子どもを預かるファミリーホーム そっと寄り添うおじいちゃん猫

 石川県小松市の伊嶋さん宅には、夫婦と長男のほか、小学2年の男の子から高校3年の女の子まで5人の子どもが暮らしている。妻の伊嶋外帰恵さん(71)は20年以上、里親をしてきた。今では、行政から委託を受けて、家庭環境を失った子どもたちを自宅で預かって養育する「ファミリーホーム」もしている。委託された子が伊嶋さん宅にやって来ると、白い老猫のモモ(オス・15歳)はそっと近づいて歓迎する。以前は丸々と太った大きな体をしていたのに、高齢になってほっそりしたそうだ。

(末尾に写真特集があります)

丸くなって毛繕いするモモ
丸くなって毛繕いするモモ

 伊嶋さんは20代のころ、保育士をしながら3人の息子を育てていた。子育ては義母らに助けてもらっていたが、義母が体調を崩したため、支援してもらうのが難しくなった。そこで保育士を辞め、小松市内にある児童養護施設・育松園で食事の準備を手伝うようになった。そして同園で、ある女の子と出会う。

「ほとんどの子は、お正月には自分の親のところに帰る。でも、どうしても身内の方が迎えに来ない子が1人いました。小学3年の女の子。年末になると机の下に潜り込んで隠れてしまう。そこで『どうや、おばちゃんの家に来るか?』と声を掛けたのです」

 1995年ごろのことだった。その後、石川県の制度に準じて、週末だけ子どもを預かる「3日里親」となり、3年後には正式に里親登録をして認定された。以後、約20年間で20人以上の子どもたちと関わっている。伊嶋さんの意志で始めた里親だったが、夫や3人の息子とその家族らも協力してくれている。

 子どもたちが伊嶋さん宅に来た理由はさまざまだ。実の親が何らかの問題を抱えており、子育てができない状況になったことから、里親に託される。中には心や体に傷を抱えてやってきた子もいる。ちょっとしたことで子どもが謝ると、伊嶋さんは「ごめんと言わなくてもいいよ」と諭す。

玄関で子どもたちをお出迎え
玄関で子どもたちをお出迎え

 ファミリーホームをしている自宅周辺は、田園風景が広がるのどかな場所だ。数年前に空き家となった隣家を購入してリフォーム。もともとの伊嶋さん宅は台所・リビング・客間と夫・長男・男子のそれぞれの部屋、隣の家は伊嶋さんと女子の部屋となっている。二つの家屋の間を、高齢猫モモは自由に行ったり来たりしている。眠るのは伊嶋さんの部屋だ。そこに猫砂を入れたトイレはあるものの、高齢になったため粗相をすることもあるという。

「若いころはもっと大きな猫でした。いつも寝てばっかり。子どもたちは、モモを大切にしようと思ってくれているみたい。動物を飼うのっていいもんやよって、言っています」

 モモは人見知りをしない。第二子を出産予定の母親で、支援してくれる家族がいない場合、伊嶋さんは第一子を出産が終わるまで預かることがある。そんな時でもモモは優しくふるまう。子どもに慣れており、小さな子を引っかいたり、怖がらせたりすることはない。そっと寄り添っている。

 子どもたちが遊んでいると、モモは座ってじっと見ている。その中で小学2年の男児だけは、猫が苦手なのだそうだ。しかし、興味がないわけではない。男児が手を伸ばすと、モモは嫌がらずにその手を受け止め、なすがままになっていた。

伊嶋さんがなでるとモモは気持ちよさそうにする
伊嶋さんがなでるとモモは気持ちよさそうにする

 伊嶋さんは毎朝5時半に起きてキッチンでコーヒーを飲み、新聞を読む。子どもたちが起きてくる前の一人でゆったり過ごすひとときだ。そんな時、いつの間にかモモがリビングにやって来てソファーで眠っていることも。あごの下をなでると、目を細めて気持ちよさそうにする。

「モモは、だいぶおじいちゃんになってきて、よたよた。ほとんど鳴かないの」

 進学が決まり、ほっとした表情の高校生の女の子が将来の夢について語り出した。モモを抱きかかえて、ほおをスリスリしながら。そっとカーペットに下ろすと、モモは女の子のひざに額をくっつけて嬉しそうに甘えた。通常、里子の養育は18歳までだが、保育士になりたいという彼女の場合、短大進学が決まったことにより20歳まで延長された。

 夢向かって歩み始めた女の子と、おじいちゃん猫モモ。あと2年間、一緒に暮らせる。

若林朋子
1971年富山市生まれ、同市在住。93年北陸に拠点を置く新聞社へ入社、90年代はスポーツ、2000年代以降は教育・医療を担当、12年退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍・広報誌、ネット媒体の「telling,」「AERA dot.」「Yahoo!個人」などに執筆。「猫の不妊手術推進の会」(富山市)から受託した保護猫3匹(とら、さくら、くま)と暮らす。

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