災害救助犬「夢之丞」、遺族と対面 「ありがとうね」

夢之丞をなでる宮村さん
夢之丞をなでる宮村さん

 8月14日、私は災害救助犬の夢之丞やピースウィンズ・ジャパン(PWJ)のスタッフとともに、広島市安佐南区の梅林小学校を訪れた。76人(胎児を含む)が亡くなった1年前の広島土砂災害で、特に大きな被害が出た地域にあり、今も周囲には住宅が流されたあとの更地が残っている。

 訪問の目的は、土砂災害のときに夢之丞が発見した宮村祐之(ゆうじ)さんのご遺族にお会いすることだった。災害が発生した昨年8月20日、捜索を開始して間もない午後1時19分ごろ、夢之丞は壊れた家の付近で動きをピタリと止め、反応を示した。そのあたりを捜索すると、折り重なった2本の倒木の間に挟まれた形で、宮村さんのご遺体が見つかった。倒木を切り、私が宮村さんを泥の中から引き出した。

 当時、私たちにはご遺体の身元は分からず、ご遺族とお会いすることもなかった。しかし、PWJの救助犬が発見したという話が消防や警察からご遺族に伝えられていたらしく、災害から1周年になるのを前に、地元テレビ局の取材を受けた長男の宮村祥光(よしみつ)さんが「夢之丞に会いたい」と言ってくださったのだ。もちろん、お断りする理由は何もなかった。

 土砂災害でご両親ともに亡くした祥光さんは、墓参の後で梅林小学校に来られた。発見当時の状況を私が説明すると、涙を流し、「ありがとうね」と言葉をかけながら夢之丞をなでてくれた。その様子に私も胸が熱くなったが、やはりご遺体でしか見つけられなかったことが悔しくもあった。次の機会にはもっと早く現場に駆けつけ、絶対に生存者を発見したい。私はそうあらためて心に誓い、祥光さんにも率直にその気持ちを伝えた。

 この対面の数日前、夢之丞と私は台風13号が横断した台湾で、土砂崩れによる行方不明者の捜索にあたっていた。被害を予想し、台風上陸の2日前に台湾に入って、現地のパートナー団体や消防と情報交換しながら事前準備を進めた。早さこそが生存者の救出につながる最大のポイントというのは、広島土砂災害や今春のネパール地震でも私たちが学んだ教訓だ。台湾では生存者を発見することはできなかったが、今後も事前展開を含めたできる限りの努力を重ねていきたい。

災害現場での黙とう
災害現場での黙とう
大西健丞
1967年生まれ。NPO法人「ピースウインズ・ジャパン」代表理事。広島県神石高原町にシェルターを設け、捨て犬の保護・譲渡活動に取り組むプロジェクトを運営している。

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この連載について
大西健丞のピースワンコ日記
NPO「ピースウインズ・ジャパン」代表の大西健丞さんが、殺処分ゼロをめざして犬の保護活動に取り組む日々を語ります。
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