多くの猫を預かり、夫婦で手分けして世話 「どの子も幸せに」
迷い猫や身よりのない猫を家に引き取り、新たな家族が見つかるまで世話をする。そんな“保護・預かり”ボランティアをしている夫婦がいる。もともと動物とは縁がなかった夫も、今では猫の食事係を担当し、自分で猫を保護するまでになった。夫婦は猫を通して絆も深めている。
夏の夜、埼玉県にある一戸建ての住宅を訪ねると、池田千春さん(52)がにこやかに迎えてくれた。夫の尚生さん(53)は台所に立ち、お皿をカチャ、カチャと並べて、ウエットフードをとり分けている。
「これから、猫たちのごはんタイムなんですよ」
その皿の数は、5枚、10枚、15枚……もっとある。
「いまは保護した子猫が17匹と、おとなの猫が20数匹。それと家族にした保護犬が1匹います。妻より僕のほうが帰宅が早いので、夕飯は僕の係なんです」
尚生さんは、毎日仕事を終えて7時半ごろに帰宅すると、まず一時間ほど犬の散歩。それから猫のフードの支度をする。自分たちの夕食はその後だ。
生粋の動物好きかと思いきや、14年前に結婚するまで、犬も猫も飼ったことがなかったのだという。
千春さんが「巻き込んじゃったわ」と笑う。
「最初の頃、夫に猫を預かりたいというと『うーん』と難色を示した。でも今は『うん』と言ってくれる。自分で猫を保護したこともあるし、変わったわよね」
高速道路で見つけた子猫
千春さんは、犬や猫が当たり前のようにいる家に育ち、結婚する時に、ずっと実家で飼っていた猫や、友人宅で生まれて障害のある猫、弟が飼えなくなった犬を連れて来た。その頃は、動物を救っているという意識は特になかったという。
千春さんの気持が変わったきっかけは、結婚2年目、外出先で1匹の子猫と出会ったことだった。
「高速道路の出入り口で、うずくまっている子猫を見つけたんです。車を降りて助けようとしたら、料金所のおじさんに止められたので『必ず後で引き取りにくるので捕まえてほしい』と頼みこみ、後で預けられた警察に子猫を引き取りにいきました」
その子猫はキュートな顔のメスで、紅音(あかね)ちゃんと名付けた。それまで飼っていた犬や猫がオスばかりだったこともあり、夫の尚生さんも「かわいい」と夢中になった。しかし、血液検査でFIP(伝染性猫腹膜炎)のウイルスが見つかり、やがて発症。家にきてわずか半年後に亡くなってしまった。
「それまで家のペットが感染症になったことはなかったし、かわいい盛りの子猫が急に亡くなるのを目の当たりにしてショックでした。腕の中で看取った夫も号泣して……。ふつうなら辛くてもう無理となるかもしれないですが、幼い命を失ったことで、救いたいという気持ちが強くなり、身よりのない猫たちの保護を続けるようになりました。なんと、紅音を拾った高速の入り口に、1年後また子猫が置き去りにされていて、引き取りました」
猫仲間とは、猫を預かったり、預かってもらったりし合う。別の知人から「行き場のない猫がいる」と聞いて、部屋の提供を申し出た。そうはいっても、夫婦とも会社勤めをしながらの保護活動のため、もちろん限度はある。
「日中は誰もいないので、離乳した猫しか預かりません。フードは寄贈してもらうことも多いですが、医療費は私の給与をそのまま充てている。猫のために働いています(笑)。“ただの猫好き”ですけど、先日、動物病院で『池田さんちのカルテの番号が90を超えた』と言われました。猫を数多く保護、預かり、お嫁やお婿に送り出してきましたね」
今春は保護した子猫が多かったため、2階の3部屋を4部屋に増やすリフォームをした。寝る時は、尚生さんが1階の居間で、千春さんが2階で、それそれ猫と寝ている。子どもがいない夫妻にとっては、猫が育ち、幸せになる様が、楽しみでもあるようだ。
「1人だとこんな風に面倒をみられない。2人だからこそできるんですね。夫は大事な存在です!」
保護した「子猫」が妊娠していた
すでにベテランの域ともいえる保護活動だが、悩む場面もあるという。1昨年、友達と一緒に保護した猫が、思いがけず妊娠していた。
「子猫だと思って保護した小さなメス猫のお腹に赤ちゃんがいたんです。エコーをとったら3匹心臓が動いていると先生にいわれました。その時、受胎40日で、誕生まであと20日ほど。堕胎が間に合う状況でした」
千春さんも一緒に保護した友達も、メス猫を避妊してリリースするのではなく、「家族を見つけよう」と決めて保護していた。それで“お腹の子ごと”家族を見つけて幸せにしたいと思っていた。だが別の友達から「間に合うなら堕胎するのが当たり前、増やしてどうする」と言われ、話が平行線のまま疎遠になったという。
「意見がぶつかり本当に悩んだけど、家で出産させました。結局、メス3匹、オス1匹の計4匹がお腹にいたんです。みんな無事にすくすく育ち、母猫も含め、譲渡先が見つかりましたよ」
子猫には甘い和菓子の名前をつけた。猫の家族たちは今も「和菓子~ず」というLINEでつながり、成長を知らせ合っているそうだ。
「レスキューしていると、受胎の問題に出くわすことがけっこうあるんです。そもそもボランティアは、それぞれ活動の信念があるし、絶対こうでないとだめということはないと思う。責任を持って自分にできることをやるだけです……。生む、生まないで疎遠になっていた友達とも最近になって会い、またごはん行こうねって話したんですよ」
夢中でごはんを食べていた子猫たちも、家から巣立つ時がくる。手塩にかけて育てた猫の譲渡はどんな思いなのだろう。千春さんがしみじみと言った。
「最初の頃は別れがつらくて、もうやめるーっていつも泣いてましたよ。今も、お譲りする時に『本当にこのご家族でいいか』をよく考えます。信頼していても葛藤があるものなんです。でも送り出した後、ご家族が近況や写真を送ってくれると嬉しいし安心します。今いるチビちゃんたちも、それぞれ優しい家族に巡り逢ってほしいです」
「僕もそう思うよ」と言って、尚生さんが数十枚のお皿の片づけを始めた。
- 池田さんのブログ「neko neko House2」
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