犬・猫とずっと長く幸せに暮らすため、飼い主にできること
動物行動学の専門家・村田香織さんに学ぶ
ペットと暮らすことで、人は大きな幸せを得ることができる。では人は、「家族」となった
犬や猫を、どれだけ幸せにできるのか。長く幸せに、ともに暮らしていくために。
飼い始めてから見送るまで、飼い主に求められていることとは──。
文=太田匡彦 イラスト=コウゼンアヤコ
「シニア」になったら
いつまでもはしゃぐ姿を見るために
犬も猫もずいぶん"長寿"になった。ペットフード協会の2014年の調査によれば犬は平均14.17歳、猫は平均14.82歳まで生きるという。
そんななかで、犬や猫の老いは、飼い主の想像以上に早くやってくる。つい最近まで子犬や子猫のように駆け回っていたのに、7~8歳にもなればもう老化が始まるとされる。「シニア」と呼ばれる時期を迎えた愛犬、愛猫にどう向き合えばいいのかーー。
獣医行動診療科認定医で、もみの木動物病院(神戸市)副院長の村田香織獣医師はこう話す。
「飼い始めたばかりの子犬、子猫のときから、飼い主が適切な知識を持って育ててきてこそ、幸せで、充実したシニアの時間が待っています」
かつて楽しかったことウキウキとこなす
ここからは、シニアになった愛犬、愛猫とどうすれば少しでも長く、幸せに暮らしていけるかを見ていきたい。
飼い主がまず最初に「老化」に気付くのは、行動がどこか鈍くなったように見えたり、はつらつさがなくなったように感じられたときだろう。そうなると、飼い主の側にも遠慮のようなものが出てきて、エサをあげるときくらいしか構わなくなったりする。
だがそれは間違った行動だと、村田さんは指摘する。
「高齢になったらむしろ、積極的に刺激を与えてあげるように心がけてほしいのです。大きな疾患を抱えていないことが前提ですが、できるだけそれまでに近い生活をさせてあげることが重要です。若いときに楽しんでいたことは、歳をとってあまり動かなくなっても、実はすごくウキウキと楽しくこなします。シニアになっても、子犬、子猫のようにはしゃぐのです」
だから犬であれば、かつてよく出かけたお気に入りの場所に連れて行ってあげ、よく会わせていた友人や親戚などに再会させてあげることが、大きな喜び、いい刺激になる。そのためにも、若いときから様々な場所に連れて行ってあげ、人と触れ合わせておくことが重要だ。
前述の「犬の幼稚園(保育園)」に、寝たきり状態に近いシニア犬を入れてみたら、元気を取り戻したという症例報告もある。若い犬とふれあい、一緒に臭いをかいだり、散歩をしたりという経験が刺激になって、以前の調子を取り戻したのだ。
「シニアになっても刺激のある生活をさせてあげるために、子犬のころの社会化が大切であることがわかると思います。社会化が不適切で、ほかの犬や人を怖がるようであれば、シニアになってから刺激を与えてもそれは苦痛でしかありません。でもそのために刺激がない生活を送らせれば、身体機能の低下や認知症の進行を早めてしまうことになるでしょう」
室内環境の整備も異常あれば病院へ
一緒に出かけたりはしない猫の場合は、おもちゃなどで遊び続けてあげよう。ただ猫は、大人になると、自発的に遊ぶ機会が減る。そのため、中にエサを入れて遊ばせる「知育玩具」に若いころから慣らせておくなどすると、シニアになってもそれで遊び続けるという。
また、上下運動への積極性も衰えてしまうが、それは肥満につながる。そうした場合は、屋内の高い場所にちょっとずつエサを置いたりすると、上り下りを再開するようだ。ただし、猫もシニアになると関節系の疾患が出ることが少なくない。無理なく上り下りできるような、低めの段差を作ってあげるのも手だという。
こうして様々に刺激を与え、元気な時間を延ばしてあげても、やはり身体能力は低下していく。その時期に備えて、室内環境の対策をしておくことも飼い主の責任だ。ベッドやソファなどにスロープをつけたり、フローリングの床にすべりにくい加工をしたり、階段に転落防止用の柵を設けたりーー飼い主にできることはたくさんある。
もちろん、異常が見られるようであればこまめに獣医師のもとに連れて行こう。そもそもシニアになったら、犬も猫も定期的な健康診断は必ず受けておくべきだ。子犬、子猫のころから慣れ親しんだ動物病院、獣医師であれば、通院がよい刺激になる可能性もある。
「飼い主がしっかり準備をしてあげれば、最期のときまで充実した生活を送れると思います。それでも重大な疾患を抱えたり、介護状態に陥ったりすることは、もちろんあります。そのときに備えて、楽しい時間をなるべく長く作っていくことが、飼い主にとっても愛犬、愛猫にとっても大切なことなのです」
村田香織(むらた・かおり)
もみの木動物病院(神戸市)副院長。イン・クローバー代表取締役。
日本動物病院協会(JAHA)の「パピーケアスタッフ養成講座」メイン講師でもある。
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