東日本大震災から約1年半後の2012年11月21日に、警戒区域の大熊町で保護された「ゆうくん」。よく生き延びた
東日本大震災から約1年半後の2012年11月21日に、警戒区域の大熊町で保護された「ゆうくん」。よく生き延びた

12年の軌跡 東日本大震災から始まった動物保護活動が、殺処分ゼロを目指すまで

 公益社団法人「アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。

 保護活動をされている方や保護団体は増えてきたとはいえ、多くの方にとって身近にいる存在ではないと思います。犬猫が好きだから、だけでは続かない保護活動。なぜそんなにも没頭し、何を目指しているのか。今回は、福島県いわき市をベースに活動している「特定非営利活動法人 動物愛護団体LYSTA」の12年間の軌跡を追い、保護活動によって何が変わっていくのかを紹介します。

(文末に写真特集があります)

仕事を辞め、恋人とは距離を置き、選んだ保護活動

「私の自宅は警戒区域から25kmくらいのところなんです。建物が崩壊し、親戚が多く住んでいたエリアも津波被害に遭い、知人は海に流されました。その経験は、私に『なぜ自分は生かされたのか』という問いを与えました。人間への支援はたくさん入っているのに、警戒区域に放置された犬猫たちはおなかを空かせたままで、ほったらかし。助ける人がいないのだったら私がやろう、そう思って仕事を辞め、結婚を考えていた相手がいましたがお断りをし、始めたのか『LYSTA』です」

 特定非営利活動法人 動物愛護団体LYSTAの代表である鈴木理絵さんは、淡々とそう語ってくれました。

鈴木理絵さん。警戒区域である双葉町で保護した「ゴンちゃん」と。警戒区域内で被災後に生まれたゴンちゃんは人慣れしておらず、時間をかけて絆を作った

「警戒区域内での保護活動は、犬の姿が見えなくなるまで4年弱行いました。鎖につながれたまま亡くなった犬たちや、ぐったりした牛。腐敗してしまう家畜たち。そんな異様な場所で、放浪する犬たちを追い続けました。とにかく、感情を消すようにしていましたね。感情的になってしまうと、その時点で保護活動に向き合うことができなくなってしまう、と感じたからです」

2011年。警戒区域内でさまよう2匹のブタ。誰も予期しなかったとはいえ、心が痛む

警戒区域内の犬。災害直後は大きな保護団体さんも活動をしていた。撤退後は残っていたボランティアさんと鈴木さんの地道で孤独な保護活動が続いた

3年でやめるつもりが早12年

 自宅の一角、ビニールシートで風よけをした小さなスペースから始めた鈴木さんの保護活動。警戒区域の保護に目処が立ってからは、いわき市をメインに活動を続けたそう。その場所は水はけが悪いこともあり、金融機関からの借り入れをし、2023年に新たなシェルターに移転。また「ohana」という保護猫カフェも運営しています。

移転した新シェルター。高いところが好きな猫が自由に動けるような工夫をしている。常時約150匹の犬猫が暮らしている

 鈴木さんは、「3年で保護活動はやめるつもりだったけど、今はあと20年は続けたいと思っています。それは犬や猫のためにもっとこのいわき市を良くしたいから」とにこやかに話します。実は、福島県は行政に保護される犬猫が非常に多く、2020年は殺処分数が全国ワースト2位という不名誉なランキングも。震災で意識は変わったとはいえ、小型犬を庭で飼育したり、不妊・去勢手術をしないまま猫を自宅と庭で行き来させていたりする飼い主さんも少なくはありません。

警戒区域内の捕獲機に入った犬。「元気くん」と名付けられ、その後は新しい飼い主さんと出会えたそう

「だから、まだまだやるべきことはたくさんあって。保護猫カフェを運営しているのも、啓発活動の一環という側面もあります。犬猫を飼育したい方に直接お話をすることができて、飼育方法なども伝えられますから」

「保護活動に身を投じたことを後悔してないですか?」と率直に聞いてみると、「やってよかった、後悔はまったくしていません」と鈴木さん。

「活動を続けていると、関わってくれる人が増えたり、すばらしい飼い主さんに出会ったり、希望が見えるときがあるんです。保護犬猫と暮らしたい、と思う方も確実に増えていますし、犬猫への向き合い方も良い方向に変化しています。だから私が『生かされた道』は間違ってはいなかったと、今は言えるんです」

最初は一人で始めた活動も、今は30名のボランティアさんに支えられている

いわき市の殺処分ゼロも見えてきた!?

 そして、うれしい兆しも。

「先日いわき市の行政の方に聞いた話なので、まだ具体的な数字は来年になりますが、犬は限りなく殺処分ゼロに近づいているようです。そして、猫もがんばれば処分ゼロが遠くないと思える数になってきました」と、声を弾ませる鈴木さん。

 鈴木さんは、保護以外にTNR活動(*)にも精力的。毎月100匹近く、年間にするとおよそ1000匹もの猫のTNR活動を行っています。鈴木さんの想(おも)いに賛同した獣医師さんが毎月4~5人訪れ、1、2日かけて手術をしています。

月に1度、定例で実施されている猫の不妊・去勢手術。その数なんと、年間約1000頭。想いのある獣医さんとの出会いも

「活動を始めたころは『殺処分ゼロ』なんて口に出すのも怖かった。口に出すと達成しないといけないですから。それほど遠い状況でした。だけど、もう少しで見えてくる。これはもちろん、私だけの頑張りではないです。たくさんの方の想いがカタチになっていると言えますね」

*TNR活動とは:T=TRAP(つかまえる)、N=NEUTER(不妊手術する)、R=RETURN(もとの場所に戻す)の頭文字。繁殖力の強い猫のバースコントロールを行うことで、不幸な命を生み出さない活動

命は救えてきた。次は動物の感情に寄り添いたい

 目の前に露頭に迷う犬猫がいたら、見なかったことにするのか、手を差し伸べるのか。手を差し伸べる覚悟をしたとしても、12年間も続け、そして今後のことも見すえている鈴木さんに、想いの深さを感じます。実は、日本全国に、こういった強い想いを持って保護活動に没頭している方がいます。その想いに共感し、何かできないかと心ある方が増えていけば、殺処分はどんどん減ってきています。

警戒区域内で生まれて保護した「ヤマトくん」(右)と「ミコちゃん」。社会化期に野犬として育ったため、警戒心が強い。譲渡はせずLYSTAの犬として暮らしている

 ただ、アニドネとしては、「殺処分ゼロ」は道半ば。殺処分は当然なくすべきことであると同時に、次の段階として、動物の感情をいかに理解し、サイコロジカルに動物を取り巻く環境を変えていけるかが大事だと考えています。想いを同じくする方々と、次のステップを早く登りたい、と強く思っています。

(次回は5月5日公開予定です)
【前の回】動物虐待に立ち向かう動きが活発化 「虐待かもしれない」と感じた時にできること

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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