動物福祉って何だろう? まず知ろう、すると行動が変わってくる

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。連載10回目は、アニドネメンバーで行った勉強会の内容をお伝えしたいと思います。

(末尾に写真特集があります)

 最近、ありがたいことにアニドネ でボランティアをしたいです、というご希望をとても多く頂いております。sippo連載6回目で執筆した「2019年 犬や猫のためのボランティアを始めてみませんか?」からも、たくさんのお問い合わせをいただきました。心強いメンバーが増えたので、最近加入してくださった方々向けに勉強会を実施しました。

動物福祉の勉強会、「まず知ることから」

 今回は7名の女性メンバーで集まりました。みなさん、いつもは全く違うお仕事をしています。動物系のお仕事をしている方はおられません。住むところも年齢もバラバラ、共通しているのは、無類の動物好きで大好きな動物のために何かしたい、ということ。

 筆者自身を振り返ってみてもそうなのですが、学校の理科の授業で生きものについて少しは学んだ記憶はあります。だけど、あくまで教科書知識。生きている犬や猫と暮らすことになり、言葉をしゃべらない異生物に最初は戸惑いばかりでした。要はほぼ知識がないところから長くて20年も続くペットとの暮らしを始めることになるのです(犬や猫たちに申し訳ない!)。

 ましてや、動物が大好きでペットと共に長年暮らしていても、なぜ日本の動物福祉が遅れているのか、問題の根源はどこにあるのか、なんてことを理解している人は少ないと思います。

 まずは「知ること」から始めましょう。そして知ったときに自分に何ができるか、を考えてみましょう。それが勉強会のテーマでした。

これっておかしくない?その気づきが大事

「ペットとの暮らし、最初は正直大変でしたよ。だけどいとしい我が愛犬愛猫との暮らしは今は楽しんでいるわけで、動物福祉なんて固い言葉の意味を知らなくても、ペットライフは満喫しています、できてます。」

  多くのペットオーナーのキモチだと思います。

 だけど、ふと気になりませんか。ペットショップに並ぶかわいらしい子犬たち。あれがもし人間だったら、乳飲み子がショーケースに入っていることになる…。繁華街にあるフクロウカフェやハリネズミカフェ、行ってみたいけど夜行性の動物だよね。それって動物にとって、イイコト?普通に暮らしていても、ふとしたときに気づくかどうか、おかしいと思えるかどうかは「知ること」へのキッカケなんだと思います。知らなければ、それが当たり前でそのままスルーとなってしまうのです。

動物福祉とは? 世界と日本を比べてみれば

 私たちアニドネは社会問題に取り組んでいます。その問題の根源を突き詰めると行き着くところは法律でどう定められているのか、それを知ると諸外国との違いに気づけます。

 ですから、まずはアニドネリサーチチームが作成した「国別データ比較表」で、日本と動物先進国(EU、アメリカなど)法律の違いを講義しました。その法律が誕生した歴史的背景などを知るとかなり興味深く考察できます。

 意外と、どこの国もエモーショナルな出来事がきっかけで法律ができていたり、どこの国も失敗の上に現在がある、という流れができているんですよ。法律が違えば、動物の飼い方、接し方の違いも歴然なのです。

日本は「動物は命あるもの」、EUは「感受性のある生命存在」と法定義されています。実はこれはとても大きな違い。感受性を持つ動物にどう接するか、を人間は考えねばならないのです
日本は「動物は命あるもの」、EUは「感受性のある生命存在」と法定義されています。実はこれはとても大きな違い。感受性を持つ動物にどう接するか、を人間は考えねばならないのです

フランスも20年前までは生体販売

 そして、歴史背景と法律のお勉強のあとは、現在海外ではどのように動物と共生しているのか、その実例を紹介しました。こちらの資料は、アニドネサイトにはアップしてない勉強会のときのみに使っている、大変見ごたえのある資料です(自画自賛!?ですが本当に知ってほしい内容ばかりです)。

 ドイツのティアハイム(保護施設)やペットショップ・動物病院、アメリカの保護施設、犬猫と暮らせる老人ホーム、シェルターメディシン等々、動物と共に共生する社会の仕組みです。

 次は、私がベンチマークしている国、フランスのお国事情です。ほんの20年前はシャンゼリゼ通りで生体販売をしていたが、いまではなくなっている。別に法律で規制されたわけではないのに、なぜなくなったのか。人々の気持ちの変化の裏にある社会情勢、インターネットのうまい使い方、を紹介しました。フランスの社会学者の方と一緒に作った資料です。

 最後にもう一つ、映画やCMに見る動物の扱いについて。同じ映画HACHIでもどう捉えるのか、同じメーカーのCMでも日本らしさが出るのはどういった部分なのか。

 参加されたみなさん、とても熱心に聞いてくださいました。

法が違えば、ペット市場の在り方も変わります。日本の当たり前が世界では常識でないことを知りました
法が違えば、ペット市場の在り方も変わります。日本の当たり前が世界では常識でないことを知りました

問題を知った、私はどうしていきたい?

 私からの講義は終了し、みなさんとのブレストの時間をたっぷり取りました。「根深い問題を知りました。さぁワタシどうする?どうしていきたい?」タイムです!

 勉強会に参加してくださった方からの意見を紹介しますね。

「動物に興味がない人にも今起きている問題やなぜ動物が大切か、と知ってほしい。知人に話しても私は動物には興味がないから、言われてしまう。」

「客観的に見ることがとても重要。ただ捨てられる犬猫がかわいそう、だけで行動してはいけないと感じた」

「子供に対しての動物を大切にする教育をしたい。動物を怖がる子が増えている実情。動物園しか接するとことろがない」

「とにかく知ること、知ってしまったら行動レベルが変わる。もし行動しないなら、それはいまではない、ということ」

 私自身、昔から動物福祉に興味があったわけではありません。ですが、知ってしまった以上行動するしかなくなり今に至ります。犬をきっかけに日本の現状を知った、なぜこうなのかを調べるうちに各国の違いを知った。人とペットの共生、どうしたら実現するのか、命をめぐる人間の功罪、同じ地球に暮らすものとして果たすべき使命。壮大な課題の中で、私は自分にできることとして『寄付によって日本の動物福祉を変える』というミッションを立て、公益社団法人を運営しています。まだまだ志半ばです。

 知ってしまった、今を変えたい、それが大好きな動物のことだったらびっくりするような行動力でイキイキと動き出す方々が私の周りにはたくさんいます。

 勉強会は私にもパワーをくれます。皆が同志。青くさいけれど、大人になってこれだけ本気で思えるコト、と出会えていることは貴重なんだと思います。

【前の回】ペットへの思いをつづろう 優しい気持ちが「ギフト」になる
【次の回】保護犬や保護猫という選択 受けとめる勇気と、変化を見守る喜び

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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