におい嗅ぎ当てSDカード発見 電子機器探知犬が米国で活躍中

電子機器探知犬ベア(C)Seattle Police Department Photo Unit
電子機器探知犬ベア(C)Seattle Police Department Photo Unit

 電子機器探知犬 (Electronics Sniffing Dog = ESD)。

 USBメモリーやSDカードなどの電子情報記憶媒体を探し当てる犬のことだが、初めてその名を聞くという読者も多いのではないだろうか。

 私もこの夏、シアトル警察所属のベアという電子機器探知犬のことを聞くまで、そういう仕事をする犬がいるとはまったく知らなかった。さまざまな分野で幅広く犬が活躍しているアメリカでも、電子機器探知犬はまだ25頭ほどしかいないという。

ミックス犬「ベア」 児童ポルノ画像入りのUSB発見

 ベアは5歳半のオスで、ラブラドルのミックス。コネティカット州で約10カ月の訓練を受けていたとき、サブウェイ(ファストフードチェーン店)の広報担当者が自宅に隠していた児童ポルノ画像入りのUSBメモリーを発見し、一躍有名になった。

 そして、2015年の夏からは、児童ポルノなどを取り締まる連邦組織Internet Crime Against Children (= ICAC) の一員であるポリマス刑事のパートナーとして、シアトルへ。

 ベアの仕事は、容疑者の家宅捜索をおこなう際、SDカードのような小さくて簡単に隠せてしまう媒体を探し当てることだ。ポリマス刑事によると、家宅捜索をするほとんどの家は物が散乱し、足の踏み場もないような状態だという。

3年間で見つけた記憶媒体は85個

 家の大きさによって数人から20人ぐらいの捜査員が出動するが、人の目だけでSDカードを見つけるのは至難の業だ。それが、ベアは人間による捜索が終わったあとに入り、3回に1回は人が見落とした媒体を探知する。いっしょに働くようになってからの3年間に、なんと85個もの媒体を発見したという。

 それにしても、ベアはいったいどうやって探知するのだろうか? 鍵はやはりにおいにある。スマートフォン、パソコン、SDカード、USBメモリーなどの電子機器にはある特定の接着剤が使われているそうで、電子機器探知犬はそのにおいを嗅ぎ当てるように訓練されているのだ。

探知すると、そこに座る
探知すると、そこに座る

 仕事のご褒美はフードである。電子機器を探知するたびにフードをもらえるというのが動機付けになっている。ポリマス刑事は1日分のフードを袋に入れておき、毎日8回〜10回、つまり、ほぼ1時間に1回ほどの割合で、箱の中に隠した電子機器を探知するというエクササイズを繰り返し、そのたびに少しずつご飯をあげる。

 逆に言うと、ベアがフードをもらえるのはエクササイズか捜索のときだけ。そこで、ポリマス刑事が不在のときのために、刑事の奥さんと同僚もベアのエクササイズをおこなう訓練を受けている。

3個ある箱のどれかに隠したSDカードを見つけるエクササイズをするベアとハンドラーのポリマス刑事
3個ある箱のどれかに隠したSDカードを見つけるエクササイズをするベアとハンドラーのポリマス刑事

 ちなみに、ベアが探知するのは、ハーネスを付け、フードの袋を腰に付けたポリマス刑事から、「ワーク」と言葉で指示されたときだけ。周囲にはスマートフォンなどの電子機器があふれているが、それらのにおいには見向きもしない。

 24時間ともに過ごすポリマス刑事とベアの間には固い絆があるようだ。彼の足元に横たわるベアはすっかりリラックスしているように見えるが、最初はそうではなかったという。人間に対する警戒心が強く、家族にまでうなったりほえたりしていたそうだ。

「ベアの過去はわからないが、人への接し方を見ていると、おそらくネグレクトされていたか、虐待されていたのではないか」とポリマス刑事は語る。

強烈なフードへの欲求 優秀な探知犬に

 彼のところに来るまで、ベアは3人の飼い主を転々とした。コネティカット州で電子機器探知犬としての訓練を受けることになったのは、二番目の飼い主が「食べ物への執着が強すぎて手に負えない」と、放火事件で火元を探知する犬を訓練していた消防士の元に持ち込んだからだった。

 強烈なフードへの欲求があり、一般家庭で持て余される犬の中からは、数多くの優秀な探知犬が生まれていると聞くが、ベアもそのような犬の一頭だ。

 もしかしたら、シェルターで短い一生を終えたかもしれない犬が、その後人を助ける犬になる……。そのことになんとも言えない感慨を覚えずにいられない。と同時に、ベアが自分の適性に合った仕事を得、大切にしてくれる家族の元で安心して暮らせるようになったことを何よりうれしく思う。

◆大塚敦子さんのHPや関連書籍はこちら

大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この連載について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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