「売れ残り」から運命の猫になったソマ、転落事故で3本足に

顔をきゅっとひねると、かわいらしい感じに。ソマは愛嬌があった
顔をきゅっとひねると、かわいらしい感じに。ソマは愛嬌があった

 昨年夏、亡くなったオスの先住猫「ソマ」との出会いは突然だった。でも、いま考えると、わが家に来るべくして来た猫だった――。食いしん坊だけど、おだやかでマイペースだったソマ。16年間のソマとの生活をふりかえります。

 

(末尾に写真特集があります)

 


 

 2000年秋、長女が幼稚園に入ったのを機に、情操教育にも良いということで、わが家で「猫を飼おう」という話が浮上した。ちょうどペットOKのマンションに引っ越したタイミングでもあった。


 ある日、一度も行ったことがないショッピングセンターに、たまたまドライブがてら立ち寄り、そこに入っていたペットショップをのぞいた。


 人が近づくと駆け寄ってくる他の犬や猫とは対照的に、まったく人に関心を持たず、こびを売ることなくショーウインドウに背を向けて寝ている赤茶色の猫がいた。


「こっち向いて」と熱い視線を送るが、一向にこちらを向く気がない。そんな妻に店員が、こう言った。「ソマリって種類なんですけど、マイペースなんですよ。かわいいんだけど、こんな調子だから、ずーっと売れ残ってるんです」。


 聞けば生後4ケ月半を過ぎていた。しかも抱っこが嫌いらしい。


 何とか振り向かせたい。こちらも我慢強く視線を送ってみる。


「にゃんだ、この熱い視線は?」。ちらっとこっちを向いた。一瞬だが目が合った。そのとき、妻はビビッと来てしまった。「超イケメンで、心を撃ち抜かれてしまった」と後に語っている。その猫は、こうしてわが家にやってきたのだ。

 

わが家に来て間もない頃のソマ
わが家に来て間もない頃のソマ

◆いつでもどこでも堂々と

 猫の名前は、「アレクサンドリア」と書いてあった。でも堅苦しいのが嫌いなわが家には適さない、立派すぎる名前だったのでやめた。


 うーーん、名前どうしよう……。そのとき長女(当時4歳)が「ソマリだからソマにしようよ」。安直だけど呼びやすい名前なので採用! さあ、今日から君はソマちゃんだよ!


 初めて飼う種類の猫だけに「猫の辞典」で調べてみた。ソマリは神経質で環境の変化を嫌い、見知らぬ人には慎重で、大きな音が苦手……と書いてあった。


 ところが、ソマときたら、性格は真逆だった。どこでもどんな人にも臆することなく堂々としている。しかも掃除機をかけはじめると「俺を吸ってくれ」と掃除するところに寝転がる。ソマの全身を吸ってからでないと部屋を掃除できないという始末。もちろん個体差はあるだろうが、違いすぎない?


 そして、めちゃくちゃ食いしん坊だった。


 食卓、配膳台、ごみ箱……一瞬の隙あらば、口にできるものはすべて食べてしまう。冷蔵庫に食べ物が入っていることも知っているようで、冷蔵庫を自分で開けようとし始めた。台所に行こうとするだけで、超高速で台所に先回り。なんとも生命力にあふれた猫ちゃんである。

 

 

◆「脱走」をくりかえし、ついに転落!

 ソマはすくすく育ち、外に出ることに興味を持ち始めた。知らない間に高さ240㎝もある網戸を開けて、お散歩に行ってしまうこともたびたびあった。出られないように色々と工夫をするも、ソマの方が一枚も二枚も上手。上手にすり抜けてお散歩へ。そのたびに「ソマー」と呼びながらエサの空き缶をカンカンと叩く。と、「ニャー」とどこからか声がする。


 ベランダからのぞくと、2軒隣りのベランダをのうのうと歩きながらこちらにやってくる、……という具合だった。


 なかなか「脱走」を食い止める策が見つからず、試行錯誤の末、隣との間を段ボールでさえぎり、バルコニーの柵に農業用の緑のネットを張ることにした。2歳の時だ。しかし、そのネットを取り付けている最中にまたいなくなってしまったのだ。ソマの名前を呼んでも声が聞こえず、隣近所を歩き回ってもソマの姿がない。


 しばらく探しまわっていると下の階で人だかりが……。


「この猫、お宅の猫ちゃんですか?」。管理人さんの腕にソマが抱かれていた。


 あわてて下に降り、ソマを抱き上げると後ろ脚の一本がダラッとなっていた。管理人さんいわく、「植栽に着地しようとして、すぐ横のコンクリートに落ちてしまったみたいなんです」。ソマは、自宅のあるマンション6階から、1階の駐車場に転落してしまったのだ。

 

 

◆猫のために…「家族会議」で決断

 大急ぎで、かかりつけの動物病院へ。レントゲンを撮ってもらうと、右足の大腿骨が骨折、数か所ひびが入っていた。すぐに手術してもらい、骨折した部分は無事につなげてもらった。


 しかし先生の説明を聞いて、心配になった。「骨折した部分よりも、ひびが入った部分が心配なんです。動物は人間のようにじっと寝ていることができない。動いてしまうので、ひびが入った部分が骨折してしまう可能性があります。とりあえず様子を見ましょう」。


 動かないでくれ、と祈るばかりだった。


 妻は毎日、お見舞いに行った。だが数日後、先生から「やはりひびが入ったところが数か所骨折してしまったみたいです。何回も手術すると体に負担がかかり、死亡してしまうことも考えられます。いっそ『断脚』してしまったほうが、猫ちゃんのためかもしれません」と、説明があった。断脚、つまり足を切断するということだ。1週間の間に、どうするか結論を出すように言われた。


 家族で話し合い、結局ソマのために右足を断脚することにした。かかりつけの獣医さんを信頼していたし、いろいろ調べた結果、3本足でも元気に生活できるとわかった。何度も手術をして痛い思いをさせるより、1回の手術で終わらせた方が、ソマのためだと判断したからだ。

 

3本足になったソマ
3本足になったソマ

 約1カ月後、ソマは自宅に戻ってきた。3本足でがんばって歩く姿を見て、「ソマ、ごめんね」という気持ちでいっぱいになった。


 それでも、食いしん坊で掃除機に吸われたがる性格は変わっておらず、少し安心した。3本足にはなったけど、数日後には前のように元気に走り回る姿も見られるようになった。僕たちは、それまで以上にソマにたくさんの愛情を注ぎ、かわいがった。


 16年という長い間、大切な家族の一員だったソマ。まだ小さかった娘たちと一緒に育った「きょうだい」のようなもので、ソマはいつも娘たちによりそい、いやしてくれる存在だった。ありがとう、ソマ。

 

次女の足を枕にくつろぐソマ。娘たちにとっても、いやしの素だった
次女の足を枕にくつろぐソマ。娘たちにとっても、いやしの素だった
佐藤陽
1967年生まれ。91年朝日新聞社入社。大分支局、生活部、横浜総局などを経て、文化くらし報道部(be編集部)記者。医療・介護問題に関心があり、超高齢化の現場を歩き続けてまとめた著書『日本で老いて死ぬということ』(朝日新聞出版)がある。妻と娘2人、オス猫2匹と暮らす。妻はK-POPにハマり、大学生と中学生の娘たちも反抗期。慕ってくれるのは猫の「ジャッキー」と「きなこ」だけ。そんな日々を綴ります。

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この特集について
日だまり猫通信
イケメンのオス猫2匹と妻子と暮らす朝日新聞の佐藤陽記者が、猫好き一家の歴史をふりかえりながら、日々のできごとをつづります。
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