殺処分当日の朝に引き出された雑種犬「祭」 孫のように甘やかされ幸せに暮らす日々
個性豊かな雑種犬の魅力を紹介する連載企画。第22回は、柴犬とキツネをかけ合わせたかのような「祭」。犬と猫の専門書店の看板犬として、また還暦を迎えた飼い主さんの孫のような存在として、10歳を迎えた今も溺愛(できあい)され続けています。
【基礎データ】まるでキツネのような中型雑種犬
- DATA
- 《名前》祭(まつり)
《年齢/性別》10歳/メス
《役割》ときどき犬と猫の専門書店の看板犬してます!
《サイズ》体高40cm・体⻑50cm・体重8.5kg
《チャームポイント》北川景子さんのようなべっぴんの顔と、キラキラした意志のある目
《特性》
人慣れ度★★★
犬好き度★☆☆
食いしん坊度★☆☆
運動量★★★
トレーニングしやすさ★★★
ケアのしやすさ★★☆
那須で保護された野良犬の子
生後半年弱のときに栃木県・那須烏山市で捕獲され、2匹のきょうだいとともに動物愛護指導センターに収容されていた祭。1週間の収容期限が切れてまさに殺処分されようとしていたその日の朝、栃木県内の動物保護団体が引き出して保護し、飼い主募集サイトに掲載していました。
一方、子どものころから動物好きで、そろそろ犬を迎えたいと考えていた村田さん夫妻は、東京への転勤を機に犬と暮らせる物件に住み始め、情報収集をしていました。10年前、今ほど保護犬が一般的でなかった時代ですが、「ペットショップやブリーダーから犬を買うのは気が進まない」といろいろ調べた結果、保護犬・猫の飼い主募集サイトを発見します。
「中型犬の女の子がいいということぐらいしか考えていなかったんですが、飼い主募集サイトに掲載されていた祭の写真に目が留まって。紹介文を読んだら『明日殺処分されるって書いてある!』と思って、急いで保護団体さんに連絡したんです。そしたらそれは勘違いで、殺処分される直前に保護団体さんが保護してくださったということでした」
と、現在の飼い主の村田亨さんは当時のことを話します。
ともあれ、譲渡条件に合致しているかなどの確認ののち、保護団体のスタッフが自宅の環境チェックを兼ねて祭を届けに来てくれることに。「初孫を迎えるおじいちゃん、おばあちゃんみたいにワクワクして準備をした(笑)」と村田さん。約1週間後に生後約半年の祭がやってきました。
食が細いのは今も変わらず
迎えた当初に困ったのは、散歩がうまくできないこと。人間と一緒にリードを着けて散歩をした経験がなかったのか、最初は100m歩くのに10分もかかったそう。特に、バタバタ騒ぐ小学生ぐらいの子どもや、他の犬が苦手でした。
「あるとき散歩をしていたら柴犬が近づいてきて、祭がビビったので抱き上げたんです。そしたら、妻の腕の中で脱糞してしまうという事件もありました(笑)。でも、もともと順応性の高いタイプなのか、すぐに慣れて2週間ほどで散歩が大好きになりました。当時住んでいた場所の近くに2つ川があって、散歩にいい環境だったというのもあるかもしれません」
妻の幸代さんも「祭りはよく言葉を理解していて、まだ散歩に行かないのにうっかり『お散歩』という言葉を会話に入れてしまうと落ち着きがなくなるんです。それで『SP』と言い換えるようになったんですが、SPもわかるようになってしまって……。そのうち2人してハンドサインの使い手になっているかもしれません」と笑います。
もう一点、今でも苦労しているのが、元野良犬にしては珍しく食が細いこと。ごはんをガツガツ食べる姿は一度も見たことがなく、いつもしぶしぶ食べているそう。
「最初ドライフードだけを出しても食べなかったので、豚肉をゆがいたものやマグロをトッピングして食べさせました。今でも基本はドライフードにウェットフードをかけてなんとか食べていただくという形なんですが、それでも食べないときはササミを買ってきてゆでてトッピングしたりしています」
お姉さん犬も同じく少食らしく、血筋かもしれないと苦笑する村田さん。そんな手のかかるところもかわいくて仕方がないようです。
「父ちゃんより長生きしてほしい(笑)」
もともと犬・猫の生体販売に疑問を抱いていた飼い主の村田さん。祭を迎えたことで保護犬の現状についてもっと知ろうと思うようになり、本を読んだり保護団体のサイトを見たりと学び始めます。
「保護団体のサイトを見ていると、例えばフードの支援をお願いしたらこじきって言われたとか、精神的にも金銭的にも大変なんだなってわかってきて。それで、会社を辞めたら保護犬・猫のために何かできないかと思い始めたんです。ただ、保護活動はもうすでにやっている人がたくさんいるから、本を通して犬や猫のことをいろんな人に知ってもらうと同時に、収益を保護団体に寄付しようと思いつきました」
そこで2年前、役職定年を迎える57歳のタイミングで早期退職。月額で自分だけの1箱の本棚を持つことができる「一箱本棚オーナー制度」の私設図書館と、犬と猫の専門書店を組み合わせた『心音(しんおん)Books』をオープンしました。ワークショップや個展も開催できるなど実際に人が足を運ぶ空間のため、ただ本から知識を得るだけではなく、来店者同士の横のつながりも広がりつつあるそう。快適な気候の時期には、看板犬として祭が一緒に店に立つこともあります。
10歳半になり、アゴの毛が白くなり始めた祭に今望むことは、とにかく健康で長生きしてくれること。
「あと10年は生きてほしい。『父ちゃんより先に死んではいけないよ』と毎日言っています(笑)」
間一髪で殺処分を免れた祭は、10年経った今も変わらないたっぷりの愛情を受けて、穏やかで幸せな毎日を過ごしています。
(次回は10月25日公開予定です)
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