月明かりの猫たち 幻影のようなシルエットに会えない猫や人を重ねる、センチな散歩道

散歩道で出会った猫
散歩道で出会った猫

 人並みにインスタグラムに写真をあげることがある。ほとんどがうちの16歳の雌猫、三毛のチャッピーの姿。そこに最近「今日の散歩猫」というシリーズを始めた。ただあまり反響はなく、妻からのリアクションすらない。露出不足で粒子の荒れた、猫のシルエットが数枚あるだけだ。

 コロナ禍になり、別荘に引きこもって庭いじりとチャッピーを撫(な)でるばかりの日々も8月には終わり、仕事を再開するために東京に戻った。時間にゆとりがなくなり運動不足になる。

 そこで、散歩でもと思うが、東京は尋常でなく暑い。日のあるうちは無理と、夕飯後、空いた時間にフラフラとひとり街に出る。近所の緑道をひたすら歩き大きな公園の広場を抜けて帰る。だいたい8千歩の距離だ。

 緑道ではほとんど人に会わない。たまに遅い帰宅の人とすれ違うぐらいか。そこで、不意に猫たちと出会うことがある。月明かりや街灯の光の中に忽然(こつぜん)と現れるのだ。

 現れた猫は私の気配を感じ、必ず一度立ち止まりこちらを見る。大概シルエットで、顔は見えない。あ、と思いスマホを構え1枚撮る。近づくと、すっと消えてしまう。だから撮った写真はロングショットばかりだ。

 猫たちは、シルエットのせいか、本当はいなかったような幻影のような気配がある。見えないその顔に、なぜか会えなくなった猫や人を重ねてしまう。「ああ、もう、会えないんだなあ」という思いが鼻先を抜ける。

 ちょっとセンチな気持ちになって、公園の広場に行くと、夏休みの中高生がお祭りのように集まり、グループにわかれて花火をしている。もはやそこにはコロナの気配はない。歓声をあげる若者たちの中を、寂しい気持ちになったもはや老人の私は家路を急ぐ。

 たわいのないシルエットの猫写真も、私には今年の思い出が詰まっているという言い訳でした。

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犬童一心
1960年東京生まれ。映画監督。主な監督作品に「金魚の一生」「二人が喋ってる。」「金髪の草原」「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「のぼうの城」など

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この連載について
遠い目をした猫
「グーグーだって猫である」などを撮った映画監督で、愛猫家の犬童一心さんがつづる猫にまつわるコラムです。
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