殺処分される犬猫のこと知ってくれて「ありがとう」 この一言が保護活動始める契機に

 愛護活動や保護活動をはじめるきっかけは、人それぞれかもしれない。猫を飼い始め、猫のおかれた現実を知ったことがきっかけの人もいるかもしれない。野良猫をふびんに思ううちになんとかしたいと思った人もいるかもしれない。テレビやネットなどで見聞きし、興味をもった人もいるかもしれない。

(末尾に写真特集があります)

保護猫カフェねこかつを始めたきっかけ

「ねこかつをはじめたきっかけはなんですか?」

 保護猫カフェねこかつをはじめてからそんな質問をされることが度々あった。

「生まれたときから家に猫がいる環境だった」 

「小学生のときには殺処分という制度を知っていて、将来は保健所の犬や猫を助けたいと漠然と考えていた」

「福島の震災のときに原発直下のレスキューに入った。そのときの苦しい経験から、もっと助けたいと考えた」

 そのどれもがねこかつをはじめた理由であることは確かだが、もっと大きな影響を受けた出来事があった。

殺処分を行う行政施設へ行くことに

 2010年のことだから、早いものでもう10年も前のことになる。当時自分は、家の近隣の野良猫のTNR(野良猫を捕まえて、不妊手術を施し、元の場所に戻す活動)を細々としていた。自分の環境ではそれが精いっぱいで、猫を保護することなど到底無理だと考えていた。

 それがネット上のひと言ふた言のやりとりから、悪徳ブリーダーの追求に関わることになり、殺処分設備のある行政施設に足を踏み入れることになってしまった。

行政施設の猫舎
改革された行政施設内の猫舎

「せっかくここまで来たのだから、収容されている子(犬や猫)たちを見ていきましょう」

 同行したボランティアのひとりが言った。

 殺される犬や猫たちなど絶対に見たくない、内心ではそう思ったものの断ることができる雰囲気ではなかった。仕方なく一番後ろをついていった。

謝ることしかできなくて

 犬舎に入ると、100匹以上はいただろうか、収容された犬たちがほえていた。話す声もかき消される勢いだった。

  犬たちは収容日ごとに分けられていた。期限がくれば自動的に殺処分される運命にある。

 その犬たちを、どこか遠い世界の出来事を見るかのように、自分の中で処理しきれないまま見ている自分がいた。

動物を収容する行政施設
改革された施設では医療も施される

 ほえまくる犬たちの中を歩いていたときだった。ひとりの職員さんに話しかけられた。

「この犬を連れて行ってくれないか。とってもいい子なんだ。殺したくないんだよ」

 職員さんは公務員ではなく、施設の管理に雇われた下請け業者の方だった。

 当時その施設では団体譲渡などもほとんどなく、収容された犬や猫たちはほとんど全部が殺処分になっていた。珍しくやってきたボランティアをみて、すがったのだろう。

「すみません」

 猫を保護することもできない自分に、ましてや犬を引き出すことなど到底できなかった。職員さんの方を見ることもできず、ただただ謝るしかできなかった。

すれちがった女性に

「この子たちを見てくれないか」

 別の職員さんに話しかけられた。

 小さな箱形の機械の中をのぞいてみると、そこには子猫の死体が10体くらいあった。

「今日入ってきて、いま処分したばかりなんだ」

 突きつけられた厳しい現実に、何も答えることができなかった。

行政施設に収容された猫
事故で収容された猫

 頭が真っ白なまま、犬たちの中を歩いている時だった。

「この子たちを見てくれてありがとう」

 すれ違ったひとりの年配の女性にお礼を言われた。なぜお礼を言われたのか、その時は理解できなかった。

ボランティアから下請け業者に 

 行政施設を出て、帰りの車の中、同行したボランティアたちが話してくれた。

「施設の中、あれでもすごく良くなったのよ。すれ違った女性がいたでしょ。あの人のおかげなの」

「『見てくれてありがとう』って、お礼を言われました。なぜお礼を言われたのか」

「人知れず殺される子たちを知ってくれるだけでも、ありがたいと思ったんじゃないかしら」

 その女性はもともとは一般のボランティアだった。それが行政施設に足を運ぶうちに、施設内のひどい状況を良くしたいと考えるようになった。しかし、施設の外にいては、中を変えることは難しい。

「それでね、彼女は当時やっていたお店をやめて、会社をつくったの。それで、入札に出て、行政施設の下請け業者になったの」

行政施設から引き出された子猫
収容され引き出された子猫

 当時その施設では、犬の殺処分数だけで年間数千匹にものぼった。そのすべてを助けることはできない。でも、殺処分されるまでの1週間の間、できるだけ良い環境にしてあげたい。 そう考えた末の行動だったようだ。

「でもね。それは、同時に自分で殺処分機のボタンを押さなければならないことを意味していたの」

 助けたいと行動していたボランティアが殺処分機のボタンを押す。しかも、1週間でも自身で世話した子たちを。それを自ら選択する。そんな苦しい選択をする人がいるのか。どれだけ苦しいことなのか、考えただけで、頭がおかしくなりそうになり、涙があふれた。

「最初のうちは、ボタンを押しながら、『ごめんなさい。ごめんなさい』ってひとりで絶叫していたと聞いたわ」

最大限のことがしたい

 自分にできることは何か。行政施設でひとりの女性とすれ違い、知ったことから、頭の中から離れなくなっていた。

「その女性の下で、お手伝いがしたい」。何度も考えた。

「でも、自分にはその苦悩を受け止めることなど、どう考えてもできない」。考える度に、涙があふれ、頭をかきむしるだけだった。

 そんな自分でも「猫を助けるために最大限のことがしたい」。それがねこかつをはじめるきっかけになった。

(次回は1月20日に公開予定です)

【前の回】殺処分を行う行政施設の職員「みんな苦しんでいる」 犬や猫の命と向き合うほどに苦悩

梅田達也
保護猫カフェ「ねこかつ」代表。保護したり行政施設から引き出したりした保護猫の飼い主を募集する場として、保護猫カフェを運営しながら、ほぼ毎週末、各地で譲渡会を開催している。TNR活動にも力を入れており、講習会も開いている。

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この連載について
猫模様~保護活動の現場から~
飼い主のいない猫を保護、譲渡する活動を続ける保護猫カフェ「ねこかつ」代表の梅田達也さんが、保護活動の現実について語ります。
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