「犬や猫、すべての命の基本権を守って」 世良公則さんに聞く
「犬や猫、すべての動物の命を大事にできないような国は、人間も大事に扱わない」。ミュージシャンの世良公則さんは、動物愛護法の改正を前に国会議員に要望書を手渡したり、イベントへ参加したり、動物愛護活動に積極的に取り組んでいます。込めた思いを聞きました。
――動物愛護に関する活動に取り組んだきっかけは?
なぜかずっと「犬に好かれる体質」だったんです。街中ですれ違った犬やドラマの撮影で共演した犬など、どの犬も僕にすぐなついてくれる。まわりの人が驚くくらい、僕は犬と相性が良かった。
もともと動物好きだったうえにこういう体験が積み重なって、動物と特別に波長が合うのかなと思い、彼ら、彼女らを「パートナー」と感じるようになったんです。パートナーであれば、様々な「問題」に目が向くのは当然ですよね。
――どのような問題でしょう。
最初に感じたのは、動物たちを一つの命としてみるのではなく、「モノ」として扱う社会への違和感です。ペットと家族同然に暮らす人がいる一方、動物が交通事故にあっても「物損扱い」ですから。
毎年多くの犬や猫が殺処分されている現状にも、「子どもにはどの命も等しく同じと教えているのに、なんだかおかしい」と感じました。こうした思いが、活動の原点です。
――活動を通じて気付いたことは。
悪質な繁殖業者がいて、そこでは犬や猫がどれだけ劣悪な環境で飼育されているのかといった情報が、ほぼ知られていない。また、たくさんの犬猫が殺処分されていることは認知されてきましたが、その「殺す」という作業にどれだけの税金や労力がかけられているかには、関心が向かない。「ペットは家族」と言いながら、自分が飼うペット以外の動物たちには「無関心」であることに気付きました。
一方で、動物たちの救済や保護活動に踏み出していらっしゃる方々については、団体や個人によって、問題意識の所在や理解度が全く違うことに驚きました。これを乗り越え、動物愛護団体同士がまとまって発信したり、進んだりしていければ、大きな力になると思います。
その「無関心」が動物を苦しめる
今年は、5年に1度の動物愛護法改正の年にあたることから、僕は個人で国会議員の方々を訪ね、改正に向けた要望書を提出する活動をしています。そこでわかったのは、インターネット上などで「動物愛護」を掲げたり発言したりしている議員はたくさんいても、実際には業界団体の意向を聞いて、ペット業界の利権を守るために動く議員が少なくないらしい、ということです。
動物愛護法を改正するのだから、「命の価値をどう考えるか」「どうしたら動物たちの福祉を守れるか」といった視点で議論がなされるべきです。だから僕は、本気で「動物たちを守ろう」と考えている議員を見つけ、その人たちを応援しようと思っています。
ーー動物愛護法の改正にあたって、どんなことを伝えていきたいと考えていますか?
要望を実現するためには、効果的に動物たちを守れる事項に絞り込む必要があると思っています。要望書では、繁殖業者やペットショップのあり方を変えるために、三つの規制を導入すべきだということを伝えています。子犬や子猫が生後間もない時期に親元から引き離され、ペットショップの店頭に並べられることを防ぐ「8週齢規制」▽狭いケージなど劣悪な環境の中で繁殖のためだけに飼われ続けることを防ぐ各種数値規制▽きちんとした知識や技術を持った人たちだけが繁殖業を営めるようにする免許制の導入ーーです。
ほかにも必要な改正事項があるのは確かですが、まずはこれらの規制が整備されることで、日本で暮らす犬猫の命を適切な形で守ってあげることができるはず。人間でいえば、基本的人権を守るための法整備にあたると、僕は思っています。今回の法改正でこれらの規制に踏み込めなければ、改正の機会はまた先延ばしになる。改正のペースは5年に1度ですが、寿命が短い動物たちにとっては恐ろしく長い時間です。
ーー動物のために、誰もができることはなんでしょう。
動物の「かわいい」面だけを見て満足するのではなく、その裏側で苦しんでいるたくさんの命に思いをはせてほしいです。私たち一人ひとりの間にそうした思いが広がれば、ひいては議員を動かし、国を動かすのです。
だからこそ広く訴えかけて、大きな力にしたい。今はSNSで世界に発信できる時代。僕も地道に発信し続けることで、ひとりでも多くの人を巻き込んでいきたいと思っています。
(聞き手・中井なつみ)
せら・まさのり 1955年、広島県出身。ミュージシャンとして活動するほか、俳優としても映画やドラマに多数出演している。
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