迎えたパピヨンの子犬が暴れん坊すぎ 「普通に一緒に暮らせるようになる」を目指す

「ここ、めっちゃ楽しい!」(UG提供)

 家族に飛びつき、かみつき、幼い娘は怖がってしまい……。念願の子犬との暮らしは混乱を極め、ケージに入れっぱなしの時間が増えていった。苦悩と罪悪感にさいなまれた家族は、UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長に救いを求めた。

 激アツ店長、中目黒駅前で叫ぶ。

「服従させなくていい。一緒に暮らす、それが目指すゴール!」

(前回のお話はこちら)
(末尾に写真特集があります)

目指すは「普通に一緒に暮らせるようになる」

 お母さんは、ハッピーくんと7歳の長女を連れ、UGのカウンセリングへ。「ハッピーくんは見た目こそかわいいけれど、激強でバリッバリのオス。これまで見てきたパピヨンの中で、1位、2位を争うほど強い子犬でした」と高橋店長。こう続ける。

「やさしいお母さんとおとなしそうな娘さんが、この強すぎるハッピーくんを果たして飼い切れるのだろうか? 正直、そう感じました」

 社会化お泊まりを勧めると、長女は「さみしい、ハッピーと離れたくない」と泣きじゃくった。「これから先、ずっとハッピーと一緒にいるために私たちも頑張ろうね――。娘にそう言い聞かせながら、私自身はどこかホッとしていました」とお母さんは本音をもらす。

 ハッピーくんは群れに怖がることもひるむこともなく、むしろしつこくほかの犬を追っかけ回した。「強い子は強い犬が好き」と店長。ハッピーくんは特に強い男の子が好きで、店長の愛犬で群れのリーダーのロイスにマウンティングするなど、無謀な態度でロイスから厳しく注意された。店長はハッピーくんを「興奮すると周りが見えなくなり、制御が効かない」と分析。その上で、お母さんにはこう伝えたという。

「お母さんと娘さんたちがハッピーくんを服従させるのは無理です。難しいことは考えず、シンプルに一緒に暮らす。時間はかかるかもしれないけれど、そこを目標に頑張っていきましょう」

 その意図を店長はこう説明する。

「体もメンタルもとにかく強いハッピーくんは、人間がリーダーになればなんとかなるというレベルではありません。下手に闘えば反撃され、関係がこじれてしまう可能性も。そうなると、優しいお母さんは壊れてしまい、おそらくハッピーくんを飼いきれなくなってしまう。ルールやガマンを教えるといったことは僕らスタッフや先輩犬たちがやるので、アフターケアに通いながら、ご家族は強いハッピーくんを受け入れ、信じ、普通に一緒に暮らせるようになる。それを目指してもらおうと考えました」

しつこくしすぎて先輩たちから注意される。犬には犬が教える。それがUGの流儀(UG提供)

 お母さんは「肩の荷が下りました」と安堵(あんど)の表情を見せる。「ハッピーと一緒に暮らす。シンプルにそれを目指そうと心が決まったのです」。そして、ハッピーくんが帰ってくる前に子どもたちと話し合った。「ハッピーは元気な子だからやりすぎちゃうこともあるよね。でも、ハッピーにはハッピーの気持ちや主張がある。ハッピーのこと信じて受け入れよう。もちろんダメなことはダメ、イヤなことはイヤと伝え、家族みんなで一緒に暮らしていこう!」

考えるきっかけつくってくれた

 1週間後お迎えに行くと、「思い切り遊べたのか、とても満足そうな顔をしていました」とお母さんはニッコリ。帰宅すると飛びつきやかみつきがほとんどなくなり、なんとリビングでスヤスヤ。初めて見る穏やかなハッピーくんに、家族は驚き、喜んだ。

「おかーさん、おねーちゃん、オレがんばったよ」。お泊まりを終え満足げなお顔(UG提供)

 お母さんは「2日ほどでいつもどおりのハイパーハッピーに戻りましたが」と笑うが、「ハッピーを受け入れるということを当時3歳だった次女も幼いなりに理解したようで、ハッピーを怖がらなくなりました」とお母さん。また姉妹が「ハッピーがイジワルしてくる」と訴えてきたら、「自分たちがハッピーのイヤがることしてない?」と問いかけ、みんなで考えるようになったという。

 お姉ちゃんは、布製のぬいぐるみなどは秒殺で破壊してしまうハッピーくんのために、おもちゃを買いに行くとお店の人に「一番硬いのはどれですか?」とたずねるのだとか。オヤツもサクサクのクッキーなどではなく、牛骨や馬アキレスなどワイルド系をセレクト。

「ハッピーが来る前はふわふわのかわいいぬいぐるみで一緒に遊ぶことを夢見ていたようですが(笑)。娘なりにハッピーのことを思い、ハッピーに合ったものや好きなものを考え、選んでくれています」

 その後も月に一度はアフターケアに通い、困ったり迷ったりしたら店長にアドバイスを仰いだ。「店長からは『ハッピーくんはこういうヤツ。それがハッピーくんなんだから』『荒れてきたら、いっぱい遊んでたくさんお散歩に行く!』と叱咤激励されました」とお母さん。こう続ける。

「『一緒に暮らす』。店長のこの言葉をいつも胸に、子どもたちはハッピーと遊び、お散歩を頑張りました。これまでも、これからも先も、この言葉は私たち家族のお守り」

めいっぱい遊んで、たっぷり寝る! それが子犬の仕事(UG提供)

家族の中でなくてはならない存在に

 この1月、ハッピーくんは3歳を迎えた。「相変わらずハッピーは元気いっぱいで、大変は大変です。でも、子どもたちがゲームをやっている横でハッピーがまったり……なんて奇跡のような瞬間も増えました」とお母さんはうれしそう。そして、今やハッピーくんは家族の中でなくてはならない存在に。

「上の娘が思春期の入り口に差し掛かり、反抗的な態度につい私も感情的になってしまうことが。お互い素直になれない。そんなとき、ハッピーの言葉を借りる形で『お母さん、言いすぎたなって謝りたいみたいだよ』と娘に聞こえるように言ってみたり……。娘も同じで、娘の本音をハッピーを通じて知ることができたりするんです。ハッピーがいてくれるおかげで家の中がとても明るい。末っ子だけど、とても頼りになる長男です」

「オレが勉強手伝ってあげようか?」。ハッピーくん頼りになる!(お母さん提供)

 その話を聞いた店長は「ハッピーくん、かっこいい!」と感激。「人間がピリピリすると、それが伝わり同じようにピリピリしてしまう犬もいますが、ハッピーくんはいい意味で『オレはオレ』とわが道を行くタイプ。そのブレない強さが頼もしさにつながっている。強さは正義になるのです」

 アフターケアでUGに来ても、以前より周りを見るようになり、パワーも制御できるようになったという。店長はハッピーくんの成長を感じるとともに、何より家族の変化がうれしいと目を細める。

「お母さんに、いま楽しいですか? と尋ねたら、『とっても楽しいです!』と明るい答えが返ってきた。愛犬と一緒に、普通に、なにより楽しく暮らせること。それが最高にハッピー!」

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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