手加減なくかみつく幼猫・梵天丸に、「悪さしたら無視」作戦
三重県で出会ってしまった梵天丸。初めての保護猫との生活は、まさに波乱の幕開けとなりました。
幼猫期は「飼い主傷だらけ期」
「2か月間は隔離して飼育してくださいね」
かかりつけの獣医さんに言われた私たち。当時住んでいた家のリビングが、木製パーテーションで仕切れるようになっていたのが幸いでした。
ノミとりシャンプーしてもらって、白いところはちゃんと白くなって、ほかほかと良い香りをさせながら帰宅。お鼻と肉球はツヤツヤのピンク。無事なほうの目は金色の奥に深い緑が見えて、ほんとにきれい。もう親バカ全開です。
が、幼いオス猫がそんなメルヘンな存在であるはずがありません。部屋にひとりにしておくと、
「あぁぁーーーぉう! うなぁぁぁぁう!」
わかったわかったわかったわかった! 部屋へはいると、気配なし。
「???」と思っていると。わーーーーーっ!
両手両足を大の字にして、両手両足の5本指を全部「しぱっ!」と開いて、どこからともなくとびかかってきます。
「なっ……?」
トレーナーといわずフリースといわず、細い爪でしっかととびついて宙ぶらりん。なんとか引きはがそうとすると、今度はその手にがっつりと食らいつきます。食い込む爪と歯の細くて痛いこと!
「イタタタタタタ! こらっ!」
大きな声で叱ってみても、面白がってますます興奮するばかり。
「梵っ! ばかたれ!」
ようやく自分の手を取り戻すと、肘から手首まで20㎝はあろうかというひっかき傷。手の平からは流血。
「あんたねぇ…!」
ごはん、ごはん、とやたらと騒ぎ、お腹がいっぱいなると抱っこをせがむ。気が向くと手加減なしの奇襲攻撃。こんな日々が一週間ほど続きました。「こんなに乱暴な子猫は初めてだわ」。ため息をついて、ふと思い出しました。
今までにも生後3か月のころから飼い始めた子たちはいました。確かにやんちゃではあったけど、これほどのことはなかった。「そうか。あの子たちは兄妹でうちへ来て、一緒に遊んで育ったんだ」。梵天丸はこれから当分の間、一人っ子生活。体当たりで遊ぶ相手もいなければ、相手への気遣いを学ぶ機会もないということです。
「つまり私たちが親きょうだいのかわりをやれってことね」
ならば、と本格的に腹をくくることにしました。
一番こたえるのは「無視」
とびかかられたとき。手加減なしにかみつかれたとき。最初は怒鳴ってみたり、叩くふりをしたり、首根っこを押さえてみたりしましたが、どれもあまり効果ありません。むしろ私を怖がるようになり、それでいて奇襲は収まりません。
これじゃだめだ。そこで思い出したのが、「愛情の反対は憎しみではなく無関心」という言葉(おおげさな……)。
そう。人間、無視されることほど辛いことはありません(いや、猫だけど……)。
そこで試しに「悪さをしたら無視」という作戦に出ることに。
かまれそうになったら、がっと猫の身体を引き離して、ぽいっ、と床におろします。再びとびかかろうと目をキラキラさせていますが、ぷいっと背中をむけて目も合わせず。襲われたら床にぽいっ、の繰り返し。決して乱暴にはしない。声もかけず。笑顔もなし。猫などいないかのようにふるまいます。
何度か繰り返すうち、どうも様子がおかしいと感じたようです。
「むーぅ…?」
力なく鳴いて、なんとか私の視界に入ろうと回り込んできます。目が合うと、瞳がきらーん。「よし、遊びの続きだにゃ!」と思ったのでしょう。とびかかろうと腰を落とした瞬間、こちらはふいっ、と視線を外します。
「なーっ。なーっ」
よちよちと必死でついてきます。抱き上げてあげたいけど、我慢我慢。ソファに座って本を読み始めたら、膝に飛び乗ってきました。払いのけもしませんが、抱っこもしません。やがて指を狙ってかみつこうとして…やめたのです! 小さく香箱を組み、私の手首にアゴを乗せ、上目遣いでこちらをうかがっています。
「えらいね。噛まなかったね。怒ってないよ」。安心させるためにそっと頭をなでます。
やった! 許してもらえた! と、ふたたび指にくらいつきますがその瞬間、視線をはずして笑顔を消すと、ぴたっ、と動きが止まりました。そしてそのまま、そーっと甘噛みしてこちらの顔を伺います。
「よしよし。そのぐらいなら噛んでいいよ」。頭をなでてやると、安心したようにのどを鳴らします。
心を鬼にしたつもりの「無視作戦」。実にあっけなく、半日で功を奏して終わりました。
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