「暇だ。でもハナと遊ぶ気はないね」(小林写函撮影)
「暇だ。でもハナと遊ぶ気はないね」(小林写函撮影)

「はちはハナのことを嫌がっているよ」 暗雲立ち込める2匹目の猫のトライアル

 愛猫「はち」の同居猫候補、推定9歳の三毛猫「みーちゃん」を保護猫団体B会でみつけ、トライアルを開始。すべり出しは順調で、ツレアイと私は家の子にするつもりで「ハナ」と改名した。

 だがハナが来て1週間ほど経つと、はちの行動と体調に異変が現れた。早朝から激しく鳴いたり、軽い膀胱炎になったりしたのだ。

 はちはくったくがなく、性格は穏やかだ。ハナに威嚇もしないので受け入れてくれたのだと思っていたが、やはり新入り猫の登場はストレスになっていた。

(末尾に写真特集があります)

ハナにも変化が

 それにしても、はちに対するハナの行動は意外だった。ハナは「おとなしく落ち着いた熟女」いうふれこみで、外で暮らしていたときも、ほかの猫につきまとわれるのを嫌がっていたと聞いた。それなのに、はちには強引に鼻チューならぬ、鼻突きをするというのは、どういう心理なのだろうか。

 ハナは、私たちに対しても自己主張をするようになった。なでられるのが好きなくせに、気分が乗らないとこちらの手を払いのけるし、なで方が気に入らないとかみつこうとする。また、ケージから出せ出せと激しくアピールするようになった。

「多頭飼いガイド」によると、顔を見ればすぐに喧嘩(けんか)という関係でもなければ、新入り猫はケージから出し、家の中で自由に過ごす時間を増やしたほうがよいそうだ。

「他の猫がいるとどうも落ち着かないな」(小林写函撮影)

 それで、はちの膀胱炎が落ち着いた頃を見計らい、私の在宅時はケージの扉を開け、ハナが好きに出入りできるようにした。

 ただし廊下に通じるドアは閉め、歩き回れるのはリビングとキッチンのみ。私は、リビングで仕事をするようにした。

2匹の間に亀裂が…?

 トライアル期間は、仕事が立て込んでいないときを狙って設定した。だからまだよかったものの、2匹の相性を探りながらではなかなか集中できない。

 ハナは外に向かってアウアウと鳴くこともなくなり、落ち着いている。はちに鼻突きさえしなければ特に問題は起こらず、2匹は2メートルぐらい距離をおきながら、窓外をながめていたりする。

 あるとき「2匹に同時にごはんをあげてみては」というアドバイスをB会の人たちからもらった。それで1メートルぐらい離れた場所にウェットフードを入れた各自の食器をおき、2匹を誘導してみた。

 食いしん坊のはちは無我夢中で食べているが、ハナは、はちが気になる様子だ。自分の分が食べ終わっていないにもかかわらず、はちのところにやってきて、どんと鼻突きをすると、はちの食器に顔をつっこんだ。

 その瞬間はちが、かつてない勢いでハナの頭に猫パンチを浴びせた。ハナは顔を上げると、そそくさとケージの2階に戻り、毛づくろいをはじめた。

 その日の夜、はちは、猫トイレの横の壁に、尿をひっかけた。

 これは「スプレー行為」というやつではないか。

 私は動揺し、インターネットで調べた。

「おばちゃんの抱っこなんか変ね」(小林写函撮影)

 スプレー行為とは、猫が壁やドアなどに通常より濃い尿をひっかけることをいう。おもに去勢をしていないオス猫が自分の縄張りを強く主張するため行うとされるが、去勢済みのオスやメスにも見られることがあり、多頭飼いの家で多いらしい。

 不満や不安が原因のこともあり、ストレスの要因に直面した際、安心感を得るための行為ともいわれる。

 だがはちの場合は、スプレー行為と断定できないところがあった。スプレーは、比較的少ない量の尿を壁に向かって噴射するというが、はちの場合は、最初は砂に向かって下向きに排尿し、だんだんと腰を上げていくため、壁に尿がひっかかってしまう、という感じだ。

 はちはトイレの縁に前脚をかけ、腰をあげて排尿をするくせがある。過去にも、たまに壁に尿をひっかけることはあったので、壁には常にペットシーツを貼っていた。

 単なるくせならいいが、直近ではハナが来た直後にもしているので、何か関係があるのかもしれない。それとも、トイレそのものに不満があるのだろうかなどと考えるうちに数日が過ぎた。

「もうすぐ春だな」(小林写函撮影)

 はちの朝鳴きは相変わらずだ。なだめるために手作りスープやウエットフードを与えたり、パジャマ姿のまま遊んだりしているのに、おさまる気配がない。

 そうして、ハナを迎えて2週間が経とうとする日の夜、はちははじめてハナを威嚇した。

バトルが勃発

 リビングを散歩していたハナが、はちに2回、鼻突きをしたときだった。

 はちは耳を後ろに反らせて体をふくらませ、「シャーッ」と声を上げた。

 すると今度はハナがはちに激しく猫パンチを浴びせ、からだを低くして牙をむいた。2匹は目を合わせてうなりあっていたが、数秒後、きびすを返してケージに向かって走り去るハナをはちが追いかけ、お尻に飛びついた。ハナは「ギャー」っと声を上げ、2匹は向き合った。

 まさに殴り合いかとなったところで、「猫たちに任せておきなよ」というツレアイの声を無視して、私は「ダメ!」と声を上げた。

 2匹はぴたりと動きを止めた。ハナはケージの2階にジャンプして飛び込み、目を見開いてしばらくかたまっていたが、やがて毛づくろいをはじめた。

 はちは、ニャーニャー鳴きながら、ツレアイの足に何度も顔をこすりつけた。

「この2匹、仲良くないね。はちはハナのことを嫌がっているよ」

 と、はちをなでながら、ツレアイは言った。

「はちのためにと思って考えた2匹目なのに、迎えていいのかな」

 その言葉を聞き、私は、考えてしまった。

(次回は3月15日公開予定です)

【前の回】2匹目のトライアル開始から1週間 要求鳴きに体調不良、先住猫「はち」に異変

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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