猫の手借りれば「名シーン」 太秦で出会ったサビ猫
京都に来ている。時代劇映画の準備のためだ。仮住まいとはいえ、嵐山に住み、太秦にある松竹撮影所に通う。日本映画発祥の地の、長い歴史の中に迷い込んだような日々。
以前に映画「ゴッドファーザー」のオープニングに登場する猫が、パラマウント撮影所にいた野良猫で、マーロン・ブランドがその日たまたま見かけて連れてきたことを書いた。上海の映画スタジオでスタッフに愛される野良猫のことも書いた。可愛がりながら、名前をつけない中国の人たちが不思議だった。もしや、京都にもと思い、助監督の谷口恒平くんに聞くと、やはりいるという。
小道具倉庫の辺りでよく見かけるらしい。打ち合わせを早々に切り上げ、一緒に向かってみる。が、いない。「すみません」。恐縮する谷口くんに罪はない。きっと、思ってるだろうなあ、「なんだよ、いきなり猫モードになって。今度の監督は気まぐれで扱いにくいなあ」。でも、谷口くんは「小道具の中込さんが詳しいから聞いてみますか?」と、優しい。
白い髭(ひげ)に白髪、優しい笑顔の中込秀志さんに挨拶(あいさつ)もそこそこに猫情報を聞く。「いてます、いてます。よう来るんが1匹いますわ。サビ柄?言うんかな。来ますよ」。倉庫の周りを探してみるが、結局その日は見つからない。
帰って、脚本の直しをやっていると不意に、猫を出すとすごく良くなるシーンを思いつく。今までの経験から、撮影も難しくないシチュエーション。しかも検証するとそこだけでなく幾つかのシーンで効果的だ。これは役で出すしかない。名前は「タマ」とした。
すると、案の定スタッフから「本当にやるんですかあ?」攻撃が始まる。みんな、猫は犬と違って大変だと思いこんでいる。東京の犬童組は慣れてなんとも思わないが、ここ京都はまた一から出直しだ。中込さんが、小道具倉庫に野良がやってきた時の写真をくれた。そういえばと思い名前を聞く。「デブ、呼んでます」「え?」「太ってるから」。名前がないよりはいいかなと思った。
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