縁側が似合う猫 「庭」という宇宙の境界線に生きている

谷守一を演じる山崎努さん ©2017「モリのいる場所」製作委員会
谷守一を演じる山崎努さん ©2017「モリのいる場所」製作委員会

 名優山崎努さん14年ぶりの主演映画が公開される。「モリのいる場所」。実在の画家、故熊谷守一。その94歳の夏の1日が描かれる。

 主役は当然熊谷だが、同じくらい重要なのが、熊谷が暮らす家の「庭」だ。

 熊谷は妻に言われる。「30年、家から出てないから」。でも、熊谷は朝散歩に出発する。それは庭を一周するだけの散歩だ。

 縁側には猫がいて、庭には無数の虫が木々の葉や土中に隠れている。働くアリの姿を横になって眺め、「左の2番目の脚から歩き出す」などと口にする。むせるような緑の匂いをかぎ分け、指先が石や風の感触を確かめるうちに時間はあっという間に経ってしまう。

 熊谷は言った。「石ころをじっと眺めているだけで何日も何月も暮らせます」。熊谷はその人生の後半を「庭」という宇宙に漂い続けたのだ。観客もまた一緒にその宇宙に迷い込む。そこは、熊谷の目を通すと、全く飽きず、何もかもがキラキラと気持ち良い。映画を見終わると、ロケットマンのように宇宙から帰還した感慨にふける。

 私は、「グーグーだって猫である」の原作者、大島弓子さんのある言葉を思い出した。大島さんは、ある対談で、映画「2001年宇宙の旅」の話になった時、「私だったら、あれを吉祥寺だけでやります」と言ったのだった。事実、大島さんの登場人物は、そのほとんどが吉祥寺から出ない。井の頭公園は大いなる自然、想像世界にある永遠の宇宙のように扱われる。そしてその宇宙に導く存在として猫が登場してくる。

 猫は、人の文明にあたり前のようにいながら、野生や自然、宇宙にいつもどこか片足を置いている。そして、時々人をそちらに導いてくれる。境界線の動物。だからあんなに縁側が似合うんだ。

 熊谷は猫の絵も多く描いている。「1匹1匹性質があるというとおかしいけれども、気風が違うんですわ」。というのが猫に関する熊谷の弁。

犬童一心
1960年東京生まれ。映画監督。主な監督作品に「金魚の一生」「二人が喋ってる。」「金髪の草原」「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「のぼうの城」など

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この特集について
遠い目をした猫
「グーグーだって猫である」などを撮った映画監督で、愛猫家の犬童一心さんがつづる猫にまつわるコラムです。
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