アパートに残された怒りっぽい猫 生活保護の老人が入院した

 生活保護を受けていたおじいさんが入院した。無人になったアパートに、1匹の猫が残されていた。ケアマネージャーから依頼を受けて、猫を保護することになった。

(末尾に写真特集があります)

 その日も電話が鳴った。

「ひと月がんばったんですけど、飼ってくれる人が見つからなかったので、お願いできないでしょうか?」

「すみません。どんなご相談だったでしょうか?」

 猫の保護活動をしていると、毎日何件もの相談を受ける。そのため、どんな相談だったか、すぐに思い出せないこともある。

「生活保護を受けていたおじいさんが入院して、もう戻ってこられないアパートに猫が1匹残されているんです。それで、引き取ってくれませんかと、前にご相談した者です。ひと月は自分たちで引き取り先探しをするようにと、その時、言われました。それでひと月がんばったんですけど、ダメでした」

「ケアマネージャーの方でしたでしょうか?」

「はい、そうです」

「ひと月の間、ご飯をあげに通って、がんばってもらったんですよね。分かりました。引き取りにうかがいます」

キャリーケースに入れた猫
キャリーケースに入れた猫

怒りっぽい猫

 ひと月以上も前、おじいさんがいなくなった部屋で待ち合わせをした。

「かなり凶暴な猫なんです。ケアマネージャーとして6年も通っていたんですけど、機嫌が悪いと、飛びかかってきて。おじいさんもしょっちゅうひっかかれていました。おばあちゃん猫で、16歳と聞いています」

「そうですか。とりあえず捕まえてみます」

「どうやって捕まえるんですか? 猫を飼っている同僚も、あの猫は捕まえられないよと話していて」

 部屋に入ってみると、その猫は、飼い猫とは思えないほどのうなり声をあげた。

「おじいちゃん、もう帰って来られないんだって。隠れていないで、一緒に行こう」

 話しかけると、猫はうなり声をあげて飛びかかってきた。飼い猫だから簡単に捕まると思い、保護に必要な道具を一切持ってきていなかった。部屋を見渡して使えそうなものを探し、バスタオルをつかんで、猫も自分も怪我をしないように慎重に保護を試みた。なんとかキャリーケースの中に入れることができた。

「子猫のときから飼っていたんですよね? なんでこんなに怒りっぽいのでしょうか? 虐待されていたとか?」

 ケアマネージャーさんに事情を尋ねた。

「いえ、それはないです。『この子は俺のかわいい娘なんだ』って、腕をひっかかれても、いつも嬉しそうに自慢していました。倒れて入院したときも、最初に口から出たのは猫のことでした。『大丈夫か、大丈夫か』って、今もずっと猫の心配ばかりしています」

 飾り気のない部屋に、猫の写真がかけてあった。

壁にかけられていた猫の写真
壁にかけられていた猫の写真

子どもの代わりに猫を飼う

「奥さんがいらっしゃるんですけど、今は認知症で施設に入っているんです。ご夫婦に子どもはいません。でも、どうしても子どもが欲しくて、若いころずっと不妊治療をしていたって話していました。その不妊治療が大変だったみたいで、奥さまは精神を病んでしまったそうなんです。それでお医者さんが、猫を飼うことをすすめたんだそうです。2人はかわいそうな子をもらってこようと、殺処分になる見込みの子猫を譲り受けたそうです」

 猫を譲り受けたときの、嬉しそうなご夫婦の写真もあった。

「『自慢の娘ができた! 自慢の娘ができた!』って、とっても大事にされていたんです。生活保護費が入ると、『買えなくなったら大変だからな』って、猫のご飯だけは買いだめしていました。『このキャットフードが好きなんだけど、近くで売ってないんだよ』。そう言って、隣町のホームセンターまで電動車いすで買いに行っていたんです」

「半日はかかりますよね」

「『俺の方が先に逝くことになるなんて考えていなかった』。そうずっと話しているんです」

シェルターにやって来た「サリー」
シェルターにやって来た「サリー」

高齢者が犬猫を飼うこと

 保護してきた猫をシェルターに入れ、この日、はじめての食事をとった。猫は相変わらずケージの中でうなっていた。その猫を見ていて、ふと頭をよぎった。「高齢者への譲渡がいけなかったんだというのは簡単だけどな……」

 その猫には「サリー」と名前を付けた。その後しばらくしてから、心を許してくれるようになった。しかし、今は病気にかかり、闘病生活を送っている。

 サリーのためにも、サリーを託さざるを得なかったおじいさんのためにも、一日も早く病気を治して、新しい飼い主のもとへ送り出してあげたい。それが保護した者の務めだと思う。

 高齢化社会になり、飼い主との死別や飼育放棄などが増えている。高齢者は犬や猫を飼ってはいけないと、簡単に言い切れる問題ではない。解決には高齢者福祉の専門部署との連携も必要になっている。

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保護猫カフェ「ねこかつ」
住所:埼玉県川越市新富町1-17-6 3階
営業時間:12:00〜20:00、月曜定休(月曜日は祝日の場合は営業)
電話:070-5029-8392
HP:http://www.nekokatsu.info/index.html
保護犬・保護猫譲渡会@IKEA港北
日時:6月29日12:00~15:00(雨天中止)
場所:IKEA(イケア)港北 (横浜市都筑区折本町201-1)
事務局:保護猫カフェ「ねこかつ」
梅田達也
保護猫カフェ「ねこかつ」代表。保護したり行政施設から引き出したりした保護猫の飼い主を募集する場として、保護猫カフェを運営しながら、ほぼ毎週末、各地で譲渡会を開催している。TNR活動にも力を入れており、講習会も開いている。

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この連載について
猫模様~保護活動の現場から~
飼い主のいない猫を保護、譲渡する活動を続ける保護猫カフェ「ねこかつ」代表の梅田達也さんが、保護活動の現実について語ります。
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