイメンという女子刑務所(前述の女子刑務所とは別の施設)では、子猫や負傷猫の預かりのほかに、妊娠している母猫の出産・育児のサポートにも力を入れている。多くの女性受刑者は母親でもあるので、子猫を育てることは自分自身の子どもとの関係を考えるうえでもプラスになるという。
施設の担当者は、生き物と暮らすことによって、女性たちが精神的に安定することが最大のメリットだと語る。
「パニック障害があるなど、強い不安を抱えている人にとっては、愛情に応えてくれる存在が大きな支えになる。受刑者の問題行動や違反行為も減りました」
塀の外では動物看護師だったというある女性はこう話した。
「初めて自分がケアした子猫を送り出すときは、涙が止まらなかった。こういうところで自分の愛したものを手放すのはほんとうにつらいです。でも、それも執着を断ち切るレッスン。私が立ち直るために必要なことなんだと思っています」
2015年にスタートしたミッション・クリークの保護猫プログラムは、過去3年間に71人の受刑者が参加し、291匹の猫をケアした。これからもたくさんの人と猫がこのプログラムから恩恵を受けるだろう。
猫たちの命を救い、同時に罪を犯した人の心の回復に役立つ保護猫プログラム。年々減少傾向にあるとはいえ、いまだに犬の四倍もある猫の殺処分数を減らす試みの一つとして、日本でもぜひ取り組めないかと思う。
◆大塚敦子さんのHPや関連書籍はこちら
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