動物虐待に立ち向かう動きが活発化 「虐待かもしれない」と感じた時にできること
公益社団法人「アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。sippo読者の愛犬愛猫さんたちは溺愛(できあい)されているに違いないと思いますが、世の中には真逆の状態に立たされている犬猫がいます。保護活動を後方支援するアニドネには、日々虐待まがいのレスキュー案件の情報が入ってきます。法律的には所有物である犬猫たちは、あきらかに虐待をされていても、すぐには救い出せません。しかしながら、昨今この虐待に立ち向かう頼もしい動きが出てきました。あなたのお隣でも動物虐待が起こっている可能性があります。気づいてしまった時、あなたには何ができますか?
動物虐待の検挙数。10年前はわずか29件が令和3年は170件
警察庁生活安全局が毎年発表している動物虐待事犯の検挙事件数は、近年増加傾向にあります。直近では170事件、その前年は102件なので「大幅に増加」となっています。しかし、私からすればそれは氷山の一角だと感じています。なぜなら、アニドネが支援する保護団体さんから救いだされる犬猫たちは、劣悪な環境下での飼育により骨折が放置されていたり、不衛生な多頭飼育により被毛がはげていたりと、悲惨極まりない状態での保護を多く目にしているからです。それらは、検挙されているわけではなく、民間保護団体や行政などの努力によって救い出されています。
そもそも虐待とは?
環境省 動物愛護管理室のHPには次のように書かれています。「動物虐待とは、動物を不必要に苦しめる行為のことをいい、正当な理由なく動物を殺したり傷つけたりする積極的な行為だけでなく、必要な世話を怠ったりケガや病気の治療をせずに放置したり、充分な餌や水を与えないなど、いわゆるネグレクトと呼ばれる行為も含まれます」。
つまり、殺傷するようなわかりやすい虐待はもちろんですが、満足に食事や水を与えないといった日常のお世話を放棄することも虐待なのです。今年の冬の寒さで凍死した外飼いの犬や地域猫もいます。そう、思った以上に虐待は身近なところに転がっていて、他人事ではない深刻な問題なのです。
北海道旭川市で始動。LINEのAIチャットボット「虐待ホットライン」
アニドネが支援をしている保護活動団体で、旭川市に拠点がある「特定非営利活動法人 手と手の森」はこういった状況に新たな施策を打ち出しました。それは、LINEのAIチャットボットを使った虐待ホットラインです。一般市民が「虐待かもしれない」状況に出会ってしまったときに、どこに問い合わせをすればいいのかを誘導してくれる仕組みです。3月5日から無料で利用することができます。
なぜ虐待問題に真っ向から向き合うことにしたのか?
「特定非営利活動法人 手と手の森」代表理事である本田リエさんに、この根深い問題に取り組む想いを聞いてみました。
本田さん――「保護活動をしていると、虐待問題にどうしても向き合わねばならないときがあります。例えば、2019年6月に札幌市で、女児(当時2歳)が衰弱死する悲惨な事件がありました。シングルマザーの母と交際相手は逮捕、起訴、傷害致死と保護責任者遺棄致死の罪に問われています。その家では、成猫と子猫計13匹を飼育していて、私共と札幌市の『特定非営利活動法人 ニャン友ねっとわーく北海道』さんで協力をして全匹保護しました。つまり人間と動物の暴力の根源はつながっており、動物問題だけではないことがわかります。ですから、虐待問題には行政や警察組織と共に活動することが大変重要だと考え、今回は旭川市動物愛護センター『あにまある』・上川支庁動物愛護担当課・北海道警察本部動物虐待担当課と、私たちNPOが連携する仕組みを提案し協力体制を整備しながら推進しております」
「実は、ホットラインの準備中に以前私共のNPOで保護譲渡した犬が虐待で命を落とすという、信じがたい事件が起きました。大変ショックで……。このホットラインがあったら救えたかもしれない。どんなに苦労をしても仕組みを作って、犬猫はもちろんのこと虐待をせざる得ない状況に陥ってしまっている飼い主さんも救いたい、と覚悟を決めての活動開始です」
スタートアップ時は旭川市のみの活動ですが、今後は札幌市のニャン友ねっとわーく北海道さんなどにつなげる流れを構築中。虐待動物を一時的に預かることができる獣医関係の方々、虐待案件を解決しようと奮闘している保護団体の方々などの心ある同志を募集し、全国展開を計画しています。
「どうぶつ弁護団」に集まる虐待の声
昨年11月に立ち上がった「特定非営利活動法人 どうぶつ弁護団」の代表である細川弁護士に活動の成果を聞いてみました。
「私たちのWEBサイトにある虐待案件の相談フォームには全国から約70件の相談が寄せられています。案件の重要度はさまざまです。そんな中で、昨年12月8日には、弁護団として第一号となる刑事告発状を大阪府警茨木署に出しました。被害にあったのは、大阪府茨木市内にいる日本猫の『福ちゃん』(オス/推定4~7歳)。地域猫として多くの住民にかわいがられていたようです。ある日、保護活動をしているボランティアの女性が左目に大きな釣り針が刺さっているのを見つけました。しかも一度ではなく複数回の釣り針が刺さった跡もあり、故意に傷つけられた可能性が高いと判断し、動物愛護管理法違反容疑で告発しました。犬猫には感情があります。痛みも感じます。しかしながら人間の言葉は持ちません。モノ言えぬ動物たちを代弁し、私たちが護(まも)る使命で活動を開始しました」
どうぶつ弁護団のHPには、虐待情報の提供フォームがあり、質問に答えていくと弁護団に情報を送ることができます。写真や動画、診断書など、虐待を裏付けるような資料があると判断しやすいそうです。
動物への熱い想いと冷静な判断でアクションを
5年ごとに見直される動物愛護管理法では、毎回のように虐待に関する罰則が強化されています。細川弁護士によると「このように倍々で罰則が厳しくなる法改正は、他の法律ではあまり見られません。つまり近年の動物愛護や福祉に関する声の高まりを反映していると言え、かつ日本の動物法が世界基準とマッチしてなかったことの現れだと言えます」とのことでした。
なるほど。今こそ、動物虐待にNOを、その時がきたのでしょうか。筆者としては、2019年の動物愛護管理法の改正で、虐待に関して獣医師による通報の義務化がされたこともよい潮流だと思っています。
虐待に対する理解の高まりと許してはいけない(当たりまえであるが)気運は日本の動物福祉向上につながっています。読者のみなさんにお願いしたいのは、他人事ではなく自分の身の回りで起きている日常問題であることを認識してほしいのです。犬猫という伴侶動物たちが心地よく過ごす環境を整えてあげることは、人間にしかできないこと、使命だと思います。そのために、保護活動のプロや弁護士たちも熱い想いを持って動き始めています。アニドネとしては、全国に広がるよう後方支援や情報サポートを続けていきたいと思っています。
(次回は4月5日公開予定です)
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