子供に引っ張られても怒らず穏やかなおじいちゃん猫になったラッキーくん(ケトラさん提供)
子供に引っ張られても怒らず穏やかなおじいちゃん猫になったラッキーくん(ケトラさん提供)

「ラッキーに出会えて幸せだった」 交通事故で保護された老猫がつないだ家族の絆

 いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。2020年に20歳(推定)になった保護猫のラッキーくんは家族に囲まれて息を引き取りました。ラッキーくんを保護した経緯、ともに過ごした時間、ラッキーくんへの気持ちを飼い主のケトラさんにお聞きました。

(末尾に写真特集があります)

交通事故で血まみれで倒れていた

――ラッキーくんを保護した経緯を教えてください。

 2014年、次女が車で会社へ行く途中、国道で倒れていたラッキーを見つけました。この地域は田舎なので、タヌキやアライグマが車にはねられることも少なくありません。次女がラッキーを発見したとき、「血まみれだけどまだ動いている!」と急いで駆け寄り、そのまま車で近くの動物病院を探して連れて行きました。

 診察の結果、頭の損傷はあったものの幸い内臓には損傷がなかったので、そのまま手術してもらうことになりました。口の中の上あごがパカっと割れていたようで、そこから大量出血していましたが、命は助かりました。歯もすべてなく、それが事故の影響か年齢によるものなのか分かりませんでしたが、獣医から「推定14歳くらい」と言われました。

――そのままケトラさんが飼うことに決めた理由はなんでしょうか?

 近隣や役場で飼い主を探しましたが、届け出がなく、どうやら外猫だったようです。退院後、再び外に放すのは忍びなかったので、次女と話し合って家族として迎えることにしました。

――家猫になったラッキーくん、なじむのは大変でしたか?

 しばらくはまったく人に慣れず、近づくと「フーッ」や「シャー」とうなり、手を出すと猫パンチが飛んできました。でもおなかは空いていたようで、少しずつそっとケージの中に餌を差し出すと食べてくれました。口のケガの影響でカリカリが食べられなかったため、フードを粉状に砕いてお湯で溶かしてあげていました。

 最初は触ることすらできなかったものの、ケージの扉を開けっ放しにしておいたところ、日々1センチずつ出てくれるようになりました。時間は少しかかりましたが、次女と私に懐くようになりました。

交通事故後、自宅で過ごし始めた頃のラッキーくん(ケトラさん提供)

一時は老猫ホームへ

――その後は亡くなるまでケトラさんが面倒をみていたのですか?

 ラッキーを保護してから2年後に次女が結婚して他県に引っ越すことになり、「私が保護した子だから一緒に連れて行く」とラッキーも次女と一緒に新しい生活を始めました。次女はフェレットを数匹飼っていたのですが、その子たちとも仲良くしていました。家でおとなしく、攻撃することもなく、温厚なおじいさん猫になったという感じでしょうか。でも数年後、ラッキーが少し認知症になり昼夜逆転したことで、妊娠中でフルタイムで働いていた次女の生活がままならなくなりました。

 その時の私はペット不可の賃貸に住んでいたので預かることができず、悩んだ末、東京の老猫ホームにラッキーを預けることにしました。費用は30万~40万ほどかかりましたが、他にその時は選択肢がありませんでした。

――そうでしたか……。苦渋の選択でしたね。

 老猫ホームはとてもきちんとしていて、毎日メールでラッキーの写真を送ってくれていたのですが、その写真のラッキーはどんどん毛並みがぼさぼさになり、顔つきが変わってしまって……。次女と相談して、「このまま老猫ホームで死なせてしまったら絶対一生後悔する」と、3カ月後に再び引き取り、家に連れて帰りました。

次女宅にいたフェレットたちとも仲良くなったラッキーくん(ケトラさん提供)

最期は家族に見守られて旅立った

――老猫ホームから戻って、どちらでラッキーくんを飼うことにしたのでしょうか?

 持ち家のある長女が引き取ることになりました。しかし、長女家族は動物を飼った経験がなく突然の環境変化を心配し、いったん私の家で預かることにしました。長女の家族が3週間ほど毎日通い、ラッキーと仲良くなってから、長女の家に移りました。

 長女宅でラッキーは毛づやもよくなり、体重も増えました。残念ながらそこからわずか4カ月で亡くなってしまいましたが、その期間は非常に濃密な時間でした。ラッキー中心の生活で、長女に抱っこしてほしいとねだり、寝るときは抱っこしてベッドへ連れて行き、一緒に寝ていました。

――余生を幸せな環境で過ごせたんですね。

 そう思います。長女家族がとてもよくラッキーの面倒をみてくれました。亡くなる前日にどうやら脳梗塞(こうそく)を起こしたらしく、右半身が不随となり、すぐに病院へ連れて行ったのですが、獣医に「家でゆっくりさせてあげてください」と言われ、翌日、亡くなりました。私と長女家族みんなに囲まれ、ラッキーが大好きだった猫ハウスの中で眠るように亡くなりました。

――ケトラさんにとって「ペットの死に向き合う」とはどういうことでしょうか?

 最期は、「ありがとう」と感謝の気もちで見送りました。亡くなったのは悲しいことですが、私にとってペットの死に向き合うということは感謝です。ラッキーと過ごした時間にも感謝していますし、さらにラッキーはつながりと出会いも与えてくれました。

 ラッキーを保護しみとった経験から、今では長女宅に3匹の保護猫がいます。目の無い子、脚のない子、譲渡会で引き取り手が見つからなかった子を積極的に引き取っています。それはラッキーが与えてくれたご縁だと感謝しています。

最期は長女家族とケトラさんに見守られて旅立った(ケトラさん提供)

<取材を終えて>
 交通事故で病院に運んだ際に、名前が必要だと言われ「交通事故にあったけど助かってラッキーだったから、ラッキーにしよう」と名付けたそうです。ラッキーくんに出会えたこと、また、ラッキーくんがつないでくれたご縁に感謝ですと、ケトラさんは何度もお話くださいました。

【前の回】 18年一緒に暮らした愛猫との別れ 悲しいけどペットロスにはならなかった

岡山由紀子
某雑誌編集者を経て、2016年からフリーのエディター・ライターとして活動。老犬と共に暮らす愛犬家。『人とメディアを繋ぎ、読者の生活を豊かに』をモットーに、新聞、雑誌などで執筆中。公式サイト: okayamayukiko.com

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この連載について
ペットの死に向き合う
いつか来るペットとのお別れの日。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。みなさんの思いを伺います。
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