「保護犬」の柴犬の迎え方 安心できる場所を提供し、見守ることから始めて
新たな飼い主さんを待つ保護犬のなかに柴犬が増えていることを知っていますか? コロナ禍に癒やしを求めて柴犬を飼ったものの、想像とは違う暮らしに「こんなはずじゃなかった」と手放してしまう人がいるからです。一方、これから保護犬の柴犬を迎えようと検討している方もいますよね。
保護犬は新しい環境や家族に慣れるまでは緊張していておとなしく見えるため、「まるで猫をかぶっているようだ」という人もいます。柴犬については「警戒心が強いので息を潜めるように様子を伺いますが、飼い主さんの寄り添う気持ちがあれば懐いてくれます」と獣医師の山下國廣先生。今回は保護犬の柴犬の迎え方紹介しますが、すでに柴犬と暮らしている方も改めて柴犬について知る機会にしてくださいね。
柴犬を手放す飼い主が多い理由
「犬とスキンシップをとって癒やされたい」と思って、犬を飼い始める人は少なからずいます。ところが飼い主さんが柴犬に求めるもの(濃厚な触れ合い)と、柴犬が飼い主さんに求めるもの(距離感のある仲間意識)が食い違っている場合、「こんなはずじゃなかった」と手放されてしまうケースがあります。
コロナ禍で飼い主さんの在宅時間と共に柴犬と接する時間も増えたことで、食い違いの溝がますます広がっています。自立性の強いタイプの柴犬にとって、ひとりで落ち着く時間や空間がない生活はストレス。「ひとりにしておいて」「いちいち触らないで」と人に伝えるためにうなったり歯をむいたりすることもあるのですが、人の目には問題行動のように映って手放されてしまう一因になっています。
また、柴犬は成長と共に内面もおとなになっていくため、いつまでも子犬っぽいかわいらしさを期待していた人には「こんなはずじゃなかった」と飼育放棄されることも。飼う前に柴犬の特性を知っておいてほしいと思っています。
保護犬を迎えるときはリハビリを担う気持ちで
保護犬は、家庭で愛情深く育てられた犬ばかりではありません。むしろ生活環境に恵まれず、正常な成長過程を経ていない犬のほうが多いのではないかと思います。保護犬は何らかのトラウマを抱えて、新たな環境に慣れるまでに時間がかかることもあります。
できれば犬の生い立ちを確認し、それまでの生活環境に近い状態から新たな家庭での暮らしをスタートさせましょう。「犬を飼い始める」というより「犬のリハビリを担う」と考えたほうがうまくいきます。自分や家庭で保護犬の柴犬を迎える準備ができているかチェックしましょう。
[保護犬の柴犬を迎える前に知っておきたいこと]
□ 犬のスペースを確保できる
□ 毎日散歩に連れて行ける
□ 子ども代わりではなく犬として尊重できる
□ 過剰なスキンシップを求めない
□ できる限りバックボーンを確認する
□ リハビリの過程を楽しめる
□ 犬を観察して気持ちの理解に努める
□ 犬が怖いもの・嫌なことを見つける
□ 犬が好きなもの・好きなことを見つける
保護犬が新たな家庭で「愛犬」になるまで
柴犬は誰にでもフレンドリーな犬種と違って、一定の月齢を超えれば人に対して親しさのランクをつけます。野生動物の性質を残す柴犬は,動物が生き抜くために必要な観察と判断を繊細に行っています。
全面的に心を開いていい人、親しいがうっとうしい人、一緒に暮らしているが信用しきれない人、嫌なことをしてくる敵対的な人、会ったことがあって行動の予測がつく人、初対面だが安全そうな人、初対面で危険かもしれない人……と、人間同士と同じように細かく分けているようです。
保護犬だった柴犬を迎えたときに、「今日から私が飼い主です。あなたは私の大切な愛犬です」と言っても通じません。まずは柴犬に安心できる場所を提供し、見守ることから始めて信頼を得てください。
しつけよりも家庭に慣れることを優先する
恵まれない環境で過ごしてきた保護犬は、初めて見たり触れたりしたものに恐怖を感じることがあります。人間社会で暮らす犬のストレスを減らすために「社会化トレーニング」が必要です。
ただし「ドッグランで遊べるようにする」「シャンプーをできるようにする」と先に目標を決めるのではなく、犬に無理をさせないように少しずつできることを増やしていきましょう。いろいろな方法を試しても「これ以上は無理」という限界が見えてきたら、生活環境や生活習慣を犬に合わせることも愛情だと思います。
柴犬は新たな飼い主の前で猫をかぶる?
柴犬のような警戒心の強いタイプは、新たな家庭に迎えられてもしばらくは緊張して本性を表さないかもしれません。それが「猫をかぶっている」と言われることでもありますが、意図的におとなしくしているわけではないのです。飼い主さんが自分の家族や仲間であり、この場所が自分のすみかだと思うようになれば、自然に肩の力が抜けてきます。
リラックスできるようになったときは、緊張を解いて甘えるように体を預けてくるかもしれませんし、逆に自己主張をしたり攻撃的になったりするかもしれません。子犬のころにやんちゃぶりを発揮できなった犬は、じゃれたりいたずらをしたりするようになることも。自分を解放してくれること自体は良い変化ですが、危険がないように環境を整えてくださいね。
注意が必要なのは、攻撃性が出てきた場合。犬は何かを恐れているときに攻撃的になりやすいので、飼い主さんが知らずしらずのうちに犬のトラウマに触れることをした可能性が高いのです。専門家に相談して、恐れているものを探って安心させることが大事です。
心を開いてくれた柴犬との暮らしは格別
保護犬を迎えたら「スキンシップに飢えているだろう」と決めつけて、むやみになでたり抱きしめたりするのは禁物です。柴犬の場合、かえってストレスを与えてしまいます。コミュニケーションの基本は人も犬も同じ。「自分が何をしたいか」ではなく、「相手は何をされたいか」を考えることが大切ですよね。
ただし、犬におねだりされたからといっておやつを与えるのはやめましょう。その場しのぎで犬の要求に応えていると、いつか応えられないときには強い不満を感じるようになります。気持ちを押し付けたり一時的な感情で接したりするのではなく、犬の生涯の幸せを考えてたくさん愛情を注いでくださいね。
警戒心が強い柴犬にとって途中で家族が変わることは他犬種以上に難しい面もありますが、心を開いてくれた柴犬との暮らしは格別です。保護犬を迎えたらハッピーエンドではありません。そこからが始まりなのです!
【前の回】柴犬ともっと仲良くなるには「飼い主が犬になる」 気持ちがわかれば共感を得られる
- 監修:山下國廣(やました・くにひろ)
- 獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。
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