1年育てた犬と半年ぶりに再会! 盲導犬めざし、りりしく成長
盲導犬の候補の子犬を1年間預かって世話をするボランティア「パピーウォーカー」。ラブラドール・レトリーバーの「サンディ」を育てて、日本盲導犬協会に送り出した家族のもとに、半年後、朗報が入った。サンディが第一関門の適正テストに受かり、10月、協会の訓練センターで1時間だけ再会できることになったのだ。
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都内在住の高井明子さん(43)の家族は、昨年3月、生後2カ月だったサンディを預かるパピーウォーカーになった。高井家には子ども3人がおり、サンディを“もうひとりの我が子”のように育てた。今年3月、サンディを戻す時には、家族みんなで涙した。それ以来、初めての再会だ。
横浜市にある訓練センター。まず家族は遠くからドッグランで訓練するサンディの姿を眺めた。
「サンディに見つからないように、金網越しにそっと見ました。遠目にも、りりしくなったなあ、賢く美しく育っているなあと感じました」
高井家で過ごした時のサンディは、やんちゃで手もかかった。とくに幼い頃のトイレトレーニングではうんちまみれになり、明子さんはゆっくり眠る時間もなく痩せたことも。それが今では、訓練士の指示通り、右に曲がったり、左に曲がったり。見違えるほど成長していた。しかし、明子さんの胸には一抹の不安もあった。
「サンディはすぐ気付いてチラ見したけど、私たちだとわかったかな? ワーッと駆け寄る再会を想像していたので(笑)。シッポを少し振って認識はしているようでしたが、覚えていないのかしら、と思ったりして」
サンディの兄妹の6匹のうち、3匹が訓練生から離脱したという。人懐っこすぎたり、好奇心が強すぎたり、繊細すぎたり、性格が盲導犬には向いていない場合は、他の目的の犬や、家庭犬などになることもあるのだ。サンディはここまで順調に来た。たとえ自分たちのことをよく覚えていなくても、喜ばなければ……。そう明子さんは思おうとしたが、それは杞憂だった。
「訓練が終わってドッグランの中に家族が呼ばれ、訓練士さんから『(遊んで)OK』という指示を受けたとたん、サンディにスイッチが入って、大興奮! 子どもたちに飛びついたり、一緒に走り回ったり。訓練士さんが、『いつもの3倍は興奮している』と言っていました」
サンディとの結びつきが強く、存在が支えでもあった小学6年生の長男・龍大くんには、サンディは興奮をおさえ切れぬ様子で吠えかかったという。
「我が家でも、慣れてからはまったく吠えることはなかったので、思わず声が出るほど嬉しいのかな、と感じました。子どもたちも、筋肉が引き締まって、おとなびたサンディを、ずーっと撫でたり触ったりしていましたよ」
子どもも犬もクタクタになるまで遊んで、ひと休みをした後、家族は訓練士に頼んで、ハーネスをつけたサンディと一緒に歩いてみた。
「力強くこちらをリードしてくれました。ハーネスを通して心が通じ合うって、こういうことか、と思いました。自分たちが育てたからこそ、そう強く感じたのかもしれませんが。最後に、これまた協会にリクエストをして、“おんぶ”もさせてもらいました。重かった~(笑)」
サンディは今後、盲導犬の総合的テストを受け、それにパスすれば視覚障害者のパートナーとの共同訓練に入り、盲導犬としてデビューを迎えるという。次に家族に連絡が入るのはデビューの時だ。
明子さんが、しみじみという。
「約束の1時間はあっという間でした。1分たりとも無駄にせずやりたいことをしましたが……『じゃあね』とお別れした後、つい皆で『サンディー、サンディー』と呼んで追いかけてしまったんです。さすが訓練犬、振りむかず歩いていきました。でも急にドアの前でこちらを見て座りました。訓練士さんの指示だったのかもしれませんが。首をかしげる姿が可愛くて、うるっときました」
サンディとの出会いで、明子さんの心は今まで何度か変化した。
もともと犬好きというわけではなかった。子どもたちに良い経験をさせたいという思いと、1年という限りがあることでパピーウォーカーを引き受けた。だが半年前、送り出す時に一番泣いたのが、明子さんだった。今回また新しいことに気づいた。
「サンディに再会するまで、どうしているか心配で、早く会いたい、帰ってきて、と毎日のように思っていました。でも立派になったサンディを実際に見て、触れて、納得したというか。不思議なことに、今後は見守っていられるような安堵感を覚えています。一足先に“子どもが巣立つ時の親の気持ち”を味わわせてもらっているみたい」
サンディの成長記は、テレビでも放映され、明子さんの周囲でも、パピーウォーカーを希望したり、犬を飼い始めたりした人がいるという。
明るく爽やかに――。子犬の時に家族がイメージして命名した名の通り、サンディの存在が家族や周囲を照らしている。
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