マイクロチップは業規制の手段あってはならぬ議論すり替え

「8週齢規制」を実効性あるものに

 2012年8月21日、自民党本部7階の会議室で行われた党環境部会で、当時党どうぶつ愛護議員連盟幹事長だった松浪健太氏が、改正動物愛護法(13年9月施行)におけるマイクロチップの扱いについて、こんな発言をしている。

「民主党さんが全然マイクロチップのほうは触れてなかったわけですけれども、8週(56日)齢規制を実効性あるものにするとかいうことから附則にまで引き上げた」

 この前日に終わった与野党実務者協議の合意内容を部会に伝える場。松浪氏の言葉に力がこもったのが、マイクロチップにかかわるくだりだった。附則に盛り込まれるなどしたことについて「我が党として誇れる」とも表現した。

 こうして今に至る、マイクロチップ義務化についての本格的な議論が始まった――わけだが、そのスタートラインは、8週齢規制の実効性を担保するために「トレーサビリティー(履歴管理)」が必要だ、という問題意識にあったことを改めて確認しておきたい。新設の附則第14条に「国は、販売の用に供せられる犬、猫等にマイクロチップを装着することが(後略)」とあることからもそれは明らかだ。

 8週齢規制を「実効性あるもの」にするためには犬の出生日を証明できることが重要であり、そのことに関連して繁殖業者→競り市→生体小売業者と流通していく子犬のトレーサビリティーを確保する必要がある。だから8週齢規制が実現する際には同時に、繁殖業者にマイクロチップの装着を義務付ける――というのが改正動愛法のもとで目指している「あるべき姿」だ。

 だが不思議なことに、昨年、環境省が発表した「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクトアクションプラン」では、マイクロチップの役割として「所有明示」に重きを置き、マイクロチップ装着を「飼い主の義務」としたいかのように読める箇所がある。マイクロチップ義務化だけを目的に、議論のすり替えが行われていないだろうか。

 確かに、動愛法改正作業の最中に東日本大震災が発生し、所有者割り出しのためにマイクロチップ装着に注目が集まった。冒頭の松浪氏も「災害時にマイクロチップが有用」という発言もしている。だが個体を識別し所有者を明示する機能としては、既に狂犬病予防法における「鑑札装着義務」があり、「2重規制」となってしまう問題が幾度も指摘されている。12年法改正の趣旨を、議論のすり替えによって毀損するようなことがあってはならない。

(朝日新聞 タブロイド「sippo」No.26(2015年3月)掲載)

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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