老夫婦が保護し、大事に世話した野良猫たち 飼育崩壊の危機に
たくさんの犬や猫を抱え、飼い続けられなくなってしまう多頭飼育崩壊。不妊去勢手術をしなかったために繁殖して子犬・子猫が増えてしまうケースが多いが、中には違う事情で起きることもある。そんな所から猫たちを保護することになった。
その日も、1件の相談を受けた。
「いま、ご相談の人がお店に来ていて、梅田さんが帰るまで待っていると言っています」。スタッフが電話口でそう話した。
「そう。もうすぐお店に着くから待っててもらって」
保護猫カフェ「ねこかつ」に着くと、カウンター近くに静かに女性が座っていた。
「ご相談の方ですか?どうされました?」
「あの……」。女性は申し訳なさそうに話し出した。
家に成猫ばかり25匹
「実は、いま住んでいる家を出ていかなければならなくなりまして、猫たちを保護していただくことはできないかと思いまして」
「猫は何頭いますか?」
「25頭くらいいます」
「25頭ですか。成猫何頭に子猫何頭ですか?」
「また多頭飼育崩壊か」と、内心うんざりする気持ちを抑えながら、静かに質問を続けた。
「全部成猫です。大人の猫ばかりです。」
通常、多頭飼育崩壊は繁殖を繰り返した結果起きるため、子猫が含まれることが多いのだが……。
「成猫だけですか? 子猫は?」
「子猫はいません。全部不妊去勢手術が済んでいますので。ワクチンもウィルス検査もしてあります」
「不妊去勢手術だけでなく、ワクチンやウィルス検査もですか?」
多頭飼育崩壊を起こした現場で、不妊手術が済んでいることは珍しい。ましてやワクチンやウィルス検査まで済んでいることなどまずない。
野良猫を保護し続けた結果の崩壊
「家の中で殖えたわけではなさそうですね。では、どうして25頭も猫がいるのですか?」
「かわいそうな野良猫がいると放っておけなくて、保護して家に入れました。多いときはもっといました。不妊手術ももちろんしましたし、病気になれば獣医さんにもかけました。多いときは、医療費だけでつきに何十万円もかかったときがありました。」
女性は目に涙を浮かべながら静かに話した。
「では、どうしていま住んでいる家を出て行かなければならないのですか?」
「夫の商売が急に傾いてしまって、自己破産の瀬戸際なんです。今までは夫の商売が順調だったんですが、急に。60歳を過ぎてこんなことになるなんて……。人生どうなるか、本当にわからないものですね。」
女性はうつむきながら肩を落とした。
「わかりました。これまでがんばって助けてきてくれたのですね。なんとかお手伝いしたいと思います」。少しの時間考えて、そう答えた。
詳しく事情を聞くと、猫は元野良猫ばかりで、ほとんどがあまり人なれをしていない。しかも、そのほとんどがシニアの年齢に達している。10歳を超えた猫も多い。人なれしていないシニア猫の里親探しは難しい。
子猫が誕生する時期が始まって、保護活動は一年で一番大変な時期。正直なところ、難しいなと思った。でも、それ以上に、今まで長い年月を猫のために費やしてきた人の人生を最悪な形で終わらせたくないと思った。
「昼間はなかなか時間がとれないので、引き取りにうかがうのは夜中でもいいですか? 23時くらいならいけると思います」
暗闇の中で深々と頭を下げた夫婦
夜中に猫を引き取りに行くと、ご夫婦で待っていた。全部の猫に名前が付いていた。
ご夫婦と一緒にキャリーに入れた猫たちを車に運び込んだ。
女性はキャリーを運びながら、一頭一頭の猫の性格を一生懸命に説明してくれた。そして「今はお金がないですが、生活が落ち着いたら、ご飯代を一部でもお支払いしたいと思います」と言った。
「まずは生活を立て直してください。お金のことは気にしなくていいです。それよりも、生活が落ち着いたら、この子たちに会いに来てあげてください。それがこの子たちにとってもきっといいはずです。お二人が守ってきた子たちをそれまでお預かりします。そして、僕たちの活動を手伝ってください」。私はそう答えた。
ご主人は、キャリーの猫たちを車に運び終えた後、真っ暗な道の真ん中で深々と頭を下げながら、涙を流し、振り絞るような声で言った。「この子たちをどうか、どうかよろしくお願いします」
多頭飼育崩壊は、最初の一頭に不妊去勢手術を施していれば、簡単に防げたであろう場合が多い。しかし、中には、助けて、助けて、ちょっとだけ歯車が狂ってしまっただけで起きてしまう多頭飼育崩壊もあるのだ。
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