「こんにちは。ひまわり色のはちです」(小林写函撮影)
「こんにちは。ひまわり色のはちです」(小林写函撮影)

待ったなしの投薬はどうする? 愛猫「はち」のストラバイト結石に奔走した3週間

 元野良猫「はち」を家に迎えてちょうど2年が過ぎた2月上旬、はちが膀胱炎になった。自宅でシステムトイレを使って採尿し、かかりつけの動物病院で検査をしたところ、尿の中にストラバイト結石が出ていることがわかった。

(末尾に写真特集があります)

猫の尿路結石

 腎臓で作られた尿は、尿管、膀胱、尿道を通って排出され、その尿の通り道を「尿路」という。そのうち膀胱から尿道までが「下部尿路」と呼ばれ、猫は、ここに結石ができる尿路結石症にかかる確率が高いそうだ。

 結石にはいつくか種類があり、代表的なものにリン酸アンモニウムマグネシウム(ストラバイト)と、シュウ酸カルシウムの2つがある。前者は尿がアルカリ性に、後者は、酸性に傾くことで形成される。

 はちのストラバイトは砂粒ぐらいの大きさの結晶で、少量だった。だがこの量が増えると尿道や膀胱を傷つけ、血尿が出たり排尿痛がおこったりする。さらに、結晶同士がくっついて結石になり尿道に詰まると、尿道閉塞という尿が出ない状態になる。その状態が続けば尿毒症や急性腎不全など、命にかかわる症状を引き起こす。

「院長先生、何すんの!」(小林写函撮影)

 幸い、はちの場合は軽度だった。結石ができにくいように設計された療法食を与える必要もまだなく、消炎剤と、尿を酸性にする成分を含むサプリメントを飲ませて様子を見ることになったのだった。

投薬の方法をどうするか

 朝晩の投薬と、日々の飲水量を増やすこと。はちの症状を悪化させないために私に課せられた任務はこの2つだ。

 投薬は、以前は一般食のウエットフードにくるみ、手のひらにのせて与えていた。最近はウエットフードの代わりに、手作りスープを作るときに入れるゆでたササミを使っていた。

 だがササミは、「マグネシウムやリンが多く含まれているため、結石のある猫には避けたほうがいい」と動物病院で言われた。もう絶対に与えるわけにはいかない。

 そこで思い切って、口から直接の投薬を試みることにした。

 先代猫「ぽんた」への投薬は、いつもこの方法で行っていた。しかしからだが大きく、じっとしているのが苦手なはちの場合、口めがけての投薬など「逆立ちしたって無理」と諦めていた。

 今は、歯みがきトレーニングの成果で、口にさわることには慣れた。ひょっとしたらできるのでは、という自信もあった。

「ぽんた兄さんのまね」(小林写函撮影)

 はちを後ろから捕まえ、「ニャー」と鳴いて逃げようとするところをずるずると引っ張ってひざの間に挟んで押さえつける。左手で頭をつかんで上を向かせ、右手で素早く口を開けて舌の奥を目がけて錠剤を落とし、口を閉じた。

 のどをさすると、なんと、ゴクッと飲み込んだではないか。

 すかさず、用意しておいた手作りスープの器を差し出す。はちはぺろりと飲み干した。こうすれば、薬を吐き出す心配もない。

 これはいい、と大喜びしたのだが、3日目に挫折した。

投薬をかたくなに拒否、方法を変えた

 はちが「薬を飲まされる」ことを悟るようなり、頭を押さえると、かたくなに口を閉じるようになったからだ。あごに右手をかけると、ぶんぶんと激しく頭を振る。そこを無理やりこじ開け、中途半端に口が開いたところで錠剤を放り込んでもうまくのどに落ちないので、吐き出してしまう。

 歯みがきトレーニングと違い「だんだんと慣らしましょう」というわけにもいかない。無理はやめて、ウエットフードにくるむ方法に戻すことにした。

 飲水量を増やすことに関しては、水飲み場を1カ所増やし、さらに手作りスープを活用することにした。

 ササミも固形で与えるのではなく、スープのだしとして使用するなら問題がないとのこと。だが念のため、ササミの代用品として、投薬に使っているマグロが原料のウエットフードを採用した。

「おばちゃん、三面記事じゃなくて国際面読ませてよ」(小林写函撮影)

 このフードは「ヒューマングレード(人間用の食品と同等基準のレベルで管理された品質の原材料を使ったフード)」をうたっている国産品だ。原材料成分表に記載されているのは「マグロ、ビタミンE」のみで、だしとして利用するにも安心感がある。

「だったら、人間のための刺身用の魚を買ってきて使えばいいじゃない」

 とツレアイは言った。自分も、ご相伴にあずかろうという魂胆らしい。

 だが、実は私は生魚が苦手で、家の食卓に刺身がのぼることは皆無だ。自分が食べない食品を猫のためにわざわざ買うのもなあと思ったし、保存のきく常備品であるウエットフードのほうが手軽だ。

 こうして、消炎剤とサプリを飲ませ、手作りスープを積極的に飲ませるようにしたところ、3週間後の検査では、膀胱内の炎症も、ストラバイト結石も消えていた。

 これでひと安心と思いきや「尿のpH(ペーハー)値が基準値より若干高めで、アルカリ性に傾きやすく、今後もストラバイトが出る可能性は高い」とのこと。

 そのため、定期的な尿検査は必須となった。

 尿検査の重要性が身に染みたできごとだった。だが、投薬と飲水量増加の任務に1カ月間かかりっきりで、歯みがきのほうはすっかりおろそかになってしまった。

(次回は9月1日公開予定です)

【関連記事】愛猫「はち」がストラバイト結石に よかれと思って与えていた手作りスープがまさか?

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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